黒船に立ち向かう日本勢 どうなるタクシーの行方

    「どんな市場になろうと移動は変わらない。会社として進化する」

    UberやLyftといったライドシェアが勃興し、対応を余儀なくされるタクシー業界。国が料金や台数を管理していた市場に、高度なITを備えた黒船が迫る。国内最大のタクシー会社が進める戦略とは?

    迫る黒船

    サービス開始から6年もたたずに時価総額が4兆円を超えると推計される企業がある。アメリカの配車サービスUber。すでにJR東日本やJR東海を上回った。

    「乗りたい人」と「乗せたい人」をつなぐ同社のような企業はいま、世界に群雄割拠する。アメリカのライバルLyft、シンガポールのGrab(旧GrabTaxi)、中国のDidi Kuaidi。

    サービスの根幹は似ている。車を呼びたい客はアプリを開く。地図に現在地と行き先を入力。地図上には近くを走る車が示され、運転手の評価も表示される。選んで迎車を依頼し、ドライバーが了承すると、迎えにきてくれる。支払いはアプリに連動したクレジットカードで済む。

    ただ、これらの会社は「乗りたい人」と「乗せたい人」をつないで手数料を得るテクノロジー企業。タクシー会社ではない。運転手も社員ではない。

    根源的な変化

    こうしたテクノロジー企業の力の根源はなにか。

    運転で収入を得る機会を広く解放し、これまで潜っていた労働力に市場価値を与えた。

    例えば、子どもが幼稚園にいる間、運転して収入を得られる。大学生が学費を稼ぐために休日ハンドルを握る。テクノロジーが初めて可能にした市場の仲介機能だ。(社員として採用しないため、労働者の搾取との批判もある)

    リアルタイムで運転手を点数付けする仕組みもゲームチェンジャーだ。

    ドライバーは客を運ぶたびに利用者から点数がつけられるので、総合評価が悪いドライバーは選ばれなくなっていく。企業側は、このメカニズムは当局による規制よりも効率的だと主張する。(だがドライバーによる犯罪も多く報道されている)

    もちろん、運ぶのは人だけに限らない。食事も配達する。商品を運べば運送会社になる

    野口悠紀雄・早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問は4月21日の講演でこう指摘した。

    (時価総額が巨額なのは)現在どれだけ利益をあげるかだけではなくて、それが将来成長し、社会を変えていく期待があるから。新しいタイプのサービスに対する社会の期待が非常に大きいということを意味している。

    立ちはだかる規制

    だが、黒船は日本市場で本来の力を振るえない。

    営業許可なく個人が自家用車で他人を有料で運ぶと「白タク」として違法になる。国は規制緩和するべきか揺れている状態で、タクシー業界は激しく反対する。危険な運転をする人によって安全が脅かされたり、仕事を奪われたりすると危惧するからだ。

    3月8日の「ハイタク労働者総決起集会」。日比谷公園に2500人(主催者発表)が集まり、気勢を上げた。

    「海外では強盗、強姦、妊婦置き去り事件が起きている」

    「ライドシェアを使えば経済が成長するという人がいるが、命を守るためにがんばっているタクシーの努力を脅かす」

    シェアリングエコノミー

    ただ、タクシーの牙城は鉄壁ではない。消費者がライドシェアを支持し始めれば、形勢はわからない。

    好例は、宿泊業でおきたAirbnbの広がり。Airbnbも部屋を「貸したい人」と「借りたい人」を結ぶテクノロジー企業だ。

    当初、日本では、海外でのサービスを知っている人たちが細々とホストをしていただけだったが、昨年、一気に広がり、Airbnbでどう収入を得るかといったノウハウ本も出た。

