南米チリの女性たちが始めた「あるダンス」が、女性に対する暴力に反対し、政府や司法を批判するムーブメントとなって、世界中に広がっています。
「あなたの行く道にいるレイピスト」
「Un violador en tu camino(あなたの行く道にいるレイピスト)」と題されたこの歌は、チリのフェミニスト団体「ラス・テシス」が、11月25日の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」に合わせて披露しました。
チリの現地メディアによると、曲名はチリ警察のスローガン「あなたの行く道にいる友達」を文字ったもの。
男性優位な社会において女性に向けられる暴力、その被害を見過ごし、助長する警察や司法に対する痛烈な批判となっています。
踊るとき、女性たちは目隠しやマスクを被り、パーティーやクラブに行くようなファッションで、声を揃えて次のような歌詞を歌います。
男性優位社会が私たちを裁く
私たちの命を裁く
私たちに与えられる罰は、あなたには見えない暴力
男性優位社会が私たちを裁く
私たちの命を裁く
私たちに与えられる罰は、私たちが見たことのある暴力
それはフェミサイド
それは殺人犯への免罪
それは誰かが行方不明になること
それはレイプ
私のせいじゃない
私のいた場所や服のせいでもない(×4)
レイプしたのはあなただ
レイプしたのはあなただ
レイプしたのは警察たち
レイプしたのは裁判官たち
レイプしたのは国家
レイプしたのは大統領
圧政国家はレイピストと同じ
圧政国家はレイピストと同じ
レイプしたのはあなただ
レイプしたのはあなただ
歌の終わりで「無垢な少女よ安らかに眠れ/悪漢に怯えることなく/あなたの甘く幸せな夢を/警察官が見守っているから」とチャントする部分は、チリ警察の警察歌の歌詞をそのまま引用しており、当局が掲げる標語と現実の乖離を強く皮肉る形になっています。
毎日137人の女性が殺害
女性を標的とした殺人のうち、ジェンダーの要因が大きく関与しているとされる殺人は、「Femicide(フェミサイド)」と呼ばれ、世界中で問題視されています。
国連薬物犯罪事務所の調査によると、2017年に殺害された女性の総数は、世界中で計8万7000人にのぼり、その58%がパートナーや家族によって殺害されました。
世界のどこかで毎日、137人の女性が親しい人によって命を奪われた計算になります。
日本も例外ではなく、内閣府の調査によると、2018年に検挙された配偶者間の殺人、傷害、暴行事件は7667件にのぼり、そのうち6960件(90.8%)で被害者は女性でした。
「女性への暴力は世界中で問題」
今回のムーブメントは、11月20日にチリ・バルパライソで披露されて以来、南米やヨーロッパを中心に世界各地へ広がりました。
現地でデモを目撃したアルゼンチンのジャーナリスト、ナディア・ルナさん(@NadiaLuna88)はBuzzFeed Newsの取材にこう語ります。
「ラテンアメリカにおけるフェミニスト運動は、女性を標的とした暴力や殺人(フェミサイド)が増えていることを受けて、近年力を増してきました。そんな状況の中で、女性たちは抗議の意思を示す新たな方法を、創造し続けてきたんです」
「世界中でラス・テシスのパフォーマンスを真似て、自分たちも抗議する女性たちが相次いだのも、フェミサイドやジェンダーに基づく暴力は世界のどこでも問題だからです」
日本でも、12月8日午後1時から渋谷駅で有志がダンスを披露する。