マニラに新たな慰安婦の記念碑。日本大使館から1キロの教会に。「二度と起こってはならない」と訴え

    フィリピン・マニラ首都圏の教会内に慰安婦の記念碑が建てられ、除幕式が行われました。

    フィリピンのマニラ首都圏のカトリック教会に、第二次世界大戦時に旧日本軍の慰安婦となった女性のための記念碑が建てられた。8月25日に除幕式が行われた。

    碑が建てられたのはカトリック・バクララン教会の敷地内にある公園。在フィリピン日本大使館から約1キロほどで、マニラ空港にも近い。碑には「第二次世界大戦中の軍による性奴隷と暴力の被害者を記憶する」との言葉が刻まれている。

    フィリピンでは、過去2年間に慰安婦をモチーフにした像が3つ建ち、慰安婦問題への関心が続く一方で、慰安婦問題などで日比関係に波風を立てたくないというドゥテルテ政権の方針もあり、3つのうち2つは撤去された。

    今回の碑は、どうなるだろうか。

    今回の碑には「女性に対する性奴隷や暴力は、いかなる時、場所でも二度と起こってはならないということを思い出させるためにこの碑は建つ」との言葉が刻まれている。第二次世界大戦中の慰安婦問題だけでなく、あらゆる場所での女性に対する性暴力に反対する、との意味だという。

    この碑の設置の中心となったのは、元慰安婦女性を支援するグループ「フラワーズ・フォー・ロラス(おばあさんたちに花を)」。

    このグループは、元慰安婦やその支援者の団体リラ・ピリピーナ、女性団体、中華系フィリピン人グループ、教会関係者などで構成されており、2018年4月に、マニラ湾沿いの遊歩道に設置されていた慰安婦像がフィリピン政府により撤去された際に発足した。

    除幕式には、元慰安婦の女性や、国会議員らも出席したという。

    フィリピンでの「慰安婦問題」

    第二次世界大戦中、フィリピン人女性も旧日本軍による性暴力の被害にあった。旧日本軍は当時10代や20代だったフィリピン人女性を強姦したり、暴力的に拉致・連行して、駐屯地の建物に監禁、強姦を続けたことが証言されている。

    日本の外務省などによると、日本政府が中心となって設立されたアジア女性基金が、フィリピンでも元慰安婦の女性ら211人に対し、「償い金」の支給や医療・福祉事業などを行っている。

    アジア女性基金は慰安婦を「かっての戦争の時代に、一定期間日本軍の慰安所等に集められ、将兵に性的な奉仕を強いられた女性たち」と定義している。

    フィリピンでは、歴史教育に熱心でないことや、日々の生活の厳しさなどから、第二次世界大戦中の被害に対する国民的な関心は高いとはいえず、公的謝罪や公的賠償を求める運動の規模も、韓国などと比べれば小さい。当事者の高齢化も進んでいる。

    それでも、元慰安婦の女性らが被害を語り継ぐ活動などを続けている。女性らは、日本政府による公式な謝罪や、また教科書への記載などを通じ、被害を記憶することを求めている。

    今年の8月14日にも、フィリピン大統領府の近くで抗議集会が開かれ、「終戦から74年経っても何も変わっていない」「慰安婦や軍による性暴力が二度と起こらないように被害の記憶を語り継いでいく必要がある」と訴えた。

    フラワーズ・フォー・ロラスは、中高生や大学生への歴史教育の活動も行なっていることから、碑設置により、フィリピン国内で慰安婦問題への関心を高める狙いもあるとみられる。

    過去2年で3つの「慰安婦像」

    フィリピンでは、慰安婦像や少女像など、慰安婦をモチーフにした像が2017年から国内3カ所で設置された。

    過去2年間に設置された、3つの像について振り返る。

    2017年12月、マニラ湾沿いにある遊歩道に、フィリピンで初めての慰安婦像が設置された。

    像は日本大使館から約3キロの所に位置し、設置に国家歴史委員会というフィリピンの政府機関が関わっていたことから、日本政府は日本大使館を通し、フィリピン政府に遺憾の意を伝えていた。

    2018年4月、この像はフィリピンの政府機関により撤去された。

    少女像は2日で撤去

    2018年12月には、首都圏郊外のラグナ州サンペドロ市に「少女像」が設置されたが、2日後に撤去された。この像は、ソウルの日本大使館前や韓国各地に建てられている少女像と同じデザインのものだった。

    設置場所はキリスト教系の高齢女性介護施設の私有地だった。サンペドロ市長と、韓国中部の堤川市前市長の間で友好と平和の証として像設置計画が進んだが、双方の間で像が意味することの理解に相違があり、撤去に至ったという。

    フラワーズ・フォー・ロラス / Via facebook.com

    ビサヤ地方に建つ慰安婦像

    現在も撤去されずに残っているのは、フィリピン中部ビザヤ地方の観光地ボラカイ島近くの私有地に設置された慰安婦像だ。

    フィリピンで1992年に、初めて慰安婦被害を名乗り出た、マリア・ロサ・ヘンソンさん(1997年死去)がモデルとなった像などが建っている。像はビサヤ地域に住む元慰安婦女性を支援する団体が設置した。

    今回の碑はどうなる?

    このようにフィリピンでは、像がフィリピン側の判断で撤去されることが続いた。今回の碑はどうなるか。

    ドゥテルテ政権は、インフラ整備などで日本政府から多額の支援を受けていることもあり、慰安婦問題で両国関係に波風を立てることを避ける方針を続けている。

    一方でドゥテルテ大統領は、2018年4月にマニラ湾沿いの慰安婦像を撤去した際、「他国を挑発する政策は採らない」としたうえで、「像は公道に設置されていた。私有地に建てるならば尊重する」と発言している。

    今回の碑は、規模が大きく知名度の高いバクララン教会の私有地に設置された。カトリック教会はフィリピン社会で大きな力を持つうえ、碑の設置に政府機関や地元自治体が関与していないため、政府の影響力は限られる可能性が高い。

    リラ・ピリピーナはBuzzFeed Newsの取材に「2018年4月に撤去された慰安婦像はいま、行方不明となっている。見つかり次第、今回設置された碑の上に再設置する予定だ」と話した。