「悪質記事は神への冒涜」 サイバーエージェント「Spotlight」を殴るヨッピーに聞いた

    すべてはインターネットのために。

    サイバーエージェントが運営する「Spotlight」

    DeNAが運営する医療情報メディア「WELQ」をはじめとするキュレーションメディア10媒体が記事の信用性や盗用が問題になり、全記事を非公開にした。

    その流れで、リクルートホールディングスの「ギャザリー」、KDDI子会社の「nanapi」などが相次いで記事の非公開化を始めた。

    サイバーエージェント社が運営する「Spotlight」も、その一つだ。

    ヨッピーが声をあげた

    ここで声をあげたのが、フリーライターのヨッピーさん(@yoppymodel)だ。

    12月9日、「炎上中のDeNAにサイバーエージェント、その根底に流れるモラル無きDNAとは」という記事を公開した。

    Spotlightに大量のパクリ記事があることに気づいたヨッピーさんが、数ヶ月かけて証拠を収集し、弁護士に相談し、サイバーエージェント側と交渉を続けてきた顛末が書かれている。

    パクリ例として、人気マンガ家の鴻池剛さんや、ライターの地主恵亮さんの記事の盗用などが具体的に挙げられている。これらは、本人に一切許諾を取っていないものだという。

    ちなみに、現在は削除されたが、BuzzFeed Japanの記事も何件か盗用されていた。編集部宛に許諾申請の連絡はなかった。

    文章から写真までBuzzFeed Japanから丸パクリしている記事の例

    ヨッピーさんは、Spotlight編集長である渡辺将基氏に対し、著作権を侵害するパクリ記事を書いていたライターへの厳罰や、問題記事の削除、権利侵害窓口の整備、和解金の支払いなどを要求していた。

    渡辺氏は、ヨッピーさんに対し、メールで対応する意思を見せたが、改善はされなかったという。

    ヨッピーさんは数十万円の自腹を切って弁護士や警察にも相談している。

    ヨッピーに戦う理由を聞いてみた

    BuzzFeed Newsは、ヨッピーさんに話を聞くことにした。なぜ、これだけの時間と費用をかけて戦うのか。

    「僕、インターネットの人たちに褒められたかったんですよ。ライターの端くれとして悪質メディアを問題視してるっていうのももちろんあるんですけど、やっぱりインターネットの人たちに褒められたいんです。でかしたー!って」

    「それでね、以前やっつけたBUZZNEWSなんて小物じゃないですか。狙うなら大将首を狙わないかん、と。そこでサイバーエージェントのSpotlightを狙うわけですよ。あの大将首取ったら褒めてもらえるかなって」

    「それで自分なりに弁護士雇ったり警察とか知り合いに相談してたり、まぁ本業もあるし、ズルズル時間がかかってたんですけど、そしたらいきなり朽木さんとか辻さんとかBuzzFeedさんとかが、わーって一斉に飛び出してDeNAっていう大将首を取ってきたわけですよ」

    「僕からしたら『えーっ!!』って。『主戦場そっち!?』って。『僕も僕なりに一生懸命戦っていたのにー!!』と。関ヶ原の戦いで乗り遅れた徳川秀忠みたいなもんですよ。本当は一番槍で大将首取って、みんなから褒められたかった……」

    「1ライターとしてはそんな感じなんですけど、1インターネットユーザーとしては大喝采!って感じです。本当に素晴らしい仕事だったと思います」

    このように話すヨッピーさん。

    私(播磨谷)はBuzzFeedに入社する前、編集プロダクションでヨッピーさんの担当を務めていた。

    2014年にパクリサイトとして悪名高かったBUZZNEWSを「フルボッコ」にしてサイト閉鎖に追い込んだときも、担当だった。軽い文体とは裏腹に、地道に取材し、記事を書く姿を間近で見ていた。

    (※BuzzFeedとBUZZNEWS、名前は似ていますが一切関係ありません)

    「褒められたい」というのも本心だと思う。しかし、人一倍責任感が強く、インターネットが大好きで、インターネットをよりよくしたいと本気で考えているヨッピーさんだからこそ、ここまでやるのだろう。

