不倫された「責任の一端」ってなんだ? 弁護士に聞いてみたら一刀両断

    夫婦には「相手に不倫させない義務」があるのか。法の専門家が詳細に解説。

    不倫を報じられた乙武洋匡さんが、妻の仁美さんとともに謝罪文を公開した。その中で、仁美さんのコメントにあった「妻である私にも責任の一端があると感じております」という一節は注目を集めた。不倫された「責任の一端」とは。夫婦には、相手の不倫を食い止める義務があるのか。

    男女問題を数多く扱っている、打越さく良弁護士に話を聞いた。

    ——法的に考えた場合、不倫をされた側に責任はあるのでしょうか。配偶者に不倫をさせない義務は......。

    ありません! 一体どんな義務ですか……。配偶者を一人で自由に出歩かせない、旅行に行かせない、常に監視下に置くとかですか。そんなものがあったとすれば、苦笑するしかない。ものすごい義務でしょうね。

    夫婦には、相手方に自分と同じ程度の生活を保障する「生活保持義務」など、同居して互いに協力・扶助する義務(民法752条)があります。夫婦間で衣食住等の費用を出し合う「婚姻費用分担義務」(民法760条)もあります。

    また、夫婦は互いに貞操義務を負うともいわれています。これは、不貞(肉体関係)が離婚原因になるという民法770条1項1号により、導かれる義務です。

    でも、「相手に不倫をさせない義務」は考えられません。

    ——不倫の肉体関係を法律では不貞行為と呼ぶんですね。不貞を追及された人が、「あなたにも落ち度がある」「相手にも責任がある」と言い出すケースはありませんか?

    乙武さんのように「妻が母になり、夫婦らしさみたいなものが次第に失われていって」といったことを口にする男性は、少なくないと思います。ただ、それは、妻がちょっと態度を改めてくれたらよかったんだよ、という自分勝手なつぶやきにすぎないと言いますか……。

    慰謝料をめぐる争いで、不貞をした側が、当時すでに不仲で婚姻関係は破綻していたと主張することはよくありますね。でも、夫婦関係の破綻は、別居しているといった事情がない限り、なかなか立証できません。

    自分勝手なつぶやきのように、細かなエピソードを持ち出しても、裁判所が「なるほどね、だったら不貞はしかたなかったよね」と判断することはありません。良識ある弁護士がついていれば、そんな主張を裁判で堂々と展開することにはならないように思います。

    ——不倫の法的な責任は、誰がどんな風にとることになるのでしょうか?

    法的な責任は、不貞をされた側が何らかの請求をするかどうか、という話になります。

    不貞行為は、民法770条1項5号で定められた離婚原因になります。不貞をされた配偶者は、不貞をして婚姻関係を破綻させた有責配偶者に対して、離婚請求することができます。

    不貞をされた配偶者は、不貞をした人とその相手の人に、慰謝料を請求することもできます。不貞の慰謝料を請求する裁判は、件数がとても多いですね。

    ——不倫をされた側がしていたことが、慰謝料の額に影響を与えることはあるのでしょうか?

    たとえば、夫が不貞した妻を訴えた裁判で、夫が風俗店に行っていたため、慰謝料が減らされたケースがありますね。裁判所は、婚姻が破綻した原因が妻の不貞だけとはいえないとして、請求額440万円に対して、150万円だけを認めました(東京地判平成25年3月22日未公表)。

    ——そのような話を前提にすると、今回の謝罪をどう見ますか。

    まず、不貞それ自体は夫婦間の問題で、私たちのような部外者が口を出すことではありません。法的には、妻の仁美さんが何らかの請求をするかどうか、という話になります。

    ただ、連名で謝罪したことには、強い違和感を覚えました。女子会の毒舌ノリでツッコミたくはなりましたね。

    ——どんな風にですか?

    「妻が母になり、夫婦らしさみたいなものが次第に失われていって」「自分の弱さと言いますか、癒しを外に求めてしまいました」なんていう乙武さんの言い草は、本当に勝手だなあと思いました。

    それに、乙武さんが「癒しを外に求め」海外連泊までして、父としての子育てを放棄している間、仁美さんは子どもたちと家に残っていたわけで……。協力して子育てすることこそ夫婦らしさだろう!とか。

    乙武さんに迷惑かけられているわけでもない第三者としては、「多くの方にご迷惑、ご心配をおかけして、たいへん申し訳ございません」と言われても一体誰に謝っているの、仁美さんに言えばいいことなのになぜネットなんかに公表しているの、という気がしました。

    また、仁美さんが「妻である私にも責任の一端があると感じております」「本人はもちろん、私も深く反省しております」「誠に申し訳ございませんでした」と、不特定多数の読者にひたすら謝罪しているのも、弁護士としては理解に苦しみました。