「沖縄の基地反対派は日当を得ている」などと報じたTOKYO-MXTV「ニュース女子」。「日当を払っている」と名指しされた団体「のりこえねっと」などが1月27日、BPOに人権侵害を申し立て、会見した。
経緯を振り返る
問題となった番組は、1月2日放送の「沖縄・高江のヘリパット問題はどうなった?過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」。化粧品大手DHCグループの「DHCシアター」が制作し、TOKYO-MXTVで放送している。
番組では、現地で基地建設への抗議活動をしている人たちに「のりこえねっと」が日当を支払っているなどという内容が報じられた。
番組で根拠としてあげられたのは、「のりこえねっと」が配っているビラだ。「5万円を支払うと書いている」などと報じた。
これは、のりこえねっとが現地の様子を発信する「市民特派員」を募集し、その往復飛行機代として5万円を負担すると書かれたもので、日当ではない。
番組では、反対派の人たちを「テロリスト」「犯罪者」と表現したり、「のりこえねっと」共同代表・辛淑玉さんを「反原発、反ヘイトスピーチを職業的にやっている。隙間産業ですね」と名指しで批判したりしている。
スタジオトークでは男性陣が笑いながら話すなど、あからさまに馬鹿にするような様子が散見された。
だが、現地取材と言いつつ、「危険」という理由で、反対運動の約40キロ離れたところまでで取材を断念していた。のりこえねっとへの取材もなかった。
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こうしたことから、番組の報道姿勢に批判が集まっていた。
これを受け、TOKYO-MXTVは「議論の一環として放送」したと1月16日、番組中で15秒間の説明した。
辛淑玉さんは会見で、BPOへの「人権侵害の申し立て」について説明した。
申立書では「番組が辛さんの人権を侵害している」と指摘。さらに、「反対派が救急車を止めた」「反対派の黒幕は在日韓国人の女性」などとした放送内容は「事実に反している」「虚偽・不公正報道」であると強く批判した。
申立書には、こうも書かれている。
「虚偽を事実であるかのように放送したこと」「まともに取材をしていないこと」「極めて偏重した内容であること」という放送内容は、もはや放送倫理云々のレベルですらなく、明確に放送法4条各号違反である。
放送法4条には4つの項目がある。
# 公安及び善良な風俗を害しないこと。
# 政治的に公平であること。
# 報道は事実をまげないですること。
# 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
また、申立書には辛さんに関する報じ方について、以下の3点が「虚偽であるにもかかわらず、それが真実であるかのように報道された」とも指摘した。
# ヘリパッド建設に対する反対運動を先導している黒幕が辛さんである
# 金銭に動機付けられた反対運動参加者に「日当」を出して「雇い入れ」ているのが辛さんである
# 辛さんが韓国人の「親北派」として反対運動を展開している
これらの「虚偽」により、名誉が毀損されたと訴えている。
辛さんは「あのニュース女子は大変むごい番組です。彼らは笑いながら私を名指しし、笑いながら、沖縄の人たちを侮辱しました」。
「のりこえねっと」がビラに書いた「5万円」は、「市民特派員」に支給されたものだ。
辛さんはその目的について記者に問われ、こう説明した。
「沖縄のことが東京で知られていないと実感し、一般の人たちが見てきたことをそのまま書いて欲しい、SNSで発信してもらえないかという思いでスタートしました」
公募は2016年9月から11月まで。全国からカンパが5万円が集まるたびに1人を派遣し、12月に計16名を派遣したという。1人1千字のレポートの提出も求めたといい、ホームページで順次公開している。
実際に高江に行った「市民特派員」の外山麻貴さんはマイクを握り、こう語った。
会見は、東京と沖縄をスカイプでつないで開催された。高江での反対運動に参加している芥川賞作家の目取真俊さんは、「悪意とデマを拡散しようという目的意識からできた悪質な番組」と批判した。
目取真さんはこう言った。
「沖縄が遠い、高江という現場に行ったことがないことをいいことに、こんな放送が東京で流されているのは情けない」
「ただでさえ基地を押し付けておいて、こんな差別意識に基づいたデマを流すのは、沖縄県民としても許せない思い。ちゃんと取材して、現場に行って、自分の目で見てもらいたい」
会見では、130人以上の「沖縄有志一同」による抗議声明も発表された。
声明では、TOKYO-MXTVを「報道の原則であるところの公正な取材を行わないまま、差別意識に満ちた虚偽の内容を放送し、沖縄に対する誤解と悪意を全国に拡散した」と批判した。
番組については、「必死で反対行動を行っている市民らが『日当』を貰って活動しているかのごとき悪質な報道をした」と指摘。「放送は、無知・無理解にとどまらず、沖縄への根深い差別意識に基づいている」などとしたうえで、MXTVに下記の3点を求めた。
* なぜ差別と虚偽に満ちた番組が放送されたのか、検証と訂正
* 検証の結果と謝罪を放送し、ホームページにも載せる
* 真に公正に沖縄を取材した1時間番組の放送
「のりこえねっと」や辛さん側は今後、TOKYO-MXTVにも直接働きかけをするとしているが、訴訟の提起は考えていないという。
BuzzFeed NewsはDHCとTOKYO-MXTVに、申し立てに対する見解を問い合わせた。
TOKYO-MXTVは1月27日夕方、コメントを発表した。
本年1月2日の22時より放送しました番組「ニュース女子」に関しては、調査・確認を進めており、2月10日開催予定のBPO放送倫理検証委員会においてご報告する予定です。
つきましては、個別のお問い合わせ、ご質問に対する回答は差し控えさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
一方、DHCの広報担当者は「1月27日中の回答は難しい」としたうえで、回答の可否も含め今後連絡する、としている。
回答があり次第、記事を更新します。