当初計画の4倍に及ぶ、3兆円に及ぶコストが問題視される東京五輪。「運営には、企業でいうCEO(社長)もCFO(最高財務責任者)もいない」と指摘する都政改革本部特別顧問の上山信一慶応大教授が、11月2日、外国特派員協会で会見を開き、リーダーシップの不在を改めて批判した。
予算を管理するのは誰?
上山教授たちによる東京五輪の調査チームは運営のあり方を「大会準備の全体を取り仕切る司令塔がはっきりしない」と批判している。
この日の会見で配られた資料でも、上山教授は現状の運営体制を、「Lack of leadership by CFO and CEO」(「財務責任者」と「社長」によるリーダーシップの欠如)と表現。「全体のガバナンスを管理する状態が不十分だ」と指摘した。
そもそも、東京五輪の運営は、東京都と日本オリンピック委員会(JOC)が出資した組織委員会が中心になっている。
五輪は東京以外でも実施する超巨大なプロジェクト。そのため、組織委員会だけではなく、都や政府などの代表者が集う「調整会議」で重要な物事が決められていた。
上山教授は会見で、こう話した。
「調整会議には議長がいない。3兆円の予算を誰が管理するのか、はっきりしていない。全体の予算がどうあるべきか、何を優先するのかということを決めるCEOやCFOの役割がきっちりと決まっていない。ここに私たちは、危惧を覚えました」
しかし、11月1日に調査チームが発表した東京都への出提言では、CFOについて「都と運営委員会が共同で総予算を管理する体制」にすべきだと指摘する一方で、CEOについては触れられていなかった。
CEOは誰が担うべきなのか
BuzzFeed Newsは質疑応答で、この点について質問をした。果たして、誰がCEOの役割を果たすのか。
上山教授は「個人として、誰かを置くということではない」と言う。
「お金を出す都、政府、それからIOCの代弁者である組織委という3つの組織が一緒に仕事をすることは非常に難しい。だから、調整会議という役割が必要になります。その議長がCEO的なことをやれば簡単です」
なぜ、そこに「誰か」を置かないのか。
上山教授が指摘するのは、業務量や情報量の多さだ。各国の競技連盟や団体との調整、輸送や警備など各分野におけるIOCのルール、ガイダンスなど、扱う事柄の範囲は幅広い。
だからこそ、「個人ではなく、調整会議の事務局機能を実質的に強化していく」べきだと話す。
「全部をオーガナイズする全能のCEOに期待するというよりも、常にオープンに、すべての人がコミュニケーションをし、調整し続けることが大事なのだと思います」
上山教授は、こうも言う。
「五輪は政治から中立であることを非常に大事にしている。政治から距離を置いた民間組織が主体になるのが重要です」
森会長や安部首相がいるのでは?
外国人記者からは、組織委員会で会長を務める森喜朗元首相についての質問が出た。
「調整会議を上に置いたら、誰が森会長の指揮をするのか。森会長が、五輪運営の障害になっているのでは」
上山教授は「大学教授としての感想」と前置きしたうえで、こう語った。
「多くの日本人は暗黙の了解として、安部首相が大会運営におけるCEOだと思っているのではないでしょうか。本人のお気持ちも。だからリオ五輪でも、マリオに扮して日本を代表されたわけです」
「組織委トップの森さんも、元首相です。この二人をもって、国がバックを確保している安心感が、日本人の中にはあるのでしょう」
こう述べた上で、上山教授が指摘するのは、五輪運営の複雑な実態だ。
大会の運営に政府が直接的に参加しているわけではない。組織委員会に出資をしているわけではないし、IOCとの都市協定にもサインをしていない。つまり、政府が五輪運営を指揮監督する立場にない。
「現状を見ると、安心感はまったく機能していないということになります。それが、私たちが指摘したことなのです」
首相、元首相、都知事、そして、JOC。これだけ豪華なメンバーが揃う五輪運営を、調整会議がとりまとめられるのか。それができなかったからこその「リーダーシップの不在」ではないのか。
11月1日からは、東京都と組織委、政府、そしてIOCによる4者協議が進んでいる。12月中に開かれるIOC理事会では、東京五輪の総予算が明かされる予定だ。