CG児童ポルノは一部無罪 高裁判決 弁護士「児童ポルノ法は変な創作活動禁止法になりつつある」

    どこまでが「児童ポルノ」なのか?

    児童ポルノを含む画集2冊を製造・販売したとして、児童ポルノの製造罪・提供罪に問われた高橋証被告人(56歳)に対し、東京高裁(朝山芳史裁判長)は1月24日、罰金30万円とする判決を下した。1審の東京地裁判決(懲役1年執行猶予3年・罰金30万円)を破棄し、2冊中1冊については児童ポルノでないとして無罪を言い渡した。

    1審は全部の行為をあわせて一つの犯罪と判断した。一方2審は画集を1冊ずつ判断し、1冊は児童ポルノ画像を含まないので無罪、1冊は児童ポルノ画像を含むので有罪とした。

    2審判決は、罰金刑のみを言い渡した理由について、今回のケースが「昭和57年〜59年に児童だった女性の裸体を、長年経過してから児童ポルノとして製造したもの」で、「児童の具体的な権利侵害は想定されないことなどからすると、違法性の高い悪質な行為とみることはできない」と説明した。

    ただ弁護団は無罪を主張していて、山口貴士弁護士は「芸術に対する萎縮効果が大きい」「事実誤認や法令解釈の間違いがある」などとして、最高裁に上告すると表明した。

    そもそもどんな事件か?

    イラストレーターの高橋証被告人は、1980年代に出版された少女ヌード写真集を参考にしてPhotoshopで絵を描きCG画集をつくった。そして2013年に、児童ポルノ画像34点を含むCG画集2冊を製造・販売した疑いで逮捕・起訴された。

    裁判では、画集2冊に含まれる画像34点が、児童ポルノとされるべきかが争われた。うち31点については1審で「児童ポルノでない」という1審判決が確定した。

    残る3点をどう考えるのかが、控訴審での争点だった。

    高裁判決の注目点を抜粋する。

    「実在する児童だけ」

    高裁判決は、「実在しない児童の姿態」でも児童ポルノになるのか、という論点について、次のように指摘した。

    《児童ポルノの製造、提供等を禁止する趣旨は、これらの行為が、被写体となった児童の心身に有害な影響を及ぼすだけでなく、児童を性欲の対象として捉える風潮を助長し、身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えることによる。そうすると、同法の「児童の姿態」とは、実在する児童の姿態をいうと解釈すべきである》

    《一般人からみて、実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には、「児童ポルノ」として処罰の対象となる》

    18歳未満なのか?

    次の注目点は、もとになった写真集の被写体を、18歳未満と認定できるのかだった。裁判では、被写体が誰だかわからないため、写真を見た医師が、被写体の身体の発達度合いなどから年齢を推定した。

    被写体の年齢について、1審で証言した医師は、「タナー法」という分類法に基づいて判断した。しかしこの医師は、28歳のAV女優を9歳ぐらいだと判断。そのため1審判決は、写真を見た医師による年齢判断には限界があると指摘し、大部分は18歳未満かどうか不明だとして、児童ポルノとは認めなかった。

    ただ、いくつかは《顔立ちが幼く、身体全体の発達が未成熟であり、18歳未満であると強く推認される》として、最終的に4点が18歳未満だと認定した。(最終的に児童ポルノだとされたのはそのうち3点)

    結局、控訴審もこの判断を継続した。

    弁護団は2審判決を批判

    弁護団は判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、「実際には児童に対する搾取や虐待がないのに、画像を見た一般人がそれを児童の姿態だと思えば、児童ポルノ製造罪になるのはおかしい」と判決を批判した。

    この批判は、児童ポルノ禁止法3条が、次のように規定していることをふまえたものだ。

    第3条 この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。

    弁護団は、判決の次のような問題点も指摘した。

    1. 実在しない姿態でも児童ポルノだと認めたこと。
    2. 児童の年齢を推定するには相応しくないという批判がある「タナー法」で、児童だと認定したこと。
    3. 法律ができた時、あるいは絵を描いた際に、モデルがすでに大人になっているケースでも児童ポルノだと認めたこと。
    4. 児童ポルノ法の保護法益に「児童を性欲の対象として捉える風潮を助長」といった社会的法益を含むと判断したこと。

    弁護団は「児童ポルノ禁止法は、実在児童を保護するための法律だ」として、「児童を性欲の対象として捉える社会的風潮を助長する」といった社会的法益も保護するのは、妥当なのか?」と疑問を呈した。

    壇俊光弁護士によると、児童ポルノ法の保護法益に「社会的法益を含む」と正面から明言した判決は初めてだという。

    壇弁護士は「児童ポルノ禁止法は『変な創作活動禁止法』になりつつある。警察がダメだといったら、犯罪になってしまうのは大きな問題だ」と話していた。