トランプ大統領の影響は「全く考えていない」 TPP法案が衆院通過したけれど……

    米シンクタンク「発効を実現させる方法はない」

    TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の承認案と関連法案が11月10日、衆議院本会議で、自民党や公明党、日本維新の会などの賛成多数で採決された。民進党は退席、共産党は反対した。

    ただ、アメリカの次期大統領は「大統領の就任初日にTPPから離脱する」と強く反対を表明するトランプ氏だ。果たして、「成長戦略の柱」とされていたTPPの行方はどうなるのか。

    かねてから自由貿易に反対する姿勢を貫いてきたトランプ氏。北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しとTPPからの離脱を訴えてきた。

    選挙期間中には「TPPは最低の協定だ」として、「ないほうがいい。むしろ個々の国とそれぞれに協定を結ぶ」と表明。中国、日本、メキシコを念頭に「われわれは貿易で多くのものを失っている」などと声を荒らげている。

    アベノミクスへの打撃はない?

    菅義偉官房長官はこの日午前の会見で、記者団からの「米国が離脱したら発効そのものが厳しくなるのではないか」という質問に、「来年発足する政権であるため、その方針について政府として予断を持ってコメントすべきではない」と回答した。

    しかし、「発効が可能困難な場合、アベノミクスに打撃があるのでは」との問いには、「そこは全く考えていない」と答え、こう続けた。

    「いずれにしろ、12か国の首脳が早期発効を目指すことを確認していますから。現職のオバマ大統領も本年中の議会通過に向けて全力で取り組んでいますので、米国を含むそれぞれの国々が国内の支持を得て、手続きを進めていくと認識しています」

    このような姿勢に対し、野党は反発。民進党の野田佳彦幹事長は「新しい大統領にケンカを売るような話にもなりかねない」と批判した。

    この日の本会議では、「きょう強行採決することではない」などとの意見が出され、民進、共産、自由、社民の4党が山本有二農林水産相の不信任決議案を共同提出して抵抗した。

    だが、採決は与党のスケジュール通りに実施された。

    アメリカ側は「年内採決はない」

    そもそもTPPは、アメリカが承認しないと発効しない仕組みになっている。クリントン氏も反対をしていたが、オバマ政権中の承認は黙認するとの見方もあった。ただ、トランプ氏となれば、そうはいかない可能性が高い。

    アメリカ議会上院の共和党トップであるミッチ・マコーネル上院内総務は、11月9日、TPPの承認について、「年内の採決はまずない」と断言した。

    米国のシンクタンクからも、TPP発効は頓挫するとの見方が強い。政治専門ニュースサイト「ポリティコ」によると、「戦略国際問題研究所(CSIS)」のスコット・ミラー氏は「TPPが発効されることはないだろう」との見方だ。

    「ヘンリー・L・スティムソン・センター」のネイト・オルソン氏も「選挙の結果、現政権が死に体となった。(TPP発効を)実現させる方法はない」と分析している。

    朝日新聞によると、TPPに参加する予定だった日本、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールの駐米大使が11月10日、TPP承認を訴える記者会見を予定していたが、「参加者のスケジュールの都合」を理由に中止となったという。

    経済界からは不安の声

    経済界からは先行きを不安視する発言が相次いだ。

    経済同友会の小林喜光代表幹事は、「厳しい。かなり悲観せざるを得ない」と発言。日本商工会議所の三村明夫会頭は、当選を受けこんなコメントを出している。

    保護主義や反グローバリズムの台頭は、世界の経済活動の停滞を招くことになりかねない。TPPの発効のためには日米の批准が不可欠であることを踏まえ、トランプ新大統領が現実的な判断をされることを期待したい。

    日本鉄鋼連盟の進藤孝生会長の場合はこうだ。

    TPP協定は、物品関税のみならず、サービス・投資の自由化を進め、知的財産等の幅広い分野で新しいルールを構築する画期的な経済連携協定であり、米国内での早期承認手続きへの取り組みを期待します。

    今後どうなる

    毎日新聞などの報道からは、政府内でもすでにTPP発効を悲観視する意見が相次いでいることが伝わっている。発効できなければ、安倍政権が掲げてきた「成長戦略」は見直しせざるを得ない状況だ。

    11月10日朝には安倍晋三首相がトランプ氏と電話会談を実施したが、TPPについては話題にならなかったという。

    ちなみに、同じく電話会談をしたオーストラリアのターンブル首相は「アジア太平洋地域で重要な貿易協定だ」と直接訴えている。

    11月17日に予定されているニューヨークでの会談ではどうなるのか。

    菅官房長官は「基本的な日米同盟な重要性、日米のさまざまな政策についていろいろな話し合いをし、信頼感を高める会談になる」と発言をするにとどめ、TPPについての展望は語らなかった。