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全国一斉休校の速報に専門家も「ひっくり返りそうになった」 新型コロナ感染拡大防止のためにどこまですべきか?

新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込むため、政府が大規模イベントの中止や全国の小中高校の休校を要請し、市民活動に大きな影響が出始めています。私たちはどこまですべきなのでしょうか? 公衆衛生や産業保健の専門家に聞きました。

新型コロナウイルスのさらなる感染拡大を抑え込むため、政府は今後2週間の大規模イベントの中止や延期、全国の小中高校や特別支援学校を休校するように要請し、市民生活に大きな影響が出始めてきている。

私たち市民は何をどこまですべきなのだろうか。

公衆衛生や産業保健学、感染症が専門の国際医療福祉大学の国際医療協力部長で、医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんにお話を伺った。

和田さんは2月26日に「産業医のための一般企業で伝えておきたい新型コロナウイルス10の知識」(Web医事新報に寄稿、下に全文掲載)を公表。インタビュー中に、政府による小中高校の休校要請の速報も流れ、政府の方針に疑問も投げかけている。

※インタビューは2月27日夜に行われ、その時の情報に基づいている。

何のために感染拡大を防ぎたいのか?

ーー政府は「これから1-2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際」と危機感を強く打ち出し、イベントの延期や中止も相次いでいます。政府のメッセージはどう評価していますか?

メディアも含めて多くの方に伝わっていないと思うのは今後の「被害想定」なんです。なぜここまでやらなくちゃいけないかということが伝わっていない。

何が今後起こり得ると思っていますか?

ーー感染が非常に拡大してしまうと、新型コロナは肺炎が起こりやすいですから重症者が出ますね。肺炎になって、病院でICU(集中治療室)に入る人、亡くなる人も一定割合出るでしょうから、大変なことになるでしょう。

それがポイントなんです。感染が拡大すると、新型コロナによる重症者が増えて、多くの病院のICUや病床を占拠することになります。

そうなれば、例えばがんの患者さんや脳梗塞や事故の人など他の患者さんの治療ができなくなることが最大の問題です。一般の多くの人の治療にまで影響が及ぶことを防がなくてはいけません。

ダイヤモンド・プリンセス号の患者さんのデータからわかったことは、重症者がたくさん出たことです。60代〜80代の乗客が発症し、本来なら海外旅行に行ける元気さがある方々でも感染した場合、重症化しました。

「8割が軽症」と言われますが、5割は無症状です。「軽症」と一括りにしていますが、3割は「入院が必要ないレベル」ということです。38度ぐらいの熱も出るし、だるさもある。これが人によっては1週間ぐらい続く。

残りの2割は重症で入院が必要になるレベルの症状です。さらに、全体の5%は人工呼吸器が必要になるほど悪化します。

感染者が増えて重症者が増えれば、病院がいっぱいになる。亡くなる人も増えるでしょう。それが問題で、それを食い止めようとしているのが今です。

重症者を防ぐために、感染者を出さない方策は?

ーーそれを防ぐために、様々な対策が必要なのですね。

重症者の数を増やさないようにするには、感染者そのものを増やさないようにしないといけない。だから集団感染を減らそう、そのために人が交わる機会を減らそうという考え方です。

それを先に実践したのは中国です。中国は徹底していて、武漢市から外に出さないようにして、流行の抑え込みに成功しつつあります。新規発症者の数は減りつつあります。

これまでの国内の症例から集団感染する場所が見えてきています。今までも言われていたのですが、以下の3つの要件です。

  1. 閉鎖されて、換気が少ない室内
  2. 手を伸ばせば触れられるぐらい距離の近い接触
  3. 対面での一定時間の会話


ーーこのインタビューしている場所は危険ですね(締め切った会議室で対面での取材)。

そうそう、こういう場所です(笑)。手が届かない距離をあけていますけどね。さらに、人がたくさんいる場所は危ないです。家庭でも同じような条件ならうつります。

ーー専門家会議が、咳やくしゃみで直接体内に入る「飛沫感染」と、ウイルスに触れた手で目や口や鼻の粘膜を触って感染する「接触感染」の他にも感染ルートがあるかもしれないと打ち出したのが驚きでした。この感染しやすい3つの要件も、飛沫や接触以外の感染ルートを想定していますか?

