「世界は戦争に備えているかのようだ」ゴルバチョフ元大統領 終末時計は30秒進んだ

    「今こそ決意し、行動しなければならない」

    「非常に危険な状況にある」。ゴルバチョフ元大統領が1月27日、TIME誌に寄稿し、このままでは世界は戦争に突き進むと警鐘を鳴らした。

    「今日の世界は問題であふれかえっている。政策当事者たちは困って、どうしたらいいか分からないようだ」

    こう言って始まる85歳の元大統領の寄稿。政治の軍事化が進み、新たな軍拡競争が広がることを憂いた。

    「政治家や軍事指導者たちは好戦的な姿勢を強め、国防政策は危険なものになっている。解説者やテレビタレントたちは、この好戦的な大合唱に加わっている。世界は戦争に備えているかのようだ」

    世界終末時計は30秒進んだ

    ゴルバチョフ元大統領の寄稿の前日。人類滅亡までの残り時間を示す「終末時計」が2年ぶりに30秒進められ、残り2分半になった。

    アメリカの科学者らが毎年公表しているもので、残り3分を切ったのは、東西冷戦下に「残り2分」まで進められて以来64年ぶりだった。

    発表した米科学誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ(核科学者紀要)」は、トランプ大統領の就任によって、核拡散の懸念が高まったことを理由の一つに挙げている。

    現実味を帯びる核の脅威

    寄稿に戻る。1985年にソ連共産党書記長になったゴルバチョフ氏は、アメリカと軍縮交渉を再開した。1987年に中距離核戦力全廃条約に調印。歴史上初めて核兵器を削減する画期的な条約だった。

    「何よりも、核戦争は許されない、という主要核保有国のリーダーたちの意識が可能にした」と振り返る。

    「だが今日、核の脅威は再び現実味を帯びている。ここ数年で、もともと悪かった大国の関係は更に悪化した。軍拡支持者や軍需産業は手ぐすねを引いている」

    「この状況を断ち切らなければならない。共同決定や共同行動に向けて、政治的対話を再開しなければならない」

    トランプとプーチン

    ゴルバチョフ元大統領は言い切る。「現代の世界で、戦争は禁じられなければならない」。貧困、環境問題、移民、人口増大、資源の欠乏——。「戦争によって、地球の課題はひとつも解決されない」

    トランプ大統領とプーチン大統領の名前も挙げた。「核戦争は許されない」とうたう決議を国連安保理で採択するように提案。この二人が率先するべきだと呼びかけた。

    ダモクレスの剣

    ゴルバチョフ元大統領が最後に引き合いに出したのは、フランクリン・ルーズベルト大統領が1941年の一般教書演説で強調した「恐れからの自由」だった。

    「今日、数百万人が、恐れという重荷、それを負う緊張感を持っている。軍国主義、軍事紛争、軍拡競争、核という『ダモクレスの剣』といったもののせいだ。こうした恐れを世界から取り去れば、人々はより自由になれる」

    ダモクレスは、紀元前4世紀にシラクサの権力を握ったディオニュシオスの廷臣。王の権力をうらやむと、細い毛で吊った剣の下にある王座に座らされた、と伝わる。

    ケネディ元大統領が1961年、国連の演説で核戦争の恐怖になぞらえ、知られるようになった。

    「人々は核というダモクレスの剣の下で暮らしている。この剣は世にもか細い糸で吊るされている。事故や誤算や狂気によって、いつ糸が切られてもおかしくない」

    だからゴルバチョフ元大統領は呼びかけた。

    「今こそ決意し、行動しなければならない」

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