国会図書館が136万円払った「亞書」騒動を振り返る

    「受け入れ判断は適切だった」としているが……

    国立国会図書館が、判読不可能な本をお金を払って収集していた。ギリシャ文字などがランダムに並ぶ「亞書(あしょ)」78巻で、その額なんと136万円。だが価値のない本を高値で売りつける行為だとネットで非難が高まると、本を返して返金を求めた。なぜ、こんなことが起きたのか?

    「亞書」とは?

    国立国会図書朝日新聞の報道によると、亞書は、架空の人物アレクサンドル・ミャスコフスキーが筆者で、定価は1冊6万円(税抜き)。昨年3月ごろから10月に、国会図書館に第1巻から78巻が郵送された。480ページにギリシャ文字やローマ字などが並ぶ。同じ内容のページも複数ある。

    発売元は、株式会社りすの書房(東京都墨田区)。2013年3月に設立され、代表取締役の男性が1人で運営していた。

    国会図書館は当初、送られてきた亞書を出版物にあたると判断。出版や納入にかかった費用として、78巻のうち42巻分について、136万円を支払っていた。

    後世に伝えるため?

    国会図書館は、図書や雑誌などの出版物を集めている。「国民共有の文化的資産として、広く利用に供し、永く後世に伝える」(国会図書館広報)ためだ。

    そのため、国立国会図書館法は、出版したら30日以内に「最良版の完全なもの一部を国立国会図書館に納入しなければならない」としている。正当の理由がなく納入しないと、最高で価格の5倍の罰金を払わなければならない。ただ、これまで罰金を課した例はない。

    その代わり国会図書館は納入元に対価を一部払う。代償金と呼ばれ、告示で小売価格の4〜6割と決めており、通常は5割を渡す。亞書を送った「りすの書房」に対して、6万円×消費税8%×42巻÷2=136万800円と、送料を払っていた。

    国会図書館は2014年度、出版物15万2千点に対して3億9千万円を支払った。といっても計32万3千点受け入れているので、過半数は無償だった。

    支払いは適切だった?

    問題は、亞書が出版物に当たるのか、だった。出版物とは「頒布を目的として相当部数作成された資料」を指す。書店などで不特定多数に向けて、100部以上を売っていることが条件となることが多い。

    確認はアマゾン

    国会図書館の広報は「亞書が販売されていることは、アマゾンで確認した」とBuzzFeed Newsに話した。制作費がかさむ「オンデマンド出版だ」という説明を受けて、6万円という価格も妥当だと判断したという。

    だが、昨年10月ごろからネットで「亞書」の存在が話題になり始める。

    アマゾンで謎の本が売ってると一部でネタになってるけど、本当に何の本かわからない!怖い!アレクサンドル・ミャスコフスキーという著者の「亞書」、現在80巻で一冊64,800円!版元の亞書刊行會はHPもないし、検索しても出て来ない。 https://t.co/EkGo81uptm

    1より 「https://t.co/JpA4kH2yZE 『亞書』という一冊64800円の本が90巻以上、どれも今年に発売されている 亞書刊行会という出版社もアレクサンドル・ミャスコフスキーという著者もググっても何も出てこない 内容も出版意図も全てが謎のシリーズ」


    Amazonに売ってる「亞書」とかいう謎に包まれた商品 出版社名も、作者名を検索しても何も出てこない

    騒動を受けて国会図書館は、電話と面談で、出版の経緯や販売部数を聞き取った。BuzzFeed Newsは聞き取りの内容について納本担当者に電話で質問したが「内容は先方の営業秘密」と非公表だった。

    広報担当者は「何かの言語だろうと思っていた」と話す。文字がランダムに打たれているとわかり、「文章とは言いがたく、図画でもないために、出版物ではないと結論づけた」という。2月2日に返本し、返金を要求した。

    国会図書館はBuzzFeed Newsの取材に「当初の受け入れ判断は適切だった」と説明した。これまでは「読めないもので、イラストでもないものを受け入れた経験はなかった」という。

    ただ今後は、再発防止のため「怪しいものは、収集の担当課を超えた複数メンバーで議論する検討会を始めた」と話す。目録をつくるときに再度、価格や内容の妥当性を確認するようにした。

    一方、りすの書房は2月2日付けの文章を掲載。昨年11月20日に解散しており、136万円を返すと公表している。