子供を外に放置するのが「しつけ」? 「虐待」との境界を専門家に聞いた

    本当の問題は社会の支援にある

    北海道の山中で、小学校2年生、田野岡大和君が行方不明になり、捜索が続いている。田野岡君はなぜ山中に1人でいたのか。当初、「山菜採りにいき、行方不明になった」と説明していた両親が、一転して「しつけ」のため山中に放置したと説明を変えた

    ウェブ上では「これは明確な虐待」と両親を批判する声のほか、「『置き去り』という手段は割とよく聞く」として批判から距離を置く声もでている。

    虐待としつけの境界はどこにあるのか

    虐待と社会的支援のあり方に詳しい、北海道・名寄市立大学の山野良一教授(社会保育論)に聞いた。

    山野さんは、かつて児童福祉司として、神奈川県内の児童相談所(児相)で働き、アメリカ・ワシントン大学留学中もソーシャルワークの現場経験を積んだ。

    山野さんはこう指摘する。

    「虐待は子供の権利を侵害するもの。しつけは子供の権利を擁護し、成長のための行為と分けられますが、境界はあいまいです。一概に境界線を引けないから、児相の職員が虐待を疑われる親のところにいっても、『うちの教育に文句があるのか』という問題が起こる。明確に言えるのは、子供の感情を考えずに親の感情に任せて、行動をとるのはよくないということです」

    「かつては暴力で押さえつけるしつけが容認されてましたが、いまは容認されない。暴力が子供の発達を阻害するのは明確だからです」

    「子供を一人、屋外に放置する」ことが、しつけとして容認される風潮もあったという。

    「しつけとして言うことを聞かない子供を外に出すというのは、日本の家庭に見られる行為です。かつては許されてきましたが、いまの時代では明らかに問題がある。寒い冬場に外に出すのは、明らかに虐待です」

    長時間の放置は、それ自体がよいことではない、と山野さんは指摘する。

    「冬に一人で放置されている子供をみたら、児相に通報したほうがいい。もちろん、夏場ならいいというわけでありません。長時間、放置すること自体が子供の発達にはよくない。この事実をおさえる必要があります」

    「私も児相時代に、外に追い出された子供が行方不明になり、警察が捜索することがありました。その時も、親は『しつけであり、虐待だと思われたくなかった』とまったく違う説明していました。こういうケースは珍しくはないのです」

    山野さんは社会の問題として捉える、という立場をとる。

    「虐待に加担した親を『ひどい』と責めるだけでは、問題は解決しません。虐待だと思われたくなかった、と話す親、家庭の背景に社会的な問題はないのか。自分たちの周囲でも『しつけ』と称して、放置や暴力を肯定していないか。そこまで考える必要があります」

    UPDATE

    6月3日午前7時30分頃、陸上自衛隊駒ケ岳演習場内で、不明だった田野岡くんが無事、発見された。