「拝啓 清原和博様」 Numberが贈った話題のメッセージ  編集長に想いを聞く

    清原さんに読んでもらいたい。

    拝啓 清原和博様

    1985年の夏、高校一年の私は父のクルマの中で編入試験の合格発表を待っていました。ラジオからPL対宇部商の中継が流れています。

    「ここでキヨハラが打ったら、俺も受かる……」。

    次の瞬間、あなたはホームランを打ちました。甲子園はキヨハラのためにあるのか。

    次の打席も、あなたはホームランを打ちました。以来、あなたのホームランに、一体どれだけ励まされつづけたことか。

    今回、PL時代にあなたが甲子園で打った13本のホームラン、その対戦相手すべてに話を聞きました。みな、あなたと真剣勝負をした記憶と、あなたと同世代に生きたことを誇りにしておられました。あなたが野球に帰ってくるためにできることはないか考えておりました。

    この特集記事は、あなたに励まされつづけた私たちからのプレゼントです。

    あなたが、再び小誌の誌面に登場する日が来ることを私は信じています。

    これは、スポーツ総合誌「Number」8月10日発売号の編集後記だ。Twitter上で拡散され、話題になった。

    本誌に込められた清原への思いとは。BuzzFeedは、Number編集部を訪ねた。

    清原特集を組んだ経緯

    本号は「甲子園最強打者伝説」と題し、PL学園時代の清原について特集が組まれている。

    甲子園で清原にホームランを打たれた全投手へのインタビューや、後輩である立浪和義さんと、片岡篤史さんから見た清原など、20ページに渡り、綴られている。

    編集長の松井一晃さんと、記者の鈴木忠平さんに思いを聞いた。

    松井さん(以下、松井):夏は甲子園特集を組むのが定番。Numberは今年で37年目ですが、これまでも、甲子園に関するさまざまな特集を組んできました。

    春の皐月賞の取材の帰り、鈴木と西船橋駅で飲んでいたんです。私は奈良出身なのですが、高校一年生のとき、親が仕事で東京に転勤することになって。それで、船橋市内の高校の編入試験を受けることになりました。1985年、夏のことです。

    試験結果を父の車で待っていたとき、ラジオからPL学園対宇部商の中継が流れてきました。「ここで清原が打ったら俺も受かる……」というような編集後記にも書いた話になって。今じゃ堕ちた英雄のように扱われているけど、清原さんって本当にすごいバッターだったよな、と盛り上がったんですよ。

    鈴木さん:僕は清原世代ではないのですが、編集長の話を聞いて、すごく共感しましたし、熱を感じたんです。そして、2人で「今だからこそ、やりましょう」となったんです。

    松井:もちろん犯罪は犯罪。犯してしまったことは償わなければなりません。しかし、清原さんが素晴らしい打者であったことは事実です。

    当時、彼に励まされ、熱狂し、影響を受けた人は数知れません。そんな人が、このまま朽ちていくのは嫌だった。ただ、「立ち直って欲しい」と思ったんです。許したいとかでは決してありません。

    偉そうだけど、清原さんが立ち直るためになにかできることはないか。個人的には、そういう思いもありましたね。

    清原を否定することは、過去の自分を否定すること

    松井:ただ、実際に会議で話し合うと、編集部内にも執行猶予中の人間を表紙にして、特集を組むのに反対する部員はいました。

    けれど、PL時代の清原さんと、いまの清原さんは切り離して考えていいと思うのです。犯罪を犯したからと言って、彼が31年前に甲子園で成し遂げたことは嘘じゃない。

    先ほども述べましたが、同世代にとってヒーローだったのは事実。清原さんの存在をなかったことにするのは、過去の自分まで否定する行為だと思うのです。

    「清原ってやっぱりすごかったよな」と思い出してもらいたい。それも今回の特集を組んだ動機のひとつです。

    あと、僭越ですが、実際に鈴木をはじめとした部員たちが創った記事をゲラで読んで、これは清原さん本人に読んでもらいたいと思ったんです。だから、編集後記も清原さんに宛てた。

    取材に応じてくれた投手たち、後輩たち。みんなの思いが届けば「またがんばろう」と思ってくれるんじゃないかと。

    編集後記が話題になっていますが、特集記事の方こそ、ぜひできるだけ多くのみなさんに読んでもらいたいんです。特集があっての、後記なんですよ。

    最後、松井さんにこんな質問をしてみた。

    ーいま目の前に清原さんがいたら、なんと言いますか?

    少し考えてから松井さんは、こう応えた。

    「『あなたと同じ時代に生まれて本当に良かったです』……かな。もちろん、編集者としては、一体どうしてこんなことになったのかも、きちんと聞かなきゃならないんですが」

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