基本的に警戒すべきなのは接触感染と飛沫感染です。だから、手洗いや咳がある人のマスクは大事なんです。しかし、飛沫感染の中でも、屋形船やスポーツジムなど、少し広がっていると思える事例があります。

例えば、渋谷のスクランブル交差点のような場所ですれ違っただけでは感染しないでしょう。満員電車も私はあまりないと思います。満員電車ではみんなしゃべらない。呼吸だけで感染するとは考えにくいです。

満員電車では私はマスクをしません。咳をされる方が近くにいれば念のためにするためにもっていますが、使用が必要になったという記憶がありません。

さっぽろ雪まつりの話での感染が話題になっていますが、雪像を鑑賞していて感染したとは考えられません。外が寒いのでどこか密閉された食事をするようなところで比較的元気な人が会話をしているようなところだったのではないかと想像します。

「大規模イベント」といわれますが、規模の大小は関係ありません。仲間内のパーティーでも、感染が広がる可能性はありますよね。

(スマホを見ながら大声で叫ぶ)えーーーーー!

ーーどうしたのですか?

小中高校の休校、必要なのか?

「全国の小中高に臨時休校要請、来週月曜日から」ですって。今、速報が出ました。

ーー本当ですか? 今、そこまでやる必要ありますか?

これは誰が決めたんでしょう。ひっくり返りそうになりました。

今のタイミングで、ここまで社会への影響の大きい対策をやるならどんな根拠をもってやるのかきちんと示さなくてはなりません。

教育界も、産業界ももっと政府に尋ねた方がいいと思います。本当にそれをやって意味があるのですね? 今だけなのですね?と聞いておかないと。こうした根拠についての議論はもう少しした方がいい。

ーー公衆衛生の専門家から言うと、これはやり過ぎ感がありますか?

まず、根拠を出すべきです。今のタイミングが本当にいいという、根拠があるのでしょうか。

こんなカードは何度も切れませんよ。対策は何が難しいかと言えば、緩和するのがまた難しいのです。始めるのは比較的簡単なんです。

春休みいっぱい休校にさせるそうですが、1ヶ月休校にさせて、4月になってもどこかで今ぐらいの感染が散発的に見られたとします。

そうすれば「本当に今、解除していいのか?」ということが議論になるでしょう。

これまでも、始めた対策がやめられなくて無駄に長くやった事例はありますよね。

本当に今のタイミングがベストなのかはよく検討が必要だと思います。そんなに何度も切れない切り札を今切るべきかは、専門家ともよく相談すべきだと思います。そして社会とも。

対策は止めるのが難しいのですから、始める時に、「こういう基準になったら解除しますよ」というのを、公表するかどうかは別として腹案はもっておかなければならない。

私は全国で一斉にやる前に、いわゆるクラスターと呼ばれる感染者の集積が出た時には、その地域で制限してください、と少し地域ごとに対応するような段階があってもよかったのではないかと考えました。

地元のことを知っているのは地元なんです。何か起きたらそれぞれの地域で制限する準備をしてくださいという要請が先にあって、それがうまくいかなかったら全国でという話に拡大すればよかったのでは。

ーーいきなり全国休校はやり過ぎ感がある。

政府はどういう根拠で、今のタイミングと決めて、いつまでやって、何をもってこれが成功したと判定するのか、説明責任があるのではないでしょうか。

一斉休校にした効果はどのくらい持続するかわかりません。3月いっぱい休校にしたとしても、また4月や5月に散発的な流行が起きたら、またやるつもりなのでしょうか?

イベントの中止は何をもって判断すべき?

ーー先ほど、イベントは規模は関係ないとおっしゃいましたが、何の要素で中止を判断したらいいのでしょう。開催するにしても気をつけるべきことがあれば教えてください。

今後、感染源を考える時に、地域と医療機関では分けて考えなくてはいけません。

地域では今のところ軽症や症状のなさそうな人が多くの人に感染させていたことが報告されています。スポーツジムや屋形船での感染が報道されています。一方で、国内の感染者の解析では約8割の感染者はそのほかの人に感染させていなかったこともわかりました。





医療機関での感染は、受診者と、特に重症者が感染源になります。症状のある人で、さらに重症化すればするほどウイルスに晒される機会が増えますから、そこから医療従事者などへ増えていく可能性があります。

ーー大きさは関係なく、小さくても閉鎖された空間だと危険ですか?

