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「ニュース女子」で人権侵害、在日女性が「DHCテレビジョン」とジャーナリストを提訴へ

TOKYO MXは謝罪をした。

TOKYO MXは7月20日、沖縄の基地問題を巡る内容に批判が集まっていた情報バラエティー番組「ニュース女子」(2017年1月2、9日放送分)について、放送倫理・番組向上機構(BPO)に人権侵害の申し立てをしていた市民団体「のりこえねっと」の辛淑玉共同代表に対し、謝罪した。

辛代表は同日開いた会見で、番組を製作した「DHCテレビジョン」と、この番組で司会をしていた元東京・中日新聞論説副主幹のジャーナリスト長谷川幸洋氏に名誉を毀損されたとして、月内にも提訴すると語った。

番組を巡っては、BPOの二つの委員会が「重大な放送倫理違反」「名誉毀損」などと指摘しており、MXはその放送を中止した。ネット上や一部地方局では放送が続いている。

まず、経緯を振り返る

「ニュース女子」はバラエティー色のある情報番組。

スポンサーが制作費などを負担し、制作会社が番組を作って、放送局は納品された完成品(完パケ)を放送するいわゆる“持ち込み番組”だった。

制作は化粧品大手「DHCグループ」傘下の「DHCテレビジョン」が担っている。2017年1月2日、MXで沖縄基地問題の特集を放送した。

「沖縄緊急調査 マスコミが報道しない真実」「沖縄・高江のヘリパット問題はどうなった?過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」などと題し、沖縄・高江の米軍ヘリパッドへの反対運動を報じた。

その中で、米軍ヘリパッド建設に反対する人たちを「テロリスト」と表現したり、「日当をもらっている」「組織に雇用されている」などと伝えたりした。また、日当を「のりこえねっと」が払っていると指摘した。

放送後、視聴者から「反対派の黒幕」「なぜ韓国人が反対運動に参加する」などと名指しで批判された「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉さんが、人権侵害の申立書を委員会に提出していた。

BPO「名誉毀損の人権侵害」

BPOの放送倫理検証委員会は2017年12月14日、「重大な放送倫理違反があった」と極めて重い内容の意見書を公表した。「抗議活動を行う側に対する取材の欠如」などを問題視した。

さらに2018年3月8日には、放送人権委員会が辛代表の申し立てに対し、「名誉毀損の人権侵害が成立する」との判断を下した。人権や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いた点が「放送倫理上の問題」という理由だ。

MXは3月1日、「ニュース女子」の放送終了を発表。一方、制作元のDHCテレビジョンは、番組は一部の地方局やネット上などで継続すると発表していた。

「のりこえねっと」側は、MXや制作元であるDHCテレビジョンの対応や、当該番組がネット上で掲載されている点などを批判。その理由の大きな点が、被害の深刻さだ。

番組放送後、辛代表に対して駅や家のまわりといった日常生活で知らない人から侮蔑の言葉を投げつけられるなど、「いままでにない嫌がらせ」が起きるようになったという。

辛代表はこうした誹謗中傷から身を守るため、2017年11月からドイツで暮らしている。2年間の予定といい「事実上の亡命」という。

和解ではなく、あくまで謝罪

7月20日は、TOKYO MXから伊達寛社長、常務取締役らが「のりこえねっと」の辛共同代表らに都内のホテルで直接謝罪をした。放送から1年7ヶ月経っていた。

代理人弁護士によると、伊達社長から「真実性に欠け、人種や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いたもの」というBPOからの指摘を受け、「深く傷つけたことを深く反省し、お詫びいたします」などという文章が手渡された。

ただ、「のりこえねっと」側がかねてから求めていた検証番組の合同製作についてMX側は応じず、和解には至らなかったという。

一時帰国した辛代表は会見で、こう話した。

「謝罪はヘイトの嵐の中にいる沖縄の人たちではなく、私個人に対してのもので、受けることには葛藤があった。しかしあまりにも長い時間が経ち、このまま何年も放置できないと思い、受けることにしたのです」

そのうえで、一連の出来事について「これは放送事故ではなく、事件です。私の出自を使ってデマを流して、沖縄の平和運動を叩いたのです」と指摘した。

裁判を起こす理由

辛代表は、製作した「DHCテレビジョン」と番組司会者の長谷川氏に名誉を毀損されたとして、月内にも提訴することを明らかにした。

同社は現在もサイト上で番組を公開しており、「BPO・沖縄まとめ」というテーマのページも作成し、反論番組などを一覧で掲載している。公開の差し止めも求める方針だ。

一方、長谷川氏に関しては「当時、東京新聞の論説副主幹という立場でデマを広げた」という理由からの提訴だという。

辛代表は裁判を起こすことについて、涙を交えながらこう語った。

「DHCテレビジョンは悪意をもって、何らかの目的をもってやったと私は思っている。そのために、これ以上は傷口が広がるばかりなので、裁判を長引かせてはいけないと考えていました」

「デマとの戦いは、原告たりうる私がやらなければできません。マイノリティへの差別を、飯の種にしないでもらいたい。ヘイトで、金儲けをしないでもらいたい。その思いで、訴えさせていただきました」