「そういう人でも、死んだら寂しい」月収10万円、37歳の吐露

    普通の生き方から外れたら、それで終わりなのか。

    2013年以降は減少しているとも指摘される「ニート」。完全失業率も改善の傾向をみせるが、なかには、いわゆる「普通の生き方」ができず、定職に就かない / 就けない人もいる。

    「普通」からこぼれた人たちとどう向き合えばよいのか。「セーフティネットはもっとあってもいい」「今の環境がつらかったら逃げてもいい」と説く元ニートのphaさんを訪ねた。

    「だいたい暇な日が多い。午後くらいがちょうど良いです」と聞き、平日の昼過ぎに足を運んだ。倉庫のようなシェアハウスで生活するphaさん。9年前に仕事を辞めてから、定職には就いていないという。

    玄関はなく、入り口のすぐそばにコタツが置かれている。「どうぞ」。足を入れ、今の暮らしについて聞いた。同居人は2人。一緒に食事をすることもあるが、予定を合わせることはほとんどないという。テーブルの上には、飲みかけのペットボトルや使用済みの箸が残っている。

    月収は10万円ほど。ブログや本の執筆などで生計を立てている。書くことは好きで、文章に関わる仕事はだいたい引き受ける。話を聞いているときも、ときどきノートに落書きをしていた。

    京大在学中の就職活動はうまくいかなかった。あまり働きたくなかったというphaさんは卒業後、半年ほど経ってから「適当なところに就職した」

    事務員として3年。暇そうじゃないかと思い就職してみたら、やっぱり暇。それでも仕事を続けるのは難しかった。「ずっと辞めたいなと、入った時から思っていた」

    ブログには「『隕石でも落ちてきて会社が潰れればいいのに』とかそんなことばっかり考えていてしんどかった」とつづった。通うこと、会社にいることが耐えられなくなった。

    辞めるきっかけはインターネットだった。「ネットがあれば、孤独にならないというか、知り合いは作れるし、いつになっても孤立せずに……というのが大きかった」

    それから約9年。古本の転売、治験など、さまざまな「仕事」で食いつないだ。ふらふら生きている先輩がいると、教えてもらったりするんですよねとphaさん。どこで出会ったのか尋ねると、「ネットです」と答えた。

    「ときどき猫が入ってくるんです」。部屋の隅には寝床のテント。周囲には衣類が散らかり、約4畳ほどのスペースに生活用品がほぼ全て置かれている。これからもっと物を減らしていくという。

    決して豊かとはいえない暮らしだが、将来的な不安はないのか。「あんまりないですね」。50〜60歳になったことについても、なってから考えると話す。口調はおだやかだ。

    今のところ生活に困ってはいないが、周囲には働いていない人、働けず生活に困っている人も多いという。生活保護を受けるケースもある。「みんなギリギリでやってて、生活保護を受けずにすむなら……という人がほとんど」と言う。

    回復したり、仕事のメドがついたら抜ける人も多いが、中には生きづらさを抱え、死を選んだ知人もいる。「結構ね……しょっちゅう誰か死ぬなあという感覚はあります」。猫がにゃあと鳴き、コタツの天板で横になる。手を伸ばしてその頭を撫でる。

    社会には、生きること自体が苦痛に感じる人もいると話す。それでも死にたくないから、生きていくしかない。

    ベーシックインカムの理念は「あり」

    Twitterのフォロワーから、猫のエサを差し入れとしてもらうこともある。インターネットのゆるいつながりが助けになる。「働けなくても、すごいダメでも、最低でも死なないぐらいのことはあってもいいんじゃないか」。ベーシックインカムには肯定的だ。セーフティネットは多いほうが良いと話す。

    一方で、社会保障制度には予算が必要だ。財源維持のための具体的なアイデアはないとしながらも、「社会全体で負担する方向に行くしかない」と述べる。

    今までの日本では、家族が病人や社会不適合者などの働かない / 働けない人たちの面倒をみていたと指摘。

    「時代の変化につれ、家族というものの結びつきも昔より弱くなってきています」

    実家が嫌いで家を出た。家にいたときのことは、あまり覚えていない。

    普通の生き方と、そこから外れた生き方。「普通のところにいたほうが楽なんじゃないでしょうか」と彼は言う。「普通のところで生きていけないって人が仕方なく、別の生き方を探すってもんだと思う」

    「普通」から外れた人の内面は分からないとphaさん。それでも、働きながらも死にたいと口にする人、働いている以外はずっと酒を飲んでいる人がいる。「そういう人でも、死んだら寂しい。なんとかギリギリ生きていけたらと思う」

    「生きづらいと感じている人が読んで、楽になれたら……」と本を書く。あくまでも自分のためとしながらも、「参考になるのであれば」

    変化について、僕の本とかを読んでこういうのもありじゃないかという人がじわじわと増えて、それで少しずつ変わっていってほしい。運動とかをやってもっと早急に変えようとする方向もありだけど僕はそういうの向いてないし、それだけが方法じゃないと思う。雰囲気とかを伝染させていきたい。

    普通に生きることも厳しいし、そこから外れることも別の厳しさがある。

    「(普通に生きることが)ダメって人は、一定数は絶対に出るものなので、そういう人たちの生き方はもうちょっとあってもいいと思います」

    phaさんは、うつむきがちにこうつぶやいた。「死ぬくらいだったら、なんでも生きてりゃいいと思うんです」

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