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東京は本当に「ロックダウン」されるのか? 安倍首相「強制的、罰則を伴うものではない」

東京都の小池百合子知事が言及た都市の封鎖「ロックダウン」。欧米ではすでにこうした措置をとる国や地域も出ているが、日本ではいったいどのような形がとられるのだろうか?感染症法33条には「交通の遮断」に関する文言もあるが…

新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、「ロックダウン」(都市封鎖)という言葉が多く聞かれるようになった。

個人の権利(私権)に対する制限が大きく、生活や経済などへの影響が著しくなるこうした措置。

すでに実施されている国もあるが、日本の場合は誰の権限で、どう実施されるのだろうか?

「ロックダウン」という言葉が広がるきっかけとなったのは、東京都の小池百合子知事の3月23日の会見だ。

「事態の今後の推移によりましては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります」

各国でそうした「ロックダウン」が実際に実施されていることに触れながら、こう述べた小池知事。25日には1日あたりの感染者が急増したことを受け、「何もしなければロックダウンを招いてしまう」として週末の外出自粛などを要請した。

ロックダウンの定義とは何なのだろうか? 菅義偉官房長官は3月26日の会見でこの点を問われ、新型コロナウイルスをめぐる政府の専門家会議の提言(3月19日)を引いてこう答えた。

「数週間の間、都市を封鎖したり、強制的な外出禁止の措置や生活必需品以外の店舗閉鎖などの措置」

専門家会議は、日本においてこのまま感染拡大が進めば、欧州で実施されてるこうした「強硬な措置」(提言より)をとる必要があると呼びかけている。

特措法では想定外?

一言にロックダウンと言っても、対応はその国の法体系によって大きく異なる。

たとえばフランスイタリアでは、罰則付きの移動制限を「衛生緊急事態法」や政令など新たな法整備によって導入。外出を厳しく禁止している。スペインも憲法に基づく「警戒事態宣言」を発令し、全土に移動制限を出した。

ドイツでも、3人以上の集会が禁止され、罰則が設けられた。一方、イギリスでも3人以上の集会や外出禁止命令が出されたが、法整備が進んでいないために警察が対応に苦慮しているとの指摘もある。

アメリカでは州ごとで異なるが、たとえばニューヨークでは影響の大きい「外出禁止令」ではなく、「労働者の自宅勤務命令」という形がとられた。個人ではなく、企業への罰則がある。

各国ともに飲食店の営業も禁止したり、テイクアウトやデリバリーのみの営業としたりするという対応も取っている。

また、3月25日から総人口13億人を対象に「全土の封鎖」が始まったインドでは、罰則付きの厳しい移動制限を導入した。警察の権限が強く、これまでも宗派間暴動などで地域封鎖が行われてきたため、既存の法律で対応している。

では、日本ではどうなるのだろうか。小池知事は3月25日の会見でロックダウンについて「都知事の発令によるものなのか、国による緊急事態宣言が出された場合の知事権限を見据えたものなのか」と記者に問われた。

このときは明確に回答しなかったが、3月26日夜、TBSのテレビ番組に生出演し、ロックダウンは「日本で実行するのは法律的に難しい」と明言。そのうえでこう述べている。

「そうならないために、みなさんにご協力をお願いしているということです」

日本では「要請」のみ

小池知事が明言した通り、日本では、罰則付きの移動制限や都市の封鎖といった強硬なロックダウン措置をとることは、現行法下では不可能だ。

一つの参考になるのは、2月27日に安倍首相が全国の小中高と特別支援学校に要請した、臨時休校だ。これは安倍首相の政治判断による「要請」で、法的な強制力があるものではなかったが、全国の学校の99%が休校した。

日本でロックダウンが行われる際は、この臨時休校のように、政府や首長が協力を要請し、社会の側がそれに応じて「自粛」するという構図になるかもしれない。

たとえば、先日成立した「新型コロナウイルス対策特措法」では、国は「緊急事態宣言」を出すことができるとされている。

同法45条によると、この宣言下では、都道府県知事が市民に対してみだりに外出しないよう「要請」することができると定められている。

さらに、学校、社会福祉施設、興行場(映画館や劇場、音楽堂、野球場など)、さらに多数の人が利用する施設や施設を使ったイベント主催者に対し、使用の制限や停止などの「要請」をすることもできる。

こうした施設などが要請に応じない場合は、「特に必要がある」とされれば制限や停止を「指示」することもできる。特措法が「私権に対する大きな制限」があると言われる所以の一つだが、罰則はない。

内閣官房新型インフルエンザ等対策室の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し「都市を封鎖するようなことは特措法では想定していないため、できない」と回答した。

72時間以内なら…?

一方で、日本には「強制的な移動制限」ができる法律も存在する。感染症法だ。

同法33条では72時間(3日間)以内という条件つきで、都道府県知事が「病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる」と定められている。

新型コロナウイルスを担当する西村康稔担当相は3月11日の衆議院内閣委員会で、イタリア北部で実施されていたような「移動制限」は、感染症法を適用することで可能になるとの見解を示している。

この対象は「エボラ出血熱」などの一類感染症のみで、新型コロナウイルス感染症は含まれない。西村担当相は、実際の運用には政令改正の手続きが必要になるとし、以下のように答弁している(3月11日時点)。

「現時点では考えておりませんが、専門家の意見を聞きながら、今後の感染拡大の状況を見て、適切に判断していきたい」

政令改正は実際に3月26日に実施され、27日から施行された。とはいえ、この条文もロックダウンを根拠とするのは現実的ではないかもしれない。厚生労働省結核感染症課の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に対しこう指摘している。

「感染症法の『72時間』は『消毒や健康診断を要するものを考慮』したものとされています。ロックダウンに運用するとなると、私権の制限を想定の大幅に超えた解釈になるというリスクがある」

安倍首相「ロックダウンは甚大な影響」

ロックダウンについては安倍首相も「強制的に罰則を伴ってやるということではない」と、3月28日の会見で明言した。

「(ロックダウンは)フランスと比べて、強制的に罰則を伴ってやるということではなく、例えば知事からはあくまでは要請と指示ということになるわけでございます。そのなかでご協力を得ないといけないという考えになる」

また、3月27日の参院予算委員会では「仮にロックダウンのような事態を招けば経済にもさらに甚大な影響を及ぼす」としたうえで、「これまで以上に東京都や各都道府県との連携を密にしながら一体となった対策を進めていく」と答弁した。

要請ベースのロックダウン、もしくは感染症法に基づく移動制限になるとしても、私権の制限や補償はどうなるのかなどの問題は山積している。まずはそうした事態を招かないよう、感染拡大を防ぐために行動することが大切だ。

UPDATE

政令改正の施行を踏まえ、記事表記を修正しました。

UPDATE

「内閣府新型インフルエンザ等対策室」としておりましたが、正しくは「内閣官房新型インフルエンザ等対策室」でした。訂正いたします。

UPDATE

安倍首相の会見を受け、一部表記を加筆しました。