お話しなければリスクは低いでしょう。クラシックコンサートは別に喋らないですね。ロックコンサートや野球は叫びますよね。野球も騒がなければ、無観客試合でなく、やれる方法はあるのではないかと模索してはどうでしょう。

ーー無理なんでしょうね。

拍手はいいんですよ。大声の応援やヤジはダメですが。

ーーそうなると、国会も開けませんね(笑)。イベントは何でもとりあえずやめておけとなってしまいそうです。

何がダメで、どんな条件ならやっていいのかも議論した方がいい。限られた情報しかないが議論はした方がいい。皆で考えてコンセンサスを作るしかないです。

企業の対策どうするか?

ーー2月26日に「産業医のための一般企業で伝えておきたい新型コロナウイルス10の知識」(下に全文掲載)を公表しましたね。これは産業医が、企業の社員に伝えた方がいいことのリストでしょうけれども、2番目で「一定時間の会話」はリスクが高いと書かれています。「一定時間」とはどれぐらいですか?

決まった基準はないです。コンビニのレジの人とのやりとりぐらいではうつらないと思います。企業であれば、飲み会に行って、閉鎖空間で、1〜2時間話すことはリスクがありますね。一言、二言の掛け合いで感染するという感じではなく、親密な距離感であることがポイントと考えられています。

初対面の人が取るような距離感ではなく、元々の知り合いぐらいの距離感で話をした時に感染したという事例があります。

ーーそれが「手を伸ばせば届く距離」ですね。

そうです。それで一定時間話すのはリスクがあります。

ーー手洗いも書かれています。「出勤時」はわかりますが、「外出時」とはどういう意味ですか?

営業などで外出して帰ってきたら手洗いをしてほしいということです。要は、外が汚れているので、中に持ち込まないでくださいということです。

一番難しいのは人の行動に依存した対策です。「こまめな手洗い」とみんな言いますが、これを徹底するのは本当に難しい。職場や学校で外から入る時に手洗いをしないと、中が汚染されます。皆さんの職場では電車に乗ったあと、まず手を洗っていますか?

注目ポイント「家庭内での感染」も注意

ーー新型コロナウイルスはどれぐらい生きているのですか?

それはまだわからないのですが、結構長く感染力を維持するのではないかという報告があります。インフルエンザはなにかについている飛沫は8〜24時間で感染力を失いますが、それよりは長いのではないかとも言われています。今後研究が必要です。

人がよく触るところは、次亜塩素酸やアルコールなどで拭くことも対策です。

しかし、ノロウイルスと違って、洋服についていたとしても洗濯すれば大丈夫と考えられています。

結局、顔を触らなければ感染しません。顔を触る前に洗ってもらう心がけがすごく大事です。

あとは家に帰った時も、外から持ち込まないように必ず手洗いをしてほしい。今回、家族内感染がたくさんあるのは注目すべきポイントなんです。家族内に入った時の広がり方がすごいのです。

ある事例では、仲の良い家族なのかもしれませんが、50代の男性と奥様、20代の娘が感染確認されました。この年代の距離感は小さな子供のいる距離感よりは遠いと思いますが、4人が感染しています。そのほかの60歳代、70歳代の夫婦でもともに感染している。同居していると結構うつることがわかりました。

家庭の中で高齢者がいた場合、誰かが持ち込むと容易に感染が広がり、高齢者は重症化する可能性があります。

こういう感染対策は、人々の間を分断する介入方法となり、心情的にはなかなか難しいです。今回それはやらないといけないわけです。

キーワードは「恐る恐る日常を続ける」

ーー7番以降に書かれていますが、症状のある人はどれぐらい出勤しないほうがいいのでしょうか?

