「副業」するバンドマンが増えたワケ。人気ドラマーが語る

    LUNA SEAのメンバーがX JAPANに加入する時代

    「音楽性の違いにより解散」

    こんなニュースがたまに流れてくる。悲しみながらも、「あのメンバー同士って仲悪いって言われてたもんね」と噂した経験が、きっと誰でも一度は経験したことがあるはずだ。

    「バンド以外の活動もできると、衝突も減ると思うんですよね」

    そう語るのは凛として時雨のドラマー、ピエール中野さんだ。凛として時雨として2年ぶりに「DIE meets HARD」をリリースする。

    この2年間何をしていたのか? 凛として時雨のメンバーは、各々個人で「課外活動」をしていたのだ。例えば、ピエール中野さんのTwitterのプロフィールはこんな感じだ。

    見渡せば、バンドにとどまらず多岐にわたる活動をしているミュージシャンが増えてきた。「副業OK」な働き方は、実はミュージシャンの方が進んでいるのかもしれない――。

    「掛け持ちバンド」が増えたワケ

    ――バンドって、基本的にひとつしか所属できなくて、いざこざがあったら活動休止、みたいなイメージがあったのですが、最近変わってきてるなと思いまして。

    時代の流れで変わったんじゃないですかね。実際、ぼくがいる凛として時雨は、ボーカルのTKはソロ活動、楽曲提供もしてるし、ユニットも組んでますね。ベースの345も他でバンドを組んだり、元SUPERCARのナカコー(中村弘二)さんのサポートをしたりもしてます。

    ――時代の流れ、とは?

    ぼくは、世代的にLUNA SEAが大きかったと思ってます。2000年に「終幕」して、2010年に活動再開。変化の象徴だったんじゃないかなと。そこから、バンドの再結成もいろいろはじまった気がしますし。

    実際、LUNA SEAのメンバーも課外活動してますよね。SUGIZOさんは、X JAPANと「掛け持ち」でやってますから。当時の温度感だったら、信じられないと思うんですけど。ファンとしても嬉しいですからね。

    大前提として、バンドだからできることとか、バンドの方が喜ばれることっていうのはすごくあります。でも、メンバーがバンドに縛られて活動が狭くなることもあるんです。それでうまくいかなくなって、解散していくバンドもありましたし。

    ――バンドのメンバーであり、個人だと。

    そうですね。時雨のメンバーも個人としてリスペクトがあるので、お互いの課外活動を見に行ったりしますよ。だから喧嘩したことないです。

    個人としてもかっこよく活動してるなと思うのは、GLAYのHISASHIさんだと思います。課外活動として自分がやりたいこと見せてて、しかも洗練されてる。

    当時、SNSはなかったですけど、その先駆けになったのは、X JAPANのhideさんだったんじゃないかなと個人的には思います。hideさんがまだ生きてたらすごくおもしろいことやってくれてたんじゃないかなぁ、と思いますね。その遺伝子をHISASHIさんが受け継いで…今の流れができてると思います。ぼくの憶測ですけど。

    「安売りするなよ」副業がダメになるケース

    ――ピエールさんは、時雨のドラマーであり、サポートもするし、DJもする…課外活動するきっかけは、なんだったのでしょうか?

    ぼくは、ドラムがすごく好きなので、ドラムクリニックから課外活動を始めました。その場で、凛として時雨の楽曲を使いたいと思ったんです。

    でも、個人として活動する場で、バンドの曲を使うのを、バンドとして許さないケースもあるんです。実際、他のミュージシャンから相談も受けます。縛りが合わなくてバンドをやめていく人も普通にいるくらいですね。

    ――どうして許されないんですか?

    バンドを守るためっていう大義名分だと思います。「安売りするなよ」的な。バンドのクリエイティブを簡単に外に出すなよ、ライブに行かないとキミの演奏は見られない。そういう存在になれよっていう論理ですかね。一理ある。

    ぼくは、個人で活動する時、普通にメンバーとマネージメントサイドに許可をもらって実践をつんでいきました。そうしたら、もっとドラムクリニックをやって欲しいと声をかけてもらって。気がついたら、文章書いて、MCやって…と広がっていきました。メンバーも「機会があるならどんどん出ていけば」っていうスタンスでした。みんな柔軟なんです。

    課外活動によってもたらされた変化「バンドっぽくていいな」

    ――久しぶりに時雨として曲を作ったときに、課外活動やっててよかったなぁと思った瞬間ってありましたか?

