「イクメンは別に褒める存在じゃない」ロックミュージシャンの正論すぎる意見

    メジャーデビュー直前に結婚。結婚願望などなかった彼女はどうやって子育てをしているのか。

    「イクメンって話題になるのに、どうしてイクママってあまり聞かないの?」

    彼女は静かにそう口にした。ロックミュージシャンの大森靖子さんだ。3月15日に新アルバム「kitixxxgaia」を発売したばかり。これからライブツアーを控える彼女は、1歳の息子を育てる母親でもある。

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    認可保育園に入っても…私には無理じゃない?

    息子が通うのは24時間あいている認可外保育園だ。夫婦ともに時間が不規則な仕事のため、認可保育園は最初から無理だと諦めていたそうだ。

    「もし、認可保育園に行けたとして、預かってもらえるのは朝8時〜夕方くらい。この時間内で働ける人って限られてると思うんですよね。私の働き方だとそれは無理なので、選択肢じゃないんだって早めに思ってました」

    大森さんが出産のため入院している最中から、リサーチ好きの夫が精力的に保育園を探してくれた。早めに準備ができたからこそスムーズに保育園が決まったという。

    「調べているうちに保育園じゃなくても、区のファミリーサポートとか、手段がいっぱいあるってことがわかりました。自分にあってる方法をお金と時間と相談しながら決めた感じです。保育園だけが選択肢ってわけじゃないんだなっていうのも知っていたのでよかったです」

    「イクメン」って、全然ピンとこない。別に、褒められる存在じゃない

    仕事は忙しくなるばかりだ。育児も楽しみながら両立し、順風満帆に見えるが、違和感にぶつかる瞬間がある。

    子どもを遅くまで保育園に預けていると「かわいそう」というレッテルをはられることもあるからだ。心配してくる人はたいてい自然な気持ちで「育児はちゃんとできているの?」と聞いてくる。

    「ちゃんと愛しているのに、子育てしているのにって思うこともあります。息子は息子で楽しく保育園で過ごしているし」

    「タクシーの運転手さんにも心配してもらうんですよ。『遅くまで働くのは男性の給料が低いからでかわいそう』って感じで、すごく普通に言ってくる。でも、仕事は人生の宿命だと思ってやってることだから。まぁ……黙っちゃいますよね」

    日経DUALの連載でもこのように語っている。

    そもそも親になったんだから、基本的には親が子どもを育てるのは当然のこと。特にせっかく愛し合った二人の子どもなら、父と母「二人で」育児をするのって、どう考えても普通じゃないかと思う。

    だからイクジをするメンズ「イクメン」って、私の中では「ニンゲン」くらいの意味合いでしかない。

    でも今、その言葉が使用されている文脈では、育児を「手伝う」という意味における場合が多い。「え、そもそも育児って、父親はしない前提なん?!なんで?」感がなんとな~く、ある。

    収入も同じのため生活費も折半。育児も家事も自然と分担できている。「養い、養われる」という関係性は大森さん夫妻にはない。

    息子に教えた最強の教育

    結婚すれば、女は夫や子どもをサポートするセコンド的役割になる――そんな言説は今でもある。漠然とした先入観に悩む女性はある程度いそうだ。

    「子どもがいる時は子どもが主役。仕事の時は私が主役。子育てだけ、仕事だけだとしんどい。逃げ道がないと切羽つまっちゃいそう。だから私は両方できてラッキーです」

    育児のストレスは仕事で、仕事のストレスは育児で解消する。だからこそバランスが取れているようだ。また、ストレス解消には秘策がある。

    「私が泣いたり怒ったりすると、息子が寄ってきて『いいこいいこ』してくれるんです。『ママかわいいね』って頭を撫でるように0歳のときから教えました(笑)。そんなことされたら、疲れもストレスもふっとんじゃう」

    「このまま独身でもよかったんですけど、作品がどうしても一人暮らしの女の人の歌に偏っちゃうなぁって。そういう曲はもういっぱい作ったので、違う引き出しが欲しかったんです」

    「結婚? 育児? 何それおもしろそう」ぐらいがちょうどいい

    育児に積極的な夫とは、エイベックスからメジャーデビューする直前、出会って3ヶ月ほどで結婚した。

    「居酒屋でお酒を飲んでいるときに『昔から生き急いでいるから、早く死ぬんだろうな』っていう話をしていたんです。そしたら『死ぬのなんてやめなよ、結婚するから。死なない方が絶対におもしろいよ』と言われて」

    もともと大森さんには結婚願望がなかったが、この言葉を聞いて「結婚? 何それおもしろそう」という気持ちが芽生えたという。

    「彼は実家ぐらしで『他人と生活できない』と思っていたらしいんですね。実家が好きすぎるから、別居婚するつもりだったみたいです。結婚が決まってから半同棲して、そうしたら『意外と他人と暮らせる』ってわかったみたいです」

    スピード婚、同棲したわけでもない、メジャーデビュー直前……よく言う"ステップを踏んだ"ものではない。不安はなかったのだろうか?

    「結婚願望があるから不安になるんだと思います。まず理想があって、それと違うからしんどいじゃないですか。理想とか期待がなければ、何があっても『わー! おもしろい!』ってなりますよ」

    大森さんはいたって自然だ。大人になる過程で、私たちはさまざまな情報に触れ、「こうしないと幸せになれない」、「こうすれば幸せになれる」と先入観でいっぱいになり、何かを見失っているのかもしれない。

    「結婚したら幸せ、子どもができたら幸せっていうのが嫌。そんなわけないじゃないですか。結婚しなくても、彼氏がいなくても幸せの可能性はそこら中にある。一日レベル、一瞬レベルの目の前の幸せを感じられない人にとって、子どもは幸せをもたらすのかって言ったらそうじゃないと思うんです」

    最後に、「子どもができて一番嬉しかったことは?」というありきたりな質問をした。

    「毎日ありますよ。仕事のご褒美って、高いチョコを買うとか、自分で作ることが多いと思うんですけど、帰れば息子に会える。自動的にご褒美が降ってくるんです」

    「超いいですよ〜! おすすめです」と笑いながら話す彼女は、母であり少女そのものだった。