渋谷区が“こども食堂”ではなく“こどもテーブル”で目指す、「最先端の田舎暮らし」とは

    渋谷区の長谷部健区長がBuzzFeed Newsの取材に語った。

    文化、ファッション、テクノロジーなど、あらゆる分野において「最先端」があると称されることの多い街、渋谷区。

    この街でいま、昔ながらの近所づきあいや地域の絆に立ち返り、近隣住民全体で子どもたちを育て、見守ろうというプロジェクトが始まっている。

    2016年11月にスタートした「渋谷区こどもテーブル100か所プロジェクト」だ。

    社会福祉協議会と連携してプロジェクトを進める渋谷区の長谷部健区長は、この取り組みの先にある光景を「最先端の田舎暮らし」と呼ぶ。

    渋谷区が目指すものとは。長谷部区長がBuzzFeed Newsの取材に語った。

    なぜ「こどもテーブル」なのか

    「渋谷区こどもテーブル100か所プロジェクト」とは、地域住民や団体、民間企業が子どもたちに門戸を開き、食事や遊び、学習支援を利用できる「居場所」を区内に100か所作るプロジェクト。2016年11月に本格的に始動し、すでに約20団体が区内各地で活動を始めている。

    提供されている活動内容は、食事からインド算数や英語のレッスン、工作、レクリエーション、簡単なスポーツなどと幅広い。利用者はホームページに掲載されている活動から、自分の近所にある団体や、やってみたいことを選び、自由に参加することができる。

    各こどもテーブルの運営資金は社会福祉協議会が助成し、その資金の一部をクラウドファンディングで募集している。

    貧困や孤食に対するアプローチとして全国的に広がった「子ども食堂」に対して、なぜあえて「こどもテーブル」と名付けたのか。その理由を長谷部区長はこう説明する。


    子ども食堂の動きは区内でもポツポツと生まれ出していて、僕もその機運を非常に感じていました。ただ、食事に特化していると、すぐに『貧困』のイメージと結びついて、いじめの対象になる可能性があるのでは、と危惧していました。

    うまくそうしたイメージを超えていく方法はないかと考えていた際に、『テーブル』という考えに行き着きました。食堂ではなくテーブルといえば、渋谷区らしく色んな展開が生まれるんじゃないかと。

    例えば、おじいちゃんが勉強や将棋を教えるテーブルとか、おばあちゃんが編み物を教えるテーブルとか。他にもファミレスや居酒屋に、お店の空いてる時間帯に居場所として、テーブルだけ貸してもらうとか。

    『テーブルさえあればできる活動』へと広くゆるく展開できるのではないかと期待しています。


    コミュニティの崩壊

    一方で、2017年6月に厚生労働省が発表した日本の子どもの貧困率は13.9%。7人に1人の子どもが貧困状態にあると言われている。

    渋谷区でも区立の小学校に通う児童5867人のうち、19.65%に当たる1123人が就学援助を受給している。中学生も生徒1775人中、31.1%の530人が受給しているという(2016年5月現在)。

    だが、貧困状態にある子どもたちの多くは、自分の状況を周りに知られたくないがために、「子ども食堂」などには行かず、貧困が見えづらくなっている現状があると指摘されている。

    文京区ではこうした「見えない貧困」にアプローチするために、2017年10月から貧困世帯の家庭に食料を直接届ける「こども宅食」の取り組みを始める。

    このような中で、こどもテーブルにはどんな効果を期待するのか。

    長谷部区長は「こどもテーブルで全てを解決することができるとは考えていない」としつつ、貧困を見えづらくし、孤食やお年寄りの孤立を招く「コミュニティの崩壊」に対するアプローチの一つになればと語る。


    渋谷はある意味、東京の縮図かなとも思っていて。

    もちろん貧困は、他の区と共通して渋谷区にある課題だけど、親の所得にかかわらず孤食の問題を抱えている子どもたちもいれば、お年寄りの孤立や孤独死の問題もある。貧困エリアだけの課題ではないんですよね、「コミュニティの崩壊」というのは。

    当然、こどもテーブルで全ての問題を解決できるとは思っていません。でも、子どもたちが自由に出かけて食事したり、遊んだりできるこどもテーブルが区内に100か所できた時、渋谷がどういう街になっているかを想像してみてほしい。

    子どもたちの様子を知る大人が増えれば、コミュニティやセーフティネットの形成にも貢献するだろうし、子育てや福祉、お年寄りのやりがいみたいなものも出てくる。防災だってそう。どれか一つを強くしていけば解決するって話ではなくて、地域の絆を強くして、底上げしていく必要があると思います。


    ちがいをちからに変える街

    2015年4月に初当選した長谷部区長は、区議時代に後の「同性パートナーシップ条例」が制定されるきっかけを作ったことで知られ、2016年10月に策定した区の基本構想でも、「ちがいをちからに変える街。渋谷区」というスローガンを掲げた。

    今後はパートナーがいる世代よりも若い、思春期にあるLGBTの子どもたちや、マジョリティにおける「アライ(LGBT当事者ではないが、理解し支援する人)」を増やす策が必要だという。こどもテーブルも家庭や学校から離れ、さまざまな地域の活動に触れる「第3の居場所」として、お互いの「ちがい」を知る場になると期待する。

    長谷部区長は言う。


    都心で生き生きと暮らすことを追求していく中で、「最先端の田舎暮らし」というイメージが渋谷には合うんじゃないかと思っていて。

    昔からある長屋のような隣近所の顔が見えた付き合いを大切にして、それをより濃くするためにインターネットやICTを活用していく。それを渋谷区では率先してやっていきたいと考えています。

    地域の課題は、外科手術のように切って縫って治る問題ではなくて、ちょっと東洋医学的というか、たくさん秘孔を突くようなことが必要で。たくさんのメニューを持つことが大切。その柱としてこどもテーブルは進めていきたいなと考えています。


    BuzzFeed JapanNews