プール飛び込みで首骨折……繰り返される悲劇 原因は「現実離れした指導」と都教委

    7月14日、都立高校のプール授業。一人の生徒が搬送された……

    生徒は首の骨を折り、胸から下が十分に動かない状態だという

    7月14日、都立高校でプールの授業があった。3年生の男子生徒(18)は保健体育を担当する男性教諭(44)に、飛び込みの指導を受けていた。男性教諭は手にデッキブラシを持ち、その柄を越えて飛び込むよう指示した。

    ブラシの柄は、プールサイドに立つ教諭の足元から1メートルほどの高さにあった。生徒は水深約1・1メートルと浅かったプールの底に頭を打ち、病院に搬送された。

    幸い一命はとりとめた。しかし、首の骨を折り、胸から下は十分に動かない状態に。今も、リハビリを懸命に続けている。過去を振り返っても、飛び込み事故はこの1件だけにとどまらない。教育現場に危機感はあるのか?

    繰り返される飛び込み事故

    学校のスポーツ事故に詳しい名古屋大大学院准教授の内田良さんの記事によると、1983年度〜2014年度にかけて、学校管理下のプール飛び込み事故で、障害を負ったケースは172件あり、昨年も首骨折など重大な事故が少なくとも3件起きている。

    今回も、障害が残る可能性がある重大な事故だ。過去にも、起きたことが繰り返されたと言える。

    東京都教委「現実離れした指導」

    この事故を東京都教委はどう受け止めているのか。

    担当課長の佐藤浩さんは「なぜ、今年になってもブラシの柄を飛び越えさせるような指導があるのか……。これだけの大変な事故です。現実離れした指導であり、男性教諭の知識がなかったと言わざるをえない」と話す。

    都教委によると、過去にも飛び込み事故があり、それを受けて2001年、水泳事故防止対策をまとめたリーフレットを作った。これが現在まで、水泳指導のベースになっている。リーフレットの中で、危険なスタートについてもまとめられている。

    「空中高く飛び込む」は危険なスタートに当たる、という例示がその中にある。今回、男性教諭はプールサイドに立ち、1メートルほどの高さで、デッキブラシの柄を横にして持って、柄を越えて飛び込むよう指示した。

    「これは、危険なスタート指導にあたると考えています。この指導で入水角度が大きくなった。私たちは適切な指導ではなかったと考えています」と佐藤さんは厳しい声で語る。7月20日付で飛び込みについて安全に配慮するよう、各校に文書を出したという。

    「今でもこんなことを……」現場からも驚く声があった

    そもそも、都教委はリーフレット作成と時期を同じくして、プールのスタート台を取り払っていた。入水角度を大きくしないための措置だ。これ以降、高校のプールで飛び込みを指導すること自体、減っていたという。

    「(飛び込み指導について)統計はありませんが、現場からは減っていたと聞きます。今回の指導の内容を聞き、体育教諭から『今でもこんなことをやっているのか』と驚く声もありました」(佐藤さん)

    男性教諭は都教委の調査に対して「目標を設定したほうが、生徒たちも努力をする。それが(水泳の)スタートができることにつながっていく」と指導の意図を説明したという。

    佐藤さんは「安全面での知識や能力があれば、こんな指導は考えられない。水泳については、高校の代表者を集めて毎年、説明会をしていたが、現場にどう伝わっていたのか……」と話す。

    都教委が検証すべき課題は多く、残っている。

    スポーツ庁担当者→「事故が繰り返されるようなら、対策を考えていかないといけない」

    学習指導要領などによると、中学までは安全の確保を理由に、飛び込みではなく、水中からのスタートを教えている。高校では「水泳のスタートについては、段階的な指導を求めています」(体育授業を管轄するスポーツ庁担当者)。つまり、飛び込みを禁じてはいない。

    今回の事故を受けて、何か動きはあるのか。

    スポーツ庁の見解はこうだ。「この事故を受けて、特別なにかをすることは考えていない。学習指導要領など現状であるものを周知徹底する」

    「周知徹底」して事故が防げるなら、今回の一件は起きていないのではないか。そう質問すると、担当者はこう答えた。

    「事故が繰り返されるようなら、対策を考えていかないといけない」

    飛び込み事故はすでに繰り返され、低くないリスクが指摘されている。対策を検討する時期に入っているのではないか。