「突然ですが、私、浅田真央は、フィギュアスケート選手として終える決断を致しました」
女子フィギュアスケートのバンクーバー五輪銀メダリスト・浅田真央が4月10日夜、自身の公式ブログで現役引退することを発表した。
それは突然の発表だった。
最終目標と語っていた平昌五輪まで1年を切ったこの日の夜10時に更新されたブログで、浅田はリンクから離れる決断をつづった。
「ソチオリンピックシーズンの世界選手権は最高の演技と結果で終える事ができました。その時に選手生活を終えていたら、今も選手として復帰することを望んでいたかもしれません」
浅田は2013年4月に一度、ソチ五輪のあるシーズンをもって現役からの引退すると表明していた。
集大成として臨んだ2014年ソチ五輪、ショートプログラム(SP)でトリプルアクセルでの転倒などまさかのミスが続き、16位スタート。自身、そして日本中が待ち望んだ金メダルの獲得はこの時点で消えた。
だが、強い意思をもって臨んだフリー。冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させると計8度の3回転ジャンプをすべて決める完璧な演技を見せ、シーズン自己ベストとなる142・71点をマーク。
逆境に負けない強さに、エフゲニー・プルシェンコはツイッターで「真央は素晴らしかった。トリプルアクセルは特に良かったよ。君は真の戦士だ」と語るなど、世界中のスケーターから惜しみない賞賛が送られた。
ソチから帰国後の記者会見。現役続行の意思について「今のところはハーフ、ハーフ」と答えた。
2014年3月にさいたまスーパーアリーナで開催されたフィギュア世界選手権ではショートプログラムで当時歴代最高得点となる78.66、フリーでも138.03を獲得。自己ベストを大きく更新する216.69点で自身3度目となる世界選手権を果たす。
シーズンを終えると「自分の体も心もお休みする」と今後について考えたいと1年の休養を決めた。
「実際に選手としてやってみなければ分からない事もたくさんありました」(ブログより)
休養をへて、浅田は2015年5月18日、現役続行を表明する。
翌19日の会見では「自然と試合が恋しくなった」と理由について語った。
競技復帰後のジャパンオープンでは1位。グランプリシリーズ復帰となる中国杯でも優勝し、NHK杯では3位と順調な歩みに見えた。
だがグランプリファイナルでは最下位となる6位。表彰台の頂点で、あの輝くような真央スマイルを見られる機会はその後なかった。
実はこのシーズン、浅田は左膝を痛めていた。
左膝は2016年になっても浅田を苦しめ続ける。デイリースポーツによれば、指導する佐藤信夫コーチも報道陣に「(練習を)追い込めていない。追い込めれば、これぐらい出来るというのが分かるけど、(悪化が)怖いからできていない」と明かすほどに、練習もままならない。
「復帰してからは、自分が望む演技や結果を出す事が出来ず、悩む事が多くなりました」(ブログより)
今シーズンのグランプリシリーズの初戦アメリカ大会は6位。続くフランス杯では9位に沈み、「自分の自信が、全て失われた」と涙する場面もあった。
そして、2016年の全日本選手権。フリーでは代名詞であったトリプルアクセルでも転倒し、結果は全日本自己ワーストとなる12位。9大会連続の世界選手権代表の座を逃した。
演技後、集まる記者に来季の競技続行を語っていたという浅田。
だが、ブログでは次のように心境を語っている。
「去年の全日本選手権を終えた後、それまでの自分を支えてきた目標が消え、選手として続ける自分の気力もなくなりました」
全日本選手権の演技が、現役最後の演技となった。
浅田は現役引退という決断について、次のように語っている。
「このような決断になりましたが、私のフィギュアスケート人生に悔いはありません。これは、自分にとって大きな決断でしたが、人生の中の1つの通過点だと思っています」
小学生のころから天才少女と呼ばれ、15歳にしてGPファイナルで初優勝。
2008年に世界選手権で優勝し、2010年、初の五輪となるバンクーバー大会ではライバルのキム・ヨナに敗れたものの、銀メダルに輝いた。
なにより氷上で見せる美しい演技、ひたむきな姿、輝くような笑顔が、多くの人を楽しませ、勇気を与えた。
浅田のブログの最後はこうつづられている。
「この先も新たな夢や目標を見つけて、笑顔を忘れずに、前進していきたいと思っています。皆様、今までたくさんの応援、本当にありがとうございました」
感謝を告げるのはこちらの方。氷上の妖精に対して、日本中誰しもがそう思っているはずだ。
織田信成「お疲れ様でした。これからもずっと真央ちゃんのスケートが大好きです」
安藤美姫「まおと同じ時代にスケートができて 選手として同じリンクで日本代表として滑っていられた事を誇りに思います」
無良崇人「真央が居たから、僕らもここまで頑張れた」
村主章枝「びっくりしたけど、本当によく頑張った」
そして浅田舞は妹をこうねぎらった。「姉としても、ファンの1人としても、彼女の選手としての生活に心からお疲れ様。そして本当に多くの感動をありがとう」。
真央に涙は似合わない。笑顔と感謝で送りたい。