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収容施設で描かれた1枚の絵。「私も他の人と同じ人間」、この絵が訴えること

入管施設内に収容されているあるトランスジェンダー女性は、トランスジェンダーであることを理由に、別室に隔離され、自由時間も大幅に減らされていると語ります。

一人のトランスジェンダー女性(28)が、東京出入国在留管理局(東京都港区)の収容施設内で、個室に隔離されている。

隔離されている理由は「トランスジェンダーだから」。

他の収容者より自由時間も約4時間短く、他の女性収容者とは自由時間もずらされているため、面会以外では職員以外の誰とも、ほぼ会えない状態だ。収容期間は7月で、ちょうど1年間になる。

BuzzFeed Newsは、面会などを通して話を聞いた。

このトランスジェンダー女性は、保持している在留資格の期日をすぎて、不法に日本国内に留まっている状態のオーバーステイ(超過滞在)などを理由に入管に収容されている、フィリピン人のパットさん。

「トランスジェンダーであることに『罰』を受けているみたいです。なんでトランスジェンダーであるという理由だけで、このような扱いを受けるのでしょうか」

パットさんは、そう思いを吐露する。

通常、収容所内では数人が1つの部屋に収容されてるが、パットさんは、ジェンダーを理由に、他の女性の収容者とは同室にされず、隔離されている状態だ。

収容者は通常、洗濯やシャワーなどをするための自由時間が午前と午後で計6時間あるが、パットさんの場合は2時間のみで、他の収容者より大幅に少なくなっている。理由は告げられていない。

自由時間も他の人と被らないように設定されていることもあり、パットさんは隔離された部屋で1人で過ごす生活を約1年弱強いられている。パットさんはそのため、精神的苦痛を感じている。

これは、パットさんが描いた、隔離された収容所内の部屋と自身だ。

部屋の中にはトイレとテレビなどが描かれ、涙を流すパットさんの周りには「LGBT」「ALONE(1人きり)」「TRANSGENDER(トランスジェンダー )「BOYS X GIRL(男 X 女)」などの言葉が記されている。

窓の絵の上には「NO PLACE FOR LGBT IN IMMIGRATION(入管の中にLGBTの居場所はない)」と書いた。

パットさんはBuzzFeed Newsに対し、こう語っている。

「なぜトランスジェンダーだからという理由で、隔離されるのか分かりません。入管の人たちはLGBTやトランスジェンダーについて正しい理解がないと感じます」

「私は今、こうして隔離されて辛い思いをしている。けど、これは入管の収容施設の問題であるし、入管に今後収容されるトランスジェンダーの人も同じ経験をするかもしれない。私が今、声をあげるのは、入管でのLGBTやトランスジェンダーへの理解の向上のためです」

「ずっと人権侵害の状態に置かれている」

パットさんは日記にも、入管のトランスジェンダーやLGBTへの不理解について、英語でこう綴っている。

他の女性と同じフリータイムを私にも許可してください。現在、私には1日に2時間しかフリータイムがありません。2時間のフリータイムでは何もできません。運動も、電話も、シャワーも、洗濯も。

(収容されてから)ずっとこうした人権侵害の状態に置かれています。これはLGBTの権利の侵害でもあります。私も他の人と同じ人間です。他の人と同じように私を扱い、他の人と同じフリータイムをください。

人と接することが出来ない隔離に苦しむパットさんは、「いつも1人で、死ぬことも考える」とも話す。

長く中断されたホルモン治療

トランスジェンダーであることを理由にした隔離や自由時間の削減のほか、パットさんを精神的にも肉体的にも苦しめたのが、ホルモン治療の中断だ。

パットさんは、6年前からホルモン治療を受けているが、収容されてからはホルモン剤を摂取することができずにいた。

突然、ホルモン治療をストップすることで、体調不良が続いていたという。

日記では「私は今、性別移行中のトランスジェンダーなので、ホルモンの薬が必要。ホルモンの薬をいきなり飲まなくなると、体がおかしくなる」と、心身ともに「辛い」と綴っていた。

収容所内で8カ月以上にわたり、体調不良と病院への診療、ホルモン治療を再開できるように改善を訴え続け、4月にようやく受け入れられた。

病院で診療を受け、ホルモン治療を再開することができたという。

母国で経験した差別と性暴力

パットさんの父親は、パットさんが子どもの頃に来日し、日本で生活していた。その父親がガンで余命宣告を受け、最後に会うために2015年に来日してから、オーバーステイとなっていた。

そのことについては、日記でも「本当にごめんなさい。もし外に出たらボランティアもやりたい。すみません」と反省の思いを綴っているが、今後、フィリピンへ強制送還となる可能性もある。

