あるツイートに釘付けになった。こんなことって世の中にあるのだろうか?
「手術の立会人におっさんをレンタルした」。それも子宮全摘出の、だ。
めんたい。さんは、45歳。生理痛もなく、周期も順調だったが、膀胱炎で病院に足を運んだところ、子宮筋腫が見つかった。卵大の筋腫は3つもあった。
急いで手術しなければ、というわけでもないが、「全摘で!」とすぐに手術をすることにした。
「恋人もいないし結婚の予定もない、この年令から妊娠出産育児とか無理。そしてそれを実現できる奇特な男性は存在しないと思うので全摘でいいです。あと生理なくなって便利。しかも卵巣残るなら更年期ないんでしょ? だったらお願いします」
迷いはなかった。子宮を失うことに対して、何も感慨がなかったのだ。しかし、手術は「立会人」が必要だった。
両親はいない。兄弟とは疎遠。友人でもいいとのことだったが、各々仕事もあって頼みづらい――検索してみたものの、便利屋や俳優は高額だった。そんなときに思いついたのが「おっさんレンタル」だった。
「おっさんレンタル」とは、その名の通り「中年男性」をレンタル予約できるサービスだ。立会人が必要でもあるが、単純に興味もあった。サービスの創業者、西本貴信さんの著書『「おっさんレンタル」日記』を読み、ここに頼もうと決めた。
手術の30分前におっさんは現れた。予備知識もなく。
婦人科の手術立ち会い。なかなかハードな内容だったが、メールで問い合わせをしたところ、レンタルできるおっさんが見つかった。
予約は一ヶ月前。手術の30分前にベッドサイドで会話をし、術中および全身麻酔から醒めるまで5時間の待機。これがめんたい。さんの依頼だった。
現れたのは、青白い顔をした47歳のおっさんだった。手にはキティちゃんのぬいぐるみを持っていた。友人の設定で軽く挨拶をし、手術の説明をその場で初めてした。ある単語を聞いた瞬間、顔色が変わる。
「子宮全摘出」
自分が手術をうけるわけでもないのに、おっさんは明らかに落ち込んでいた。「子宮とっちゃうんですか?」、「結婚はしないんですか?」彼は真剣に聞いてきた。めんたい。さんは後悔した。「事前に手術の話をしておけばよかった」。
おっさんの意外すぎる正体
めんたい。さんは、彼の真摯な姿勢に心を打たれた。「婦人科手術」というハードルの高い依頼を受けるプロなおっさんだ。一体どんな人なのだろう? 手術の直前に話を聞いてみた。
彼に家族はいなかった。「おっさんレンタル」に登録したのは、「身寄りがないからこそ人のためになりたい」からだという。「実は…」と彼は続け、ある告白をしはじめた。
「僕も入院してて今日はレンタルだから一時退院してきたんですよ」
彼の腕は点滴の管だらけだった。なにやってんの、帰って寝なよ、そして早い段階で断れよ。生気がある訳もトークが弾む訳もない…めんたい。さんは絶句した。決して快適とはいえない待合室で1時間1000円で彼は依頼人の帰りを待つ。
おっさんは手術室行きのエレベーター前まで見送ってくれた。自分よりも不安げなおっさんに「日本の医療は大丈夫ですよ!」と手を振った。めんたい。さんは7年前に交通事故で3ヶ月ほど入院した経験があったため、確信していたのだ。この手術は絶対に成功する、と。
目を覚ましたら、おっさんがいた。
青白い顔をしたおっさんに、「あーすいません、何時ですか? 体大丈夫ですか? ずいぶん待ったでしょう疲れたでしょう?」と声をかけた。
そして、「前金で足りなかったら連絡下さい、なんかシンドイ依頼でしたよね。すいません助かりました。依頼は以上です。お体を大事に…」と伝えると、意識がなくなった。全身麻酔とは、しばらく体の自由がなくなるものだ。
めんたい。さんは、おっさんに追加料金を払いたいと申し出たが、「ボランティアですから」と言って帰って行った。退院後、彼女はおっさんにメールにて追加料金を支払う旨を送った。おっさんレンタルという一見、奇妙なサービスについてこうツイートした。
「本当に身寄りがなかったり頼める人がいなかった私には感謝してもしきれない。そして今後わたしのような人間は増えるだろう、おっさんレンタルがあってよかったしこれからも繁盛してほしい」
「そして『おっさんレンタル』のすべてのおっさんに幸せになってほしいと願う」
ところで、子宮をとるのは悲しいことではなかった。
術後、彼女はつぶやいた。
めんたい。さんが初潮を迎えたのは9歳のころだった。子どもであるにも関わらず、女性らしい体つきになった。性的な視線に悩まされることもあった。恋愛は楽しんできたものの、40歳を過ぎた頃から「生きていくのが楽」になってきたという。
「社会から求められる女性らしさや意義が重かったですねーでもオバチャンになるとない!楽!そして性の象徴の「子宮」がなくなる、これは本当に自由だと思いました」
子宮全摘出。子どもが産めなくなることを意味し、性の対象でもなくなる可能性もはらむ。これは女性として大きな問題だと思っていた。今回、筆者はめんたい。さんに取材をして、いかに自分が先入観にとらわれていたかと思い知った。彼女はこう締めくくる。
「ひとりでは生きていけないという当たり前のことを痛感しました。商店街のお店の息子さんが荷物運んでくれたり、階段を昇れない時は、近所ご夫婦が手を引いてくれたり。ふとしたことに涙しました。私は立派な人間ではないけれど、悩んでいるひとになにかできる人になろうって決めました。おっさんもそうだったかもしれません」
「時間って本当に心の傷に効く薬なんですよ、そして今では思いもつかないけれど先々びっくりするような幸せがあったりします。おばちゃん、これ自分の体験から保証します」
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