これもまた難しい。長くウイルスを出している例もあるのでわからないのです。熱が下がったら、いつから出勤すればいいのかの基準もない。インフルエンザのように48時間でいいのかと言われるとわからない。

暫定的に決めるしかないから、例として48時間とは書きました。家族が感染した場合はもっと大変で、21日間ぐらい自宅待機になる可能性もある。その場合給料はもらえるの?となりますよね。会社で決めるしかありません。

多くの患者は、潜伏期間は1週間です。しかし、2割ぐらいは1週間を少し超えるぐらいの潜伏期間がある。会社は、ルールを決めて、恐る恐るやるしかないと思います。

キーワードは、「恐る恐る日常を続ける」だと思うのです。

ーーリスクはゼロにできないし、この感染症の詳細がはっきりわかっているわけでもないですものね。

そうです。例えば、オリンピックも野球もイベントもそうなのですが、恐る恐るやる。政府は一気に振り子を最大警戒に傾けていますが、元に戻すことはものすごく難しい。

だから、みんなで考えていくしかありません。

感染予防と経済活動とのバランスを

ーー経済活動にも影響が出始めています。先日、旅館が破産申請したというニュースもありました。

倒産して、借金を抱えて自殺する人も出るかもしれません。そうした対策はすぐにでも必要です。

ーー公衆衛生上、バランスを取って対策は考えなくてはいけないということですね。感染させないのも重要なミッションですが、経済活動を続けてみんなが生きていくのも重要なミッションです。

それこそ、食料がなくなるとか、電気が止まるまではないかもしれませんが、みんながバランスよくどういう日常を送ればいいのかを、考えないといけません。

ーー学校を休みにすれば、親も影響受けるでしょうしね。低学年だと、親も休まなくてはならなくなるかもしれません。結構大変な影響ですね。

そうです。親たちは会社に出てこられなくなります。職場にも影響があります。

ーー「復帰において医療機関に『陰性であることの証明』は求めない」というところも太字にしていますね。

検査で陰性でも、陰性だから元気で感染させないとは限らないのです。また、みんながよく感染する場所は病院です。陰性証明をとるために病院に行って感染させたり、自分がウイルスをもらったりしたら意味がないでしょう。

ーー最初に「怪しい対策グッズには手を出さないようにしたい」と書かれていますが、早速怪しいものが出回っていますね。企業で空気清浄機がいいと勧める産業医もいるようです。

空気清浄機は新型コロナ対策には意味がないと思います。花粉症には効果があり、私も空気清浄機は使っています。

ただ、新型コロナ対策で換気はやった方がいいです。でも大きなビルではできませんね。できるならやった方がいい。電車で窓を開けた方がいいかも聞かれるのですが、難しいでしょう。

ーーちょうど2月という寒さも、換気の悪さなどに影響しますね。

そうです。寒さでソーシャルギャザリング(社交的な集まり)が危険になるところはあります。学校もそういう場所だと言えばそうですけれどもね。

年単位で続く覚悟が必要

ーー最後に読者にどういう心構えで日常生活を送ればいいかメッセージを。

これは年単位で続く覚悟が必要なんですよ。これだけ散らばっていますから、4、5か月で終息するとは考えない方がいい。

もしかしたら、今が分水嶺で、収まるのかもしれませんが、海外にも散らばっていて、感染症に脆弱な国や地域もあります。そこから人が往来する限り、そして日本からも行く限り、必ずまた感染者は出ます。

まだわかっていないのは1回感染すると一生続く免疫ができるのか、それともまた感染するのかですね。

ーー大阪で再感染したかもしれない例が出ましたよね。

あれはまだわかりません。いったん収まっていて、ウイルスが残っていて、免疫が落ちて再燃したということなのか、治ったけれど新しいウイルスをもらって感染したのかはわからない。基本的には再燃だと思います。

ーー年単位で流行が続くとしたらどうなるのでしょう。

今、抑え込んだとしても、今後も続きます。最初の200例ぐらいを日本で治療してみて重症度を判定しますが、今回は新型インフルエンザのように徐々に緩和してきたようにはならない状況が、すでに国内データから見えてきています。

ーー新型インフルエンザのようにはならないのですね。

重症度が違いますし、病院への負担は大きい感染症です。だから、今後も対策を緩めることにはなりません。

ですから、なぜ対策しなければいけないのかをみんながきちんと理解して、どうしたらいいのか議論しないといけない。恐れながらも新しい日常を作り、その中でも経済を回さないといけない。

多少、炎上覚悟で言いますが、流行が大きく広がってしまうと人工呼吸器が足りなくなる可能性があります。超高齢の方に人工呼吸器を使用して足りなくなった時に、若い重症の方に使える人工呼吸器がない、という状況があり得るのです。

