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「賛成派だけ、反対派だけで盛りあがるのは意味がない」 原発に頼らない経営「鈴廣」と東電幹部の対話

原発に頼らない経営を実践する「鈴廣」。徹底した経営のリアリズムのなかに、この先のエネルギー政策を考えるヒントがある。

この先も、原発に頼ったエネルギー政策でいいのか?——。神奈川県小田原市の老舗「鈴廣かまぼこ」の鈴木悌介副社長と、東京電力・福島復興本社代表の石崎芳行さんが語り合うイベントが2月12日、東京都内であった。

集まったのは40人弱。原発の賛否で終わらず、どのような社会に住みたいのか、共通のゴールはどこかを模索する場になっていく。

東電幹部「原発事故は『人災』」

「私は福島第1原発事故は『人災』だと思っています。私たちはリスクに対する想像力が欠如していた。この教訓を世界中、日本中の電力業界の人に発信するのが責任だと考えています」

紺地に水色が混ざった、東京電力の制服にネクタイ。腕には「復興本社」の腕章が巻かれている。日曜の夜だったが、石崎さんはいつもの格好でこう断言し、イベントは始まった。

東京都内の一角にある番来舎。福島県南相馬市で学習塾を経営する番場さち子さんが、東京に進学した福島の子供たちの拠点に、と開設した場だ。

集まった参加者の顔には緊張感もある。イベントを企画した社会学者の細田満和子さん(星槎大学副学長)の狙いはこうだ。

「原発やエネルギー政策への意見が交わり、対話する場はどうやって作ることができるのか?」

2011年から6年が過ぎようとしている今だから、もう一度考えられるのではないか。

「電力の選択肢をたくさん持っているほうがいい」

石崎さんは震災前に福島第2原発の所長を務めた経験がある。復興本社は福島県富岡町にある。事故を起こした福島第1原発の廃炉以外の業務、福島の「復興」に関わる賠償、除染などを担当する。

公表されているデータと自身の経験をもとに、日本のエネルギー政策について語った。

日本の電力業界は、資源を世界中からの輸入に依存していること。原発は世界中にあり、特に中国での開発が進んでいることなどを挙げ、こうまとめた。

「これからの日本を考えると、電力の選択肢をたくさん持っているほうがいいと思います。政府の方針も、今後も原子力が必要だ、というもの。国の方針に従って、設備も作り、守る。電気をほしいという方にお届けするのが、私たちの立場」

原子力の必要性は否定しない。国策民営で進めてきた原発政策は、そう簡単には変わらないのもまた現実だ。

「経済界の全員が全員、原発が必要だと思っているわけじゃない。もう一つの声をあげてもいく」

ここから、鈴木さんにマイクがわたる。鈴廣は小田原市に本店を構える、かまぼこの老舗だ。鈴木さんの基本的な考えを先に整理しておこう。

原発事故で何を考えたのか。

「私たちは小田原で150年かまぼこ屋をやらせていただいているが、そこで万が一なにかあって別のところでかまぼこ屋をやれと言われてもできない」

「私たちの店や工場は、未来からの借り物だと思っている。自分たちで使ったものは、次の世代にきれいにして渡したい」

なぜ、原発に頼りたくないのか。それは事故が起きたときのリスクが高く、自分たちの生業とする産業にも影響するからだ。

「今晩、楽しく飲んでツケを回したり、何かに怯えながら暮らしたりする生き方もしたくない。原発以外にもエネルギーを生み出す方法はある」

鈴木さんの見立てでは、経済界を中心に「原発がないとどうしようもない」と考えている層がそれなりにいる。その反対の極に、昔からの反原発派も同じように声をあげている。

しかし、多くの人はその中間にいる。

「私も経済界の端っこにいるが、全員が全員、原発が必要だと思っているわけじゃない。もう一つの声をあげてもいい。経営者として、エネルギーのあり方を考えることが必要」なのだ、と考えている。

「経営のリアリズム」が重要

鈴木さんがユニークなのは「脱原発運動」そのものよりも、経営者目線で「どうやって原発に頼らないか?」を突き詰めたことにある。

口でいうのは簡単だが、実際に頼らないといったところで、かまぼこを作るにもエネルギーが必要である。

必要なのは、「会社を維持するためには儲ける必要がある」という経営のリアリズムを踏まえた上で、新しい実践を生み出すことだった。

まず試したのは徹底した省エネである。工場の稼働の仕方などを工夫したら、20%のピークカットが達成できた。

「データをみると、日本の省エネは進んでいる、と言われていました。でも、それは大企業の話です。ところが自分たち中小企業はどうか、と思って見直したら、まだできるんですよ。(震災以前の)取り組みが甘かったなぁ」

そして、自分たちの地元でエネルギーをつくり、まかなう方向に舵をきっていく。

エネルギーの「地産地消」

キーワードは原発に頼らない「エネルギーの地産地消」。

2012年に鈴廣など地元企業が連携して発電会社「ほうとくエネルギー」を立ち上げ、メガソーラーなどで地産する。電力も東京電力を頼らず、地元の電力会社から買う。地消だ。

2015年にできあがった新本社は、太陽光発電だけでなく、井戸水と地中熱を組み合わせた空調システムや太陽光を利用した温水器なども取り入れ、使う電気を減らす取り組みを進める。

「井戸水だって、温度調節ができる立派なエネルギーになるということがわかりました。エネルギーというと電気だけを考えるけど、それは間違いなんですよね」

自分たちでまかなえることはまかなう。このくだりで熱心にメモをとっていたのは石崎さんだった。会が終わってからも「鈴木さんから本当にいい話を聞けた。取り組みをぜひ現場を見せていただきたい、と思う。実際に行動しているところがすごい」と語っていた。

「廃炉を産業に」。鈴廣社長の提言

リアリズムに徹して考えれば、原発頼みで経済を支えている地方があるのもまた事実だ。

鈴木さんは、少し視野を広げた発言をした。

「原発をやめようといっても、原発で経済を支えている地域があるのは事実。どうするのか。例えば廃炉ってこれから原発を続けるにしても、やめるにしても、でてくる問題ですよね」

「廃炉を国策として位置づければ、原発立地自治体に30年くらい仕事がある。その間に次を考えることだってできるのではないか?廃炉をこの国の真っ当な基幹産業として位置づけないと、次世代を担う若者が新しく入ってこなくなる」

対話から生まれる「次」への視点

このイベントで最後に示されたのは、対話の鍵は地道な実践にあるということだ。実践を通じて次を構想する、という視点。そこは原発への賛否を超えて、議論ができる。

象徴的なのは、参加者からのこんな声だ。

「鈴木さんがやっているようなことが誰でもできるようなことではないが、私たちにもできることがある」

「石崎さんの資料にもあったように、電気を使うようになったのは消費者がいるからだ。ひとり、ひとりの省エネで使う電気が減れば、原発がなくても、社会が回るかもしれない」

賛成派は原発が必要だということで終わり、反対派はそんな政治や財界の姿勢を批判する。それを繰り返しているだけでいいのか?

鈴木さんの締めの発言が本質を突いていた。

「原発に賛成の人だけ、反対の人だけ集まって盛り上がって終わる。それは意味ないなぁと思っていた」

「究極のゴールは豊かな日本で暮らしていくこと。そのための方法論は違うが、東電には東電にしか、私たちには私たちにしかできないことがある。これからもコミュニケーションをとっていきたい」