勝った!舞った!泣いた!
広島カープが10日、東京ドームで行われた巨人戦に今季を象徴する逆転での勝利で、1991年以来25年ぶりとなるリーグ優勝を達成した。
緒方孝市監督に続き胴上げされたのは黒田博樹、新井貴浩という2人のベテランだった。
鈴木誠也、菊池涼介、野村祐輔…。優勝の立役者は数多いが、黒田と新井は精神的支柱としてチームを支えた。
同じ年にカープを離れ、同じ年に戻ってきた2人
1991年に優勝して以来、セ・リーグ最長となる25年間優勝から遠ざかったカープ。Bクラスの常連と低迷期を迎えた時期、黒田はエース、新井は主砲として活躍した。
2007年オフには黒田はロサンゼルス・ドジャース、新井は阪神タイガースにFA移籍。別々の道を歩んだ2人だったが、2014年オフにともにカープに復帰した。
黒田はメジャーの20億円のオファーを蹴っての再入団。新井は退団の経緯から「裏切り者」とカープファンに呼ばれたこともあったが、故郷の球団へ再び戻ることを決めた。
2人の道は再び重なりあった。今度こそ広島に優勝をもたらしたい。思いは同じだった。
ムードメーカーの「新井さん」
新井が2000本安打達成目前の4月23日の阪神戦の練習時、広島の選手、スタッフはお揃いのTシャツを着用した。
Tシャツの背中には「まさか、あのアライさんが…。」との文字と、フライを落球する新井の姿が描かれた。
Tシャツは黒田、選手会長の小窪哲也を中心に製作。年の離れた後輩にもいじられる、新井のキャラクターは明るい雰囲気をチームにもたらした。
いじられキャラは飾らない性格の裏返し。春キャンプから志願の特守で泥にまみれ、全体ノックでも若手に負けない声を出す。
本塁打王を獲得した経験を持つ新井だが、4番に座った今シーズンもチームバッティングを心がける。
「状況次第ではサインが出てなくても進塁打を狙っている」(RCCテレビ『Eタウンスポーツ』)
ただ勝利のために。その姿勢は周囲の選手も刺激した。
メジャーの経験を若手に伝えた黒田
「体が万全ではない中、ローテを守ってくれて、今日も闘志あふれるプレーをみせてくれた」
優勝インタビューで緒方監督は黒田をねぎらった。
5月8日には右肩痛と頸部神経根症のため出場選手登録を抹消。復帰後も痛みをかかえながらもローテーションを守った。
優勝のかかるこの試合でも先発。6回3失点と粘りの投球でゲームを作り、後輩に後を託した。
メジャーから復帰した昨年は、近づきがたいと考える若手との距離もあった。だが、今シーズンはその距離が詰まった。
春季キャンプでは若手投手に積極的に技術指導し、チームが遠征の際は、
同行しない広島残留組と食事をともにした。
新エースとなった野村祐輔はマウンド上のプレートに立つ位置を、今までの三塁側に近い方から、黒田と同じ一塁側に近い方に変えた。
ピッチングの心構えを伝えられた野村は、昨季5勝から今季14勝と大きく勝ち星を伸ばした。
いつしか近寄りがたい雰囲気もチームになくなっていた。
7月23日、黒田が日米通算200勝を達成したセレモニーでは、選手、スタッフが背中に「あの黒田さんがまさか…1イニング10失点」との冗談交じりのTシャツで出迎えられた。
「あれは新井の仕返しだと思うんですけど」と会見で話した黒田は笑顔だった。
25年ぶりの優勝に2人はいた
優勝が決まり、広島の選手たちがマウンドに集まる。新井は笑顔交じりの涙、黒田は目頭を押さえる。涙が止まらない。
そして2人は固く抱き合った。夢にまで見た優勝だ。そんな2人を緒方監督、チームメイトたちは笑顔で見守った。
黒田は2015年2月の入団会見で、復帰の決断について「カープファンでよかったと思ってくれたらそれだけで嬉しいです」と話している。
東京ドームで、広島の街で。赤いユニフォームに身を包む人々はみな笑顔だ。
四半世紀ぶりの優勝もうれしい。そこに黒田と新井がいることもうれしい。
カープファンでよかった。誰しもがそう思っているはずだ。