ーーそういう事態を招かないためにも、今、個人でできる対策をやって抑えこもうということですね。

まずやることは、医療機関の準備を急ぐこと。コロナ以外の人の治療もちゃんとできるようにしないと、みんな不安になります。コロナは高齢者ほど重症化し、長期化する。場合によってはどういう医療を提供するのか、倫理的な課題も議論することが必要かもしれません。

こういう議論は新型インフルエンザの時にもありました。だけど、深まらなかった。今回は、本当にそんな課題に直面するかもしれないという危機感があります。なので、倫理的な課題も含めて、社会でどういう医療を選ぶのか話し合わないといけません。

そして今、一人一人ができることは感染を広げないことです。だけど継続するのは難しい。1〜2週間は続けてくれるかもしれませんが、年単位になれば習慣化する仕組み作りが必要です。

恐れながらどう日常を続けるのか、みんなで「これがいいと思う」という合意を作っていかないと、日常は崩壊してしまいます。

産業医のための一般企業で伝えておきたい新型コロナウイルス10の知識
(2020年2月26日、Web医事新報に寄稿)

新型コロナウイルス感染症の拡大が懸念されています。感染拡大を防止するために、これまで明らかとなった新型コロナウイルス感染症の特徴を踏まえ、産業医が知っておくべき10の対策をお伝えします(2020年2月26日版)。

1. 感染者の半分ぐらいはほとんど症状がない。感染者の約30%は入院が必要ない「軽症」だが、発熱、だるさ、咳、食欲不振などの症状はそれなりにある。高齢者(特に70歳以上)が感染すると症状が重くなり、死亡リスクも高い。高齢者以外は死亡リスクは低い。

2. 感染拡大の場の傾向が明らかになってきた。腕を伸ばせば届くくらいの近距離で、一定時間の会話をし、多くの人が集まるところの感染リスクが高い。飲み会、立食パーティー、カラオケ、病院などが代表例。

3. 接触感染により広がる傾向があり、手洗いが特に重要。出勤時、外出時、食事の前に30秒程度石鹸を用いた丁寧な手洗いを「全員」が行う。

4. 今、一番恐れられている事態は、高齢者の重症患者が多数出ること。100人の高齢者の施設で感染が広がると(広がりやすい)、30人程度が発熱などの症状、そのうち10人程度が入院、そのうち数人が重篤な肺炎となるような事態が想定される。

5. 医療機関に感染対策が必要な重篤な肺炎が数人入院すると、医療提供が困難になる。人工呼吸器が不足する可能性もある。通常なら助けられる脳梗塞、心筋梗塞、交通事故などの対応も難しくなる。

6. 今は、できるだけ感染者の数を減らして重症者を増やさないことが大事。しかし、今後の見通しは不明で、社会活動の自粛をいつまで続けるのか判断が難しい。流行は年単位で続く見込みであるため、地域での流行をモニタリングする。

7. 企業で最も大事な対策は、①発熱者や症状のある人は職場に絶対に来させない。②職場に着いたら全員が手を洗い職場を汚染しない。③流行が確認された地域ではテレワークや時差出勤を配慮できるように体制の整備をする(または今から実施する)。④症状のある人(発熱者も含め)の人数を確認する、職場で熱を測定できるようにする。⑤事業継続計画を作成し、実行できるようにする。

8. 感染して発症するまでの潜伏期間は2日〜7日程度、長い場合は14日程度。同居の家族が感染したなどの濃厚接触者は、最後に症状のある人に接触してから潜伏期間が自宅待機になる可能性あり(最長21日とも考えられる)。

9. 症状があって(感染して)休んだ後に、復帰において医療機関に「陰性であることの証明」は求めない。陽性でも、検査の限界で陰性となっている可能性もある。発熱後(感染後)どのくらいたって職場に復帰させるかの根拠はない。念のため解熱後48時間ぐらいは空けたい。

10. 治療薬やワクチンは過度な期待はできない。まずは予防が重要。ただし、怪しい対策グッズには手を出さないようにしたい。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。

新型コロナウイルスの発生と「指定感染症」への指定を受けて、編集に関わった『新型インフルエンザ(A/H1N1)わが国における対応と今後の課題』(中央法規出版)を期間限定で公開している。