    「プロ」の旅館やホテルによる宿泊サービスだけを想定した旅館業法や消防法とかみ合わず、当局が頭を抱える。

    このようにテクノロジーが可能にした仲介は「シェアリングエコノミー(共有経済)」と呼ばれる。新しい経済圏を想定しない法律は現実に追いつけない。

    これは宿泊や交通にとどまらない。

    自宅で家庭料理を有料で振る舞う在日外国人と、異文化交流を楽しみたい人などを仲介するサービスは、飲食店を規制して安全を守ろうとする食品衛生法で対応できない。

    迫る自動運転

    交通の分野では、日本がライドシェア規制に拘泥するなか、世界は自動運転車が実用化された未来を見据えている。

    スマホをタップすれば数秒で車が迎えに来て、目的地まで最適なルートで自動で運んでくれる。配車サービスのテクノロジーが生きる。

    例えば、GoogleとFiat Chrysler Automobilesは今月、自動運転車の開発で提携すると発表した。General MotorsもLyftに5億ドル(540億円)出資。今月、自動運転タクシーの公道試験走行を1年以内に開始すると公表した。

    来日したLyftのローガン・グリーン共同創業者兼CEOはBuzzFeed Newsの取材に4月8日、こう話した。

    「Lyftは4年前に始まった。次の4年で、Lyftのビジネスは完全に変わる。自動運転車は、誰もが予想するより早く実現されると思う」

    「車は購入するものではなく『サービスとしての輸送(Transportation as a service)』へ変わる。これは、私たちが生きている間に目撃する最も大きな変化の一つ。必要なときはスマホをタップするだけで、車が到着する。1年借り続ければ、所有する感覚に近くなる。でも洗車は自動で済み、駐車場も必要ない」

    日本勢のゆくえ

    こうした世界的な潮流のなかに置かれた日本のタクシー会社。手をこまねいて見ているわけではない。

    国内最大手の日本交通グループは昨年8月、乗務員の給与計算やシステム保守を起源とする子会社を「JapanTaxi」と改名し、今年3月、都心に移った。世界と戦うことを見据えたテクノロジー企業への舵切りだった。

    2013〜14年に世界のライドシェアの状況を見て回ったJapanTaxiの濱暢宏COOは「エンジニアの質と量がハンパない。世界が本気出してきたときに、たちうちできないと思った」と打ち明ける。

    タクシー利用の内訳は、通りで拾う「流し」が6割、乗り場が1割、無線配車が3割ほど。だが、公共交通の発達、人口減少、景気の足踏みを背景に流しの利用は減少傾向で「ひろわれるビジネスだけでは厳しい」(濱COO)。

    利用を増やすには、料金またはサービスの改善が必要だ。

    日本交通は4月5日、都内一部で初乗り運賃を、現在の「2キロ730円」から「1キロ強410円」に変更を求める申請を国土交通省にした。3ヶ月以内に地域のタクシー会社の7割超(台数ベース)が同様の申請をすれば同省の審査が始まる。

    配車アプリサービス面で差別化の一つ。2011年、都内約3千台でスタート。誰でもダウンロードできたことから都外からも利用の要望が寄せられた。各地の事業者も使えるように、2011年12月にアプリ「全国タクシー」を公開し、いま、全国163グループ、2万9625台に広がる。

    生き残りへ

    迫る黒船に対し「先行者メリットがわれわれに当分ある」とJapanTaxiの濱COOは分析する。

    タクシー各社が熟練ドライバーを抱え込んでいる。各社の複雑な無線システムの仕様を熟知し、アプリと接続するノウハウをもつ。全国に広がる業界のネットワークも強みだ。

    いま、ビジネスの種を植え続けている。例えば、運行データ。乗客の行き先がわかり、到着時間が予測できれば、それに合わせた広告が打てる。物販や飲食が「のどから手がでるほどほしい情報だ」(濱COO)。

    今年1〜2月、前部座席の背に取り付けたタブレット端末にポカリスエットの動画を流し、試供品を渡すキャンペーンを展開した。将来的には乗客の属性やルートに合わせたカスタマイズも視野に入れる。

    BuzzFeed Newsの取材に対して濱COOは、ライドシェアに対するコメントは控えた。だが、企業として当然の言葉を残した。

    「どんな市場になろうと移動は変わらない。会社として進化する」

    CORRECTION

    Japan TaxiをJapanTaxiに修正しました。