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「軽症でも苦しさは長引きます」 宿泊療養施設で働く看護師が第7波の現場から伝えたいこと

感染が急拡大する新型コロナウイルスの第7波。東京都の宿泊療養者も増え続けていますが、現場はどのような状況なのでしょうか? ホテルで健康観察をしている看護師に聞きました。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、病院に入院するほどではないが、自宅にもいられない宿泊療養者も急増している。

東京都福祉保健局によると、都の宿泊療養者は24日現在で5872人で、稼働中の施設の70.6%が埋まっている状態だ。

現場はどのような状況なのか。

BuzzFeed Japan Medicalは、都内の1ホテルで宿泊療養者の健康観察をしている看護師のミサキさん(仮名)に聞いた。

※7月24日にインタビューし、その時点の情報に基づいている。

近く満室になりそうな宿泊療養施設

ミサキさんは第3波の最中の2020年末頃から、訪問看護師をしながら、都内の宿泊療養施設のホテルで週1〜2回、派遣アルバイト看護師として働き始めた。

療養者が自身で入力する朝夕の検温や体調を確認し、気になることがあったら電話で様子を聞く健康観察が主な仕事だ。

感染者が増えた第5波からは訪問看護を辞めて、派遣で週4〜5回入るようになり、オミクロン到来でさらに感染者が激増した第6波が落ち着いたと思ったのも束の間、7月頭ぐらいからやってきた第7波で再び忙しくなった。

「6波が落ち着いてからほとんどのホテルが宿泊療養を休止していたので、続行しているホテルに集中するようになったのです。今、私が主に働いているホテルは予定者を40〜50人超える受入れとなりました」

東京都の要請で宿泊療養先のホテルが再び30施設まで増やされ、ミサキさんのホテルは予定定員内の受け入れに戻った。それでも毎日50〜60人の退所者、入所者の入れ替えがあり、看護師一人あたり30人前後の陽性者の健康観察を担当する。残業が日常茶飯事になってきた。

「だんだん発症から入所までの日にちも伸びてきていて、入所までの保健所の処理も追いつかなくなっていることが推測されます。この調子で増えていけば、近いうちに満室になり、より症状の重い人しか受け入れられなくなるのでしょう」

ワクチン接種回数に関係なく、発熱、倦怠感、頭痛が長引く7波

「オミクロンは軽症」とよく言われるが、「軽症」でも一般の人にとっては予想を超えるつらい症状が長引くのが第7波の特徴だとミサキさんは感じている。

「発熱も今回は3〜5日と長引いている印象です。飲食もままならないほどの喉の痛みが続き、痛み止めでは取りきれません。倦怠感や頭痛を訴える人も多いです」

「コロナを『風邪やインフルエンザと一緒』という人がいますが、インフルエンザなら熱は1〜2日で引き、喉の痛みもそれぐらいで落ち着くものです。今回の流行ではとにかく症状が続く期間が長い。軽症だから自宅で療養していたものの、飲食ができなくて、脱水になって入ってくる人もいます」

回復したにもかかわらず、体調の悪さが長引くのも今回の波の特徴だ。

「発熱などの症状が落ち着いた後も、倦怠感に苦しんだり、健忘症のような頭がボーッとしてしまったりする症状を訴える人がこれまでよりも目立ちます」

宿泊療養施設では、これまでと同様、発症日を1日目として、ウイルスの感染性がなくなる10日間過ごすのが基本だ。かつ、37.5度以上の発熱が3日間なければ(症状が軽快したら)、11日目に帰宅することができる。

新型コロナウイルス感染症は発症から7〜9日で人に感染させる力がなくなるが、PCR検査ではその後もウイルスの残骸を拾って陽性となってしまうことがある。よって、宿泊療養施設では現在、PCR検査での陰性確認を退所の要件にはしていない。

ところが、帰宅してからも症状が続いているため、通院する医療機関でPCR検査を受けて陽性になり、発症届が保健所に出されて、再び宿泊療養施設入所というケースもあるという。

「必要がないのに一応、数日の間、再び宿泊療養してもらった人もいます。今はウイルスの性質もわかっているので、宿泊療養施設でPCR検査はしていません。症状が長引いても無意味な検査はせず、もし職場から陰性証明を求められたとしても、保健所から直接、感染力はないと説明してもらうようにしてほしい。そうでないと回りません」

目立つ集団感染 家族内で気をつけていても全滅

また、7波で置き換わりが進むオミクロンの亜系統「BA.5」は感染しやすさも特徴の一つとされているが、ミサキさんもそれを実感している。

「今回、クラスターの感染で同じところから入所してくる人が多いのです。医療関係の施設や社員寮など、集団生活をしていたり、人が密接に関わらざるを得なかったりする施設での集団感染が目立ちます」

家庭内での感染も多い。

「症状で怪しいと思ってすぐ自宅内で隔離して、ホテルに宿泊療養に来たと思ったら、後から残りの家族もコロナ陽性となってホテル療養になったり、家族全員で自宅療養に移行したり、というようなことがよくあります。気をつけていても、すぐに感染してしまう印象です」

「とにかく感染しないに越したことはない」

そんな軽症者を看ているミサキさんから一般の人に伝えたいことはなんだろうか?

