同性カップルのパートナーシップ証明書を発行する自治体が増え、「LGBT」の理解は広まりつつある。でもそれは、都会と地方ではスピードが違う。
地方で、ゲイとして生きるって、どんなことなんだろう。
その思いを聞いた。
ゲイ専用アプリに救われる
中岫拓也さん(25)は、青森県の下田町出身だ。
拓也さんは数年前に上京してから、初めてカミングアウトをした。
「自分はゲイかもしれない」と思ったのは17歳のとき。「自分は何かがちがう」と不安を感じた。それをごまかすかのように武術を習い、彼女をつくった。
「とにかくそのときは、男らしくならないとって考えていました」
でもやっぱり何かがちがうと数年悩み続けた。「Jack'd」という世界中にいるゲイとコミュニケーションできるアプリを使ったのが、転機だった。
「自分がゲイであることをカミングアウトする前に、ゲイの友達がほしくて、結構必死に友達を探していました。そしたら青森県内にゲイの人は意外にたくさんいることを知りました」
プロフィールを見て趣味が合いそうな人がいれば積極的に食事に誘った。その人とは、東京にいる今でも、親友のような関係が続いている。
「アプリを通して自分と同じような人がいることを初めて知ったのです。それまでは自分がおかしいのかと思っていました。初めて、自分を受け入れてくれるコミュニティと出合った感じでした」
アプリを使いはじめたのは20歳。「そのときからもう覚悟しました。自分はゲイとして生きるのだと」
家族や同僚にカミングアウトはしていないが、前よりは自分に素直に生きるようになった。それで離れていく男友達もいた。
学校などでよくゲイが笑いのネタにされることが多かった。「VOGUE」などのファッション雑誌を読んでいると「お前ゲイなのかよ! やめてよ!」と笑われる。
「これは日本のメディアが、長い間トランスジェンダーをオカマと呼び、ゲイを笑いの種に仕立て上げてきたからだと思います。悪意をもって言っているとは思っていません」
青森でつらかったのは窮屈な人間関係。都会と比べて、人と人の間の境界線が狭い。恋人の有無から家族構成まで、プライベートの情報を周りに知られる。
仕事場では隠し続けた。一部の親しい人を除き、会社で自分がゲイであることは広まってほしくない。でもよくプライベートの話をされることがある。同僚から合コンへの誘いや恋人の話を持ちかけられることも多かった。
「昨日かわいい女の子と遊んだ」など、周りの男性に嘘をつく。仕事が終わればアプリを使って他のゲイ当事者と交流をする日々。
そんな毎日に疲れ、拓也さんはうつ病になる。自分は誰なのか、わからなくなった。
アプリで出会った友人に誘われて東京に引っ越したことが、拓也さんを救った。東京では何も隠さずオープンに過ごせた。大きなコミュニティがあったからだ。
「東京では人の間に適度な距離感があるように思いました。たとえカミングアウトして嫌われても、諦めがつきます。青森では良く言えば家族のような関係で仲良くなるので、カミングアウトがしづらい」
新しい仕事場でも周りの人はあまり干渉をしない。無理に嘘の自分を演じる必要がなくなった。気持ちも楽になった。
恋人もでき、幸せだった。「もう誰にも隠さないで生きたい」。そう強く思った。
家族に話そうと、決心した。
「ゲイでよかったと心から思う」
いつものように母親と電話で話す。なかなか言い出すタイミングが見つからない。
「恋人はいるの?」と聞かれ、「いるよ」と答える。
「男だけど」
しばらく長い沈黙が続く。母親は泣き始め、何回も謝り続けた。
「ごめんね、ゲイで産んで、ごめんね」
「僕はいま本当に幸せ。ゲイでよかったと心から思っているよ」
その言葉に母親は落ち着いた。後からわかったのは、電話を切った後も一晩中、母親は泣いていた。
でも、いまでは恋人の話も母親にできる。
「もしカミングアウトしないほうが楽なのであれば、それはしなくてもいいと思います。でも、自分の場合は言わずにいられなかったのです。どうしても幸せを共有したかったから」
拓也さんは最近、東京の街で恋人と手をつないで歩いていたら、周りの人に写メを撮られた。それから手をつなぐことはなくなった。
「恋人と手をつないで歩ける世の中になってくれるのが一番かな」
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BuzzFeed Japanは4月26日から5月9日まで、LGBTウィークとして、セクシュアル・マイノリティに関する記事を発信します。
セクシュアル・マイノリティがそばにいるのは、あたりまえ。2015年の調査(電通調べ)では、およそ7.6%の人がセクシュアル・マイノリティだとされています。職場、学校、家族。どこにいても、誰であっても、何の不自由もなく暮らせること。そんな時代に少しでも近づけるきっかけになることが私たちの願いです。