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「子どもが溺れるとき、バシャバシャもがくのは映画の世界だけ」注意喚起した医師に聞く

「15秒か20秒後くらいにパッと見たら、もう浮いていたんですよね」

幼い子どもが命を落とす「不慮の事故」のなかで、交通事故や窒息と並んで高い割合を占める「溺水」。

子どもが溺れる際の状況について、長野県佐久市の小児科医たちが注意を呼びかけたツイートが話題を呼んでいる。

乳幼児の不慮の事故で2番目に多い「溺水」。溺れる時、バシャバシャもがくのは映画の世界だけです。溺れた状況を理解できず、もしくは呼吸に精一杯で声を出す余裕もなく、静かに沈みます(本能的溺水反応といいます)。隣の部屋にいれば音で分かると思ったら大間違い。入浴中は気を付けましょう。

注意喚起をしたのは、佐久総合病院の医師たちが中心となり、子どもの病気やホームケア、子育て支援情報などについて発信している「教えて!ドクタープロジェクト」。

ツイートでは、子どもが溺れた際にバシャバシャと音を立ててもがくのは「映画の世界だけ」で、実際には自分が溺れているという状況を理解できず、声も出せずに「静かに沈みます」と指摘。

溺れても物音で気付くだろうと安心して目を離すのではなく、常に見守る必要があると呼びかけた。

投稿は2万件近くリツイートされ(9月29日現在)、実際にこうした状況を経験したことがある親などから「あの時の光景は忘れることができません」「静かに沈むなんて思いもよりませんでした」「自分の娘がそうなったら…とゾッとして震えました」などと多くの声が寄せられた。

「偉そうなことを言っていますが、実は私も経験したことがあるんです」

BuzzFeed Newsの取材にそう話すのは、同プロジェクトのリーダーを務める坂本昌彦医師。

それは、いつものように1歳3カ月の息子と一緒に風呂に入り、先に自分が脱衣所に出たときだった。

「そのとき、息子は浴槽のふちにつかまってジョウロで遊んでいました。そこまでは見てたんです」

「遊んでるなーと思って脱衣所に出て体を拭き始めて、チャプチャプと息子が遊ぶ音もしていたのですが、15秒か20秒後くらいにパッと見たらもう浮いていたんですよね。仰向けで、目を見開いてこっちを見ているような状況で」

すぐに風呂から引き上げ、息子は無事だったが、やはりバシャバシャともがくような音はしなかった。

「まず、バシャバシャと水しぶきをあげるためには、相当な割合で体が水から出ている必要があります。それに加えて、赤ちゃんたちの場合は、溺れても自分がどういう状況なのか理解できていないので、頭の中が『?』のまま、もがくこともなく沈んでいくのだと思います」

坂本さんによると、こうした反応は「本能的溺水反応(instinctive drowning response)」と呼ばれ、日本の医学界でもあまり広く知られていないという。坂本さん自身もアメリカ・シアトルの小児科医の著書で知り、より多くの人に知らせたいと今回の注意喚起に至った。

「溺水は本当に命に関わります。『音が聞こえていれば溺れることはない』というのは違うんだよ、『子どもは静かに沈むんだよ』ということは、どれだけ強調しても強調しすぎということはないと思います」

一方、もし万が一、子どもが溺れてしまった際にはどういった対応を取ればいいのか。

厚労省の人口動態調査によると、2016年に不慮の事故で亡くなった1〜4歳児85人のうち、約3割の26人が溺水だった。また、水中での時間が5分を超えると、脳に後遺症を残す可能性が高くなるといわれている。

坂本さんによると、①平らな場所に寝かせて、②意識があるかを確認し、③意識がなければ人を呼んだうえで(救急車連絡なども)④絶え間なく心臓マッサージと人工呼吸を行うべきだという。

だが、何よりも大切なのは、お風呂やプールでは子どもから目を離さずに溺れてしまう事態を防ぐことだと繰り返し強調する。また、乳幼児だけではなく、小・中学生でも溺れている際に音を立てたり、大声で助けを呼ぶことができるとは限らないため、注意が必要だという。