「とにかく感染しないようにした方がいいです。医療者の考える『軽症』と皆さんが思い描く『軽症』は違います。今回の波では、思ったよりもつらい症状が、長引く印象です。報道もされているように、軽症で済んでも、長い期間、後遺障害に悩まされている方々も耳にします」

「今回は政府から行動制限も呼びかけられず、感染者が増加しても医療機関や医療者が命を削って対応するのが当然のように思われている節があるのが気になります」

感染対策に十分注意を払っている医療者でさえ、簡単に感染してしまう今回の波で、医療機関で働くスタッフがどんどん減っている。宿泊療養施設からの入院の依頼もすぐには行き先が決まらない状態になり始めているのをミサキさんも実感している。

「以前のようにマスクをつけて、フェイスシールドをつけて、一定の距離を保つ対策を徹底していたとしても、医療者もどんどん感染しています。そうなると10日から2週間は働けなくなり、コロナを受け入れている総合病院でさえ、緊急で非正規の看護師の求人を緊急に出している状況です」

「また子供の感染も増えていますが、一般に子供が感染して看病するのは母親です。母親が看病のために仕事ができなくなり、このまま感染者がさらに膨らめば、企業活動にも支障をきたすのは明らかです」

2回接種も3回接種も同じ症状で苦しむ

ワクチンについてはどう考えているのだろうか?

「重症化予防のために、対象者が接種した方がいいのは間違いありません。感染者の母数が大きくなれば大きくなるほど、時間をおいて重症者や死亡者も増えてくるでしょう」

「ただ、オミクロンに対して、コロナワクチンの感染予防効果は期待できません。宿泊療養で見ている人は、2回目接種者でも、3回目接種でも、症状は変わらない印象です」

「無症状や本当に軽く済んだ人は、受診や診断を受けず、普段の生活を続けたり自宅療養したりしているのでしょう。感染者の母数が増えてきているので、軽症といっても、つらい症状に苦しむ人の絶対数がワクチンの接種回数にかかわらず増えています」

「だから3回接種していようが、4回接種していようが、かからずに済むならそれに越したことはありません」

高齢者や基礎疾患のある人など重症化リスクの高い人に限っていた4回目接種について、厚労省は7月22日、医療従事者や介護関係者にも広げることを決めた。

「私の住む自治体では、接種券なしでも対象者は接種が受けられるので、すぐ申し込みました。緊急時には、体調不良で動けなくなった療養者の看護もしますし、廊下やエレベーターは療養者と分けられていますが完全ではないので、早くうちたかったです」

感染が拡大すれば、弱い人にしわ寄せが

「経済も回さなければいけない」という声の大きさに、今、お祭りや大規模なイベントが、これほど感染が拡大している最中でもコロナ前のように開かれている。この現状を、ミサキさんは不思議な気持ちで見ている。

「お祭りで人がたくさん集まっているところで、子供はマスクをせず、大人が飲食しながらしゃべっているのですから、感染しないはずがありません。でも働く世代や看護が必要な子供が感染すれば、経済を回す働き手も足りなくなるはずです」

「イベントをやりたい気持ちはわかりますが、なぜ今のように感染が広がっている時に人が集まる状況を国は放置しているのか、私には理解できません。エアロゾル感染が容易に起きていることを考えると、行政の指示がなくても、自身の感染予防をするためにはどうしたらいいか、自ずと結論が出ると思います」

そして、こうして感染が拡大すると、弱い人にしわ寄せが行くのを、訪問看護の経験も長いミサキさんは心配している。

「訪問看護も訪問介護も、職員側に感染者が急増して人手が足りなくなり、回らない状況になっているという話を聞きます。訪問看護や介護を受けて生きている人にとっても、感染拡大は自分の生活を脅かされる恐ろしい事態でしょう」

感染者数の急増に伴い東京都は重症化リスクの高い人を優先的に入れる運用に変えた。

さらに7月14日には、これまで入れていなかった70歳以上の患者も宿泊療養施設に入れる方針に転換した。

「高齢になるほどスマホで自身の朝夕の体温や体調などを入力できない人が増えることが考えられます。狭い部屋で1日のほとんどを動かずに過ごすことによるADL(日常生活動作)の低下も心配ですし、検温や体調確認は、一人ひとり、電話で確認する作業と時間が多くなります」

「とにかく感染拡大をこれ以上広げないようにしないと、個人だけでなく、国全体としての痛手になります。個人でできることには限界があるので、国全体としての行動を起こすことが必要だと思います」