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エキノコックス「人にはうつらない」の誤解 何に気をつけるべき?

あるテナガザルの死因として、寄生虫の「エキノコックス」が疑われている。一部で「人にはうつらない」と報道されたが、実際は気をつけるべき動物がいる。

札幌市の円山動物園で飼育されていたテナガザル「グレコ」が5月8日朝、亡くなった。人懐っこさから、来園者の人気者だった。

グレコは40歳だった。テナガザルの寿命は飼育下で30〜40歳と言われているが、その死の原因は老衰ではなかった可能性がある。

考えられるのは「エキノコックス」。キツネや犬などを終宿主とする寄生虫で、日本では北海道に分布している。

正確な死因は、現在、同動物園と北海道大学獣医学部および道立衛生研究所が共同で調査中だ。

そんな中、一部報道でエキノコックスが「動物間でもうつる病気ではない」「人への感染の危険はない」とされたことが、ネットで話題になっている。

この図からもわかるように、エキノコックスは自然界ではキツネと野ネズミの「食べる・食べられる」の関係で感染するものだ。また、人獣共通感染症であり、北海道では毎年約20人の患者が報告されている

つまり、エキノコックス自体は、動物間でもうつるし、人への感染の危険もある寄生虫だ。

キツネや犬では感染しても無症状のことが多いが、人間は数年〜十数年の潜伏期を経て、上腹部の不快感や膨満感、次第に肝機能障害に伴うだるさや黄疸などの症状が現れる。放置すれば肺や脳に転移し、命に関わることもある。

にもかかわらず、どうして「人にはうつらない」と報道されたのか。BuzzFeed Newsは円山動物園飼育展示課課長の山本秀明さんに、経緯を聞いた。

「人から人」「サルからサル」「サルから人」には感染しない。だからと言って、動物間でうつらない・人に感染の危険がないわけではない。

まず、山本さんはエキノコックスについて、「動物間でもうつる」寄生虫で、「人への感染の危険がある」ことを、取材時に資料として提供していたそうだ。

エキノコックスは、人と人、サルとサル、サルと人など、中間宿主の間ではうつらないとされる。危険なのは、キツネや犬などの終宿主が排泄したフンの中に含まれている虫卵。これを経口摂取することで、人やサルにうつることがある。

取材では「感染したサルから他のサルや人間にはうつらない」と回答したが、一部の言葉だけが報道されたため、「動物間ではうつらない」「人への感染の危険はない」と誤解されてしまったのでは、というのが山本さんの見解だ。

では、グレコの死亡原因は何だったのか。山本さんは、もしエキノコックスに感染したのであれば、やはり、キツネの糞とともに排泄されたエキノコックスの虫卵と何らかの接触をしたことが、原因として考えられるとした。

「グレコが以前いた獣舎で、園内に侵入したキツネが檻のすぐ近くまで接近してフンをして、そのフンの中の虫卵が付着した草などを、グレコが檻から手を伸ばして食べてしまった、ということは可能性のひとつとしてあります」

実は、同動物園では、過去にも他のサルがエキノコックスに感染(6例)・死亡(うち4例)している。当時、対策として、キツネの侵入防止のフェンス設置や駆虫薬入りの餌の定期散布、飼育動物の検査・投薬などが行われた。また、現在は、檻越しに手を伸ばしても、草などを取れない対策を施している。

山本さんによれば、グレコも当時、検査・投薬を受けてはいるが、そこでは異常は見られなかったという。ただし、感染後1〜2年は陽性反応がでないことがあるため、実際には対策前に感染していた可能性もある。

来園客の安全は? そう質問すると、山本氏からは「グレコの事例」と「北海道におけるエキノコックス予防」は切り分けるべき、との回答があった。

つまり、今回のグレコが感染したのがエキノコックスだったとして、それが同じ檻のテナガザルや、来園客に感染することはない。しかし、グレコと同じ感染源、つまりキツネなどから感染する可能性は、北海道ではどこでも、今までもこれからもあるのだ。

地域にもよるが、キツネは北海道では当たり前の動物だ。札幌市の公式サイトの注意喚起によれば、人がエキノコックス感染を予防するために必要なのは、野生のキツネに手を触れないこと。餌づけもNGだ。

また、野山に出かけたときは、虫卵に汚染されている可能性があるため、生水を飲まない。果実や山菜などもそのまま口にせず、流水でよく洗い、十分加熱する。帰ってきたら手をよく洗い、衣服や靴についた泥もよく落とす、などの対策が挙げられている。