STAP細胞:小保方晴子氏を取り上げるメディア 研究不正は語られたのか

    瀬戸内寂聴さんとの対談は…

    STAP細胞をめぐる研究不正問題で、理化学研究所を辞職した小保方晴子さんが5月24日発売の「婦人公論」(中央公論新社)で作家の瀬戸内寂聴さんと対談している。メディアに自ら登場するのは2年前の会見以来だ。

    2016年1月に講談社から出版された手記「あの日」は26万部以上を売り上げている。しかし、この問題を追いかけてきた科学者からは、「STAP細胞の論文で挙げられた疑義は多岐にわたり、この本ではそのすべてに答えていない」(近畿大講師・榎木英介さん)といった声も上がる。

    今もネット上で浮かんでは消える、「小保方さんははめられた」「STAP細胞はある」という擁護論。この対談で、彼女は何を語ったのか。

    2人が語った「あの日」

    小保方さんは白いひざ上のワンピース、襟元には花柄の刺繍がある。白いハイヒールをはき、全身を白で統一した服装で、瀬戸内さんと腕を組み写真に収まっている。柔らかなパーマをかけた髪はたっぷりと肩にかかり、微笑みを浮かべている。

    対談は瀬戸内さんの呼びかけで実現した。瀬戸内さんは「あの日」を高く評価し、「この本を読まなれば、真実を知りえなかった、とぞっとした」と語る。

    「あの日」は失恋の物語

    小保方さんは対談の中で、こう返している。

    「『あの日』は失恋の物語です。何より愛していたものを失った、失恋の話として私は書きました」

    「最近、私たちが発表したSTAPという名がついた論文が発表されました。まるですべてが握りつぶされたわけではなく、バトンは繋がっていたのだなと思いました」

    瀬戸内さんは「『あの日』には、人間関係がよく描かれている」「あなたは、死ぬかもしれないという気持ちで書いた。それが強みです」と、文章論を語る。小説の書き方を教わりたいという小保方さんに、「私がものになると言ったら、必ずなる。だから小説を書きなさい。見返してやりなさい」と瀬戸内さんが勧めて対談は終わる。

    「STAP」という単語が登場するのは、対談中に上記の一度だけ、一連の研究不正に関する議論はなく、小保方さんのこの2年間の暮らしや「あの日」の内容が主だった。

    これは科学の議論ではない

    STAP細胞問題の取材、執筆を続ける科学ライター、粥川準二さんはBuzzFeed Newsの取材にこう話す。

    「(小保方さんを巡る話は)もはや科学の議論ではありません。小保方さんから科学者コミュニティーが納得するような説明は語られていません。個人への過剰なバッシングは問題がありますが、不正があった研究や論文とは別の問題なのです。そもそも、小保方さんらが『ネイチャー』誌に発表した、STAP細胞の論文は研究不正があり、すでに撤回されています」

    いまでも、インターネット上では「海外でSTAP細胞研究が成功した」「小保方さんは実は間違ってなかった」といった議論が起こる。

    粥川さんはそれをネット上に広がる「流言」と呼ぶ。

    「STAP細胞が科学的に再現されたと主張するためには、小保方さんたちと同じ研究対象、方法、結果が求められます。そのうち、どれかが違ったら、それは別の研究です」

    小保方さんらと同じ条件で再現に成功した人はいるのか。粥川さんがすでに検証している。

    2015年9月には、理研の調査で実務を担当した研究者たちがSTAP細胞とされたものはES細胞に由来するものであることを明らかにしたこと、7つの研究者グループが小保方論文の追試に失敗した(再現できなかったこと)ことが、それぞれ論文の形式にまとめられて『ネイチャー』の「BRIEF COMMUNICATIONS ARISING」という投稿欄に掲載された(Nature 525(7570): E4-5, 2015; Nature 525(7570): E6-9, 2015)。

    (小保方さんが)科学者として科学的な主張をしたいのであれば、このBRIEF COMMUNICATIONS ARISINGに反論を投稿すべきだ。「STAP細胞をめぐる「流言」を検討する」(ウェブサイト『シノドス』)

    「今後、小保方さんたちのアイディアと関連するような、研究が成功する可能性は十分にあるでしょう。しかし、繰り返しになりますが、大事なのは、同じ対象、方法、結果。それが伴わない限り、仮にSTAP細胞と同じような研究結果が出てきても、小保方さんの研究、論文に不正があったことは覆りません」

    「婦人公論」編集部は……

    BuzzFeed Newsは、研究不正について触れていない理由や企画意図について、婦人公論編集部に聞いた。「FAXで質問項目を送ってほしい」と返答があった。

    質問状を送ったところ、婦人公論を発行する中央公論新社から「誌面に記載してあること以外についての回答を控えさせていただきます」と一行のみの返信があった。