    ありましたね。ずっとひとつのバンドをやっていると、逆に見えなくなることってある。でも、外の活動をするほどに「凛として時雨らしさ」が見えてきました。客観的にバンドに向き合える、というか。自分たちの持ち味を最大限発揮していこうってまとまれて、「バンドっぽくていいな」って思いました。

    ――バンドっぽい?

    例えば、ボーカルのTKは、ソロ活動で「自分の出したい表現」を見つけてるので、「バンドとして音を作るならどういう形が一番いいか?」と考えて音を作れてる。結成して15年くらいなんですけど、課外活動をやっているからこそ、バンドで新しい挑戦もできるんですよね。今回の新曲もかなり振り切れました。

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    凛として時雨の新曲「DIE meets HARD」。

    ぼくも、時雨以外の場所でドラムをやるから、原点に帰った時に活かせることがあるんです。

    ――DJ活動も…ですか?

    そうですね。DJは7〜8年くらいやっているんですけど、曲のつなぎ方、人の気持ちの高揚のさせ方とか、制作に生きてます。

    曲のセレクトや曲順、間でフロアの温度感ってすごく変わる。フェスに出るときは、全部の日程のタイムテーブルを見て、同じ時間に誰がかぶっているのか? 前後で誰が演奏しているのか? ステージ間の移動もあるから、この客層はここで動くから曲順変えよう…とか。予備曲もストックしているので、入れ替えたりもします。

    ――マーケターみたいですね。

    そうですか?(笑)。DJって、曲の持ち味を100%以上引き出さなくてはいけない。200%出さないと「ただ音楽を流してる人」になってしまって、意味がない。DJとしてステージに立つと、肌で感じることってすごくたくさんあるんですよ。間がうまくいった時、いかなかった時の差とか。

    ――課外活動をしていて、影響をうけた人っていますか?

    亀田誠治さんですね。いろんなバンドメンバーを集めたVIVA LA J-ROCK ANTHEMSにも参加してるんですけど、すごく勉強になります。亀田さんは、音楽をシンプルにわかりやすくしていくタイプなんです。こんなに簡単でいいのかな?と思うんですが、音数を減らした方が高揚感が生まれるんです。

    「わかりやすいのでいいんだ」って、亀田さんを通して学びました。いろんな人と音楽やることで化学反応も生まれるし、刺激にもなりますね。持ち札が増える感じです。

    小室哲哉さんから言われたアドバイス

    ――課外活動をたくさんしていると、ブレたりしないんでしょうか? 本職の方がおろそかになったり。

    うーん…ないですね。今、番組のMCもやらせてもらっているんです。そのときは、ゲストの魅力を引き出せるようにしたいって思うから、相手のことを事前に調べますよね。そうすると、新しいミュージシャンの魅力を発見できる。しかも、それが自分の血肉になる。すごく喜びがあります。

    ――課外活動するときに、気をつけてることってありますか?

    前に、小室哲哉さんと対談したときに「曲書いたほうがいいですか?」って聞いたことがあって。そうしたら、「書かないほうが本物っぽいと思う」って言われたんです。ぼくは作曲以外の課外活動はめっちゃしてるんですけど(笑)、これって「本軸があった方がいい」って話なんですね。凛として時雨のドラマーという本軸があった上での課外活動がある。

    ふわっといろんな仕事をしていると「ただの手広くやってる人」になってしまう。ぼく自身、最初はかなりフワッとしていたんですけれどね。今は、軸がハッキリしているので可能性が広がる感じです。

    ――可能性が広がる?

    ぼくの場合、課外活動をやるからこそ、他の人に自分のバンドを知ってもらえる。「サポートで入ってるドラマーって誰?」、「あのMCって誰なの?」からはじまって、凛として時雨に行き着くかもしれない。逆に自分のファンが、ぼくがドラムを叩いたアイドルのことを好きになるかもしれない。お互いにメリットしかないと思うんですけどね。

    本軸をハッキリさせるためにも、新しい可能性を広げるためにも、メンバーのことをリスペクトするためにも、副業してよかったなぁって思います。仲良い方がいいじゃないですか。