凶悪犯罪は10年で半減した
窃盗はなんと3分の1に
特集に寄稿した桐蔭横浜大の河合幹雄教授(犯罪社会学)は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。
「1960年前後をピークにして、少年による凶悪犯罪は減少傾向にありました。1990年代後半に、酒鬼薔薇事件などで少年が引き起こした凶悪事件が増えたと言われましたが、犯罪統計的にはまったくの誤りです。実際には減っていました」
「この10年、とりわけ直近5年の間に少年事件には大きな変化が生じています。少年事件全体でさらに減ったのです。子供の数が減ったというだけでは説明がつきません。人口比(少年1000人あたりの検挙・補導された人数)でも減っているからです」
万引きを含む窃盗は、約3分の1減と特に減少幅が大きい。万引きの被害届を店側が出さなくなったから、統計上の数字が減った可能性は考えられないのか。
「うーん、昔は駄菓子屋で万引きして、お説教で終わるというケースもあったと思いますが、いまのコンビニで万引きしたらすぐに通報されます。実際に、高齢者の万引き犯はむしろ、高止まり状態にあります。大きく増えてもいないけど、減ってもいない」
暴力が少なくなっている
凶悪犯罪や、粗暴犯はほぼ半減している。
「これもすごい減少です。殺人は微増もしくは、微減を繰り返していますが、最悪期だった1960年前後に比べれば、桁違いで減りました。現実の問題として、殺人件数が0になることはありえません。これ以上、0に近づけるのは困難なくらい減ったとみるのが適当です」
「粗暴犯や強盗の件数が大きく減っていることからみても、昨今の少年は過去の少年たちと比べて、暴力的傾向がないと言えるのです」
なぜ、ここまで減ったのか?
「私たち、犯罪社会学者もこれで悩んでいるのです。科学的に妥当性が高い説明は、現段階ではできません。仮説として、例えば少年漫画などサブカルチャーで暴力が肯定的に描かれる、ケンカに強い男性を理想像とするような主人公が減っている。あるいは、スマホが普及したことで、そっちに時間を費やす、仲間内のコミュニケーションもスマホですませるようになったのかもしれない」
「かつては、仲間内で、一緒に万引きをしたり、反社会的なこと、いけないことをすることで、つながりを確認しあうというような文化があった。通過儀礼的に、リスクをとることで、仲間のつながりを強固にするというものですね。でも、いまはどうでしょう。反社会的な行動をするリスクのほうが大きい。彼らがSNSでの炎上を知らないわけがないですからね」
それでも、最期まで残るリスク
少年の暴力は減ったが、最期まで残るのが、中学1年生の少年が殺された「川崎事件」に代表される非行グループによる事件なのだ、と河合さんはみる。
「非行グループはこの間、大きく減少しました。集団でのケンカや、暴走族の検挙も減っているんです。しかし、どうしても残ってしまう事件が、エスカレートする集団暴行なんですね」
「たむろする場所がどんどん減ってきて、ファミレスかコンビニ前か、公園、神社……。でも、いずれもすぐに通報されるようになったから、最期は河原といった、通報されにくい広い場所にいくようになる」
「少年事件の報道を聞くと、なんでこんな残虐なことを、という感想が多いのですが、少年事件は昔から残虐です。規範があいまいで、集団のなかでエスカレートした行動を取りやすいんです。強いて、川崎事件の特徴をあげれば、昔の非行グループなら、止めるはずの年長者が、率先して暴行に加わり、自らエスカレートした行動をとった、ということです」
被害者を増やさないためにも、なぜ減ったかの分析が必要
そして、犯罪被害者の問題も残る。
「非行グループによる犯罪の特徴として、被害者は、ほとんど人格的に問題がないのに、偶然、その日、夜中に声をかけられて、ついていくというパターンがある。防げるとすれば、可能な限り一人で行動しない、とアドバイスはできます。高校生や大学生なら、非行グループがいそうなところでは、友達と行動するとかですね」
「いずれにしても、これ以上、被害者を増やしたくないと考えるなら、少年犯罪が激減した理由を探らないといけません。何が減り、それでも残る犯罪とはどういうものなのか。徹底した分析が必要なのです」