    「広告主、代理店にも責任がある」

    インターネットをよくしたいと願うヨッピーさんだからこそ、問題はキュレーションメディア側には止まらないと指摘する。

    問題のあるメディアに広告を出稿するクライアント、代理店の存在だ。

    「DeNAにしろサイバーエージェントにしろ、検索流入だけではそう儲からないでしょ? クライアントが出稿する記事広告も大きな収入源なわけで」

    「それ、『悪党に手助けしているじゃん!』って。『インターネットヤクザに、おこづかいあげてるじゃん!』って。広告を出すメディアが悪質なメディアではないか、コンプライアンスは大丈夫か、みたいな事をクライアントもちゃんとチェックしないといけないと思います。しょっちゅう全裸になってる僕にコンプライアンスとか言われたら終わりですよ、ほんと」

    「そのせいで結局、悪いメディアが生き残って、足を使ってしっかり取材をしているメディアにお金が回らないのっておかしくないですか? そもそも、そういうモラルがないメディアなんてクライアントに対してもモラルが無いに決まってるんだから」

    「実例として、Twitterのシェアをカネで買ってブラジル人のbotが大量に記事を呟いたりしてて、その上で『◯◯◯シェアされました!』とかクライアントに報告してる所、マジでありましたからね。そんなところにお金出さない方が良いでしょ? PV報告だってどこまで本当かわかんないですよ」

    広告代理店側の反応は「対策とか何も出ていない」

    BuzzFeed Newsは、大手広告代理店に務める男性社員にも話を聞いた。

    「うちでも、これらのキュレーションサービスを実際、広告主に提案していますし、実行してます。出稿差し止めなどの話はしています」

    ただ、ヨッピーさんが言うように、出稿しようとするメディアに問題がないか調べるような対策は、まったく話し合われていないという。

    「リーガルリスク、倫理リスクのある媒体を売っていたわけですから、そこに関して危険という認識を持たないといけないはずなのですが、うちにおいては今後の方針、対策とかなにも出ていないのが現状です」

    問題は出始めた段階。これから変わっていくのでは?

    「いや、変化しないかもですね。この危険な状況を理解してる人が全然いない事実こそが恐ろしいです」

    より良いインターネットを作っていくために

    今回、問題になったキュレーションメディアの多くは、外部委託のライターたちが安い料金で仕事を請負、記事を書いていた。

    Spotlightはそれらの記事でPVを集め、急成長したわけだが、「記事の法律上の問題はライター個人が背負う」としている。

    ヨッピーは、外部委託で記事を書いている人、これから記事を書こうと思っている人に向けて、こう話す。

    「あと、ライターの人達にも言っておきたいんですけど、悲しいけどSpotlightみたいにライター個人に全ての責任を負わせるメディアが実在しちゃうわけじゃないですか。そういうのって大抵は原稿料も安いし、大して儲からないのに刑事告訴なんてされたら嫌でしょ? 悪質メディアで記事は書かない方が身のためだし、著作権なんかについてはちゃんと勉強しておいた方が良いと思います」

    ライター、メディア運営者、広告主、代理店。4者のリテラシーが向上すれば、WEBメディアはいい方向へ向かっていくとヨッピーさんは提唱する。

    「読者は神様で、悪質な記事は神への冒涜」

    最後に、WEBメディアを利用する読者について聞いた。

    「読者の人からしたら、ネットに記事があれば、それが正しい情報なのかイチイチ調べなきゃいけないのは面倒じゃないですか。僕からしたら読者は神様で、神様にそんな面倒なことさせてられないんですよ」

    「悪質な記事って僕からしたら神への冒涜です。読者のリテラシーが〜、みたいな事を言う人も居ますけど、今回の件は、完全にWEBメディアの全体の責任であって、読者のリテラシーの問題にするのは少し違うと思う。リテラシーが低い人でも安心して利用出来るものじゃなきゃだめだと思うんですよ。僕もライターの端くれとして、がんばって参ります」

    「あと、お金儲けしたい人はWEBメディアなんかやらない方がいいですよ。WEBメディアで儲ようと思ったら、今回みたいにズルをしないといけなくなってくるから。丁寧にやってたら『食える』とか『まあまあいける』くらいにはなったとしても、『儲かる』までは絶対にいかないと思う」

    「ただ、やりがいはあるし、めっちゃ楽しい仕事でもあります。お金儲けひとまず置いておいて、そこに共感できる人だけ残ってくれればいいかな、って」