もしフィリピンへ強制送還となったら、パットさんが恐れているのは「フィリピン社会からのトランスジェンダーへの差別」だと語る。

パットさんはBuzzFeed Newsに、「フィリピンでは、トランスジェンダー女性として生きていくことが難しい」と語った。

LGBTにオープンなイメージがあるフィリピンだが、国民の8割以上がカトリック教徒で、宗教上の理由からLGBTの人々を否定し、差別意識を持つ国民は少なくない。

若い世代を中心に、少しずつLGBTの人々への理解も深まり、2016年の下院選挙ではフィリピンで初となるトランスジェンダーの国会議員も当選するなどの変化も見られる。

一方で、トランスジェンダー女性を標的にした、殺人事件や暴力事件などが頻発していることも事実だ。

パットさん自身も学生時代、フィリピンで性的暴行を受けている。

今でもそのことが、心に影を落としている。

他の家族のメンバーは、日本で永住権などを得て生活しており、「まだ小さい兄弟のために、力になりたい」とも語った。

「規律や秩序を大切にしつつ、総合的に判断」

出入国在留管理庁の警備課担当者は、トランスジェンダーの外国人の入管での収容や配慮について、BuzzFeed Newsの取材に対し、こう語った。

「トランスジェンダーの人々を含む全ての収容者に対し、人権に配慮した適切な処遇をとっています。トランスジェンダーの収容に関しても、戸籍上の性に関わらず、保安上の支障がない限り、本人の要望や考えなどを聞いて配慮しています」

一方で、パットさんのようにトランスジェンダーの収容者が個室へ隔離されたり、本人の性別自認と異なる性別の収容者と同室になっているケースがあるかと尋ねたところ、このように回答した。

「その方の身体的な特徴やお考え、ご意向など情報を集め、他の収容者への配慮も必要なため、双方に配慮した上で規律や秩序を大切にしつつ、総合的に判断しています」

「そのため、個室に入るという処遇をしている人もいますし、戸籍上の性の収容者と共に収容されている人もいます」

また、トランスジェンダーの収容者のホルモン治療に関しては、このように説明した。

「様々な病気など、医者に診てもらい判断を仰いでいます。トランスジェンダーの収容者に関しても、話して頂ける限りで本人に聞いて、治療を必要としていたり、おくすり手帳などを持っていれば、医師が診察した上の指示で外部の病院にも行き、必要な薬が処方されることもあります」

実際、トランスジェンダーの収容者をめぐっては、パットさんの他にも問題を指摘している当事者がいる。

ペルー出身で、トランスジェンダー女性のナオミさんは、本人の意思に反して、男性複数人と同室で収容されていた。

愛知県名古屋市の入管収容施設や茨城県牛久市の東日本入国管理センターで計4年にわたり収容されていたが、ずっと男性と収容されていた。

今年1月に都内で開かれた会見で、ナオミさんは「私はトランスジェンダー女性だと認められず、男性と収容されていました。入管の職員や、共に収容されている男たちに嫌がらせを受けました」と話していた。

施設内には理解のない収容者もおり、ナオミさんと同室は嫌だと言われたこともあったという。職員は、ナオミさんがトランスジェンダーだと分かっていたが対応はせず、そのまま男性の収容施設に計4年入っていた。

石川議員「非常に問題」

ゲイであるとセクシュアリティを公表し、LGBTの人々が直面する社会課題に取り組む石川大我・参議院議員は、BuzzFeed Newsの取材に対し、こう語った。

「性自認が女性である性同一障害の当事者を、男性と一緒に収容するのは、極めて問題です。また、東京入管のトランスジェンダー女性も、いわゆる独房というような、他の人と接せられない状況の中で、休み時間もかなり少ない状況で、しんどい思いをされていると聞きました」

「(入管は)LGBTの人たちへの理解がまず必要だと思います。(収容者は)このような収容には耐えられません。日本の入管はトランスジェンダーの方を適切に収容する能力がないのであれば、一刻も早く外にだす(仮放免などにする)べきです」

石川議員は入管施設に収容されている人々の面会に訪れるなどの活動もし、長期収容や入管施設内の処遇改善に向けても取り組んでいる。

そのような活動を踏まえ、石川議員はこのようにも指摘した。

「トランスジェンダーの方たちは周りから差別を受けています。男性の収容所の中に入れられている男性の性同一障害の方のお話を聞くと、口汚い言葉でののしられたり、あるいは同じ狭い部屋で寝ている中で、セクハラを受けたり、場合によっては性行為を強要されたという実態があると聞いています。そこも非常に問題です」

また、収容されているトランスジェンダーの人々が、母国でジェンダーを理由に警察官などから差別や嫌がらせに遭っていたため、「日本に来て自分が当事者だと、入管の人たちに言えない実態もある」とし、このように話した。

「そういった中で、非常に辛い思いをしている人たちがいる。その事実をやはり、しっかり見つめるべきだと思います」


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