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親を亡くした子たちのために。母の日と父の日の本当の意味、知っていますか?

生きている人たちだけの記念日じゃ、ないんです。

5月14日は、母の日だった。そして6月18日は、父の日だ。

自分たちの親への日頃の感謝を伝える日。赤いカーネーションなどの贈り物を送ろうと、街は華やぐ。

生きている子から、生きている両親へーー。そう捉えられがちなこの二つの記念日。本当の「母の日」と「父の日」の意味は少しだけ違う。

はじまりは、亡き母と父を悼む日として

「そもそも母の日は、母親を亡くした女の子が、感謝の気持ちを伝えるために始めたことがきっかけだったんです」

そうBuzzFeed Newsの取材に話すのは、死別を経験した人たちが必要なサポートを受けられるために活動する社団法人「リヴオン」代表理事の尾角光美さん(33)だ。

母の日が始まったのは1908年のこと。アメリカ・フィラデルフィアの教会で、ある女性が「亡き母を追悼したい」と、母親の好きだった白いカーネーションを配ったのがきっかけだとされている。今年で、110年目になる。

父の日も、その流れを引き継いでいる。母親を亡くし、父親に男手一つで育てられた女性が発案者。父を亡くしたのちに「母の日」の存在を知り、1909年から始めのだという。

「このことを知ったとき、思ったんです。『私たちも主役じゃないか』って。生きている子と、生きている母親だけが何かをする日だというわけじゃなかったんだと」

由来を説明してくれた尾角さんがそう語るのは、自身も母親を自死で亡くしているからだ。

母親が亡くなったのは、自身が浪人生だった2003年。母の日に初めてプレゼントを渡した、10ヶ月後のことだった。

レストランでバイトをして貯めたお金で買った「大人っぽい、ハンドバッグ」だったという。自死したとき、母親はそのバッグを持っていた。

尾角さんは言う。

「それ以来、母の日は自分には関係ないものだと思っていたんです。ただ、その日に傷つくということはありませんでした。だって、友達と話していて母親の話題が出るたび、日々傷ついていたから」

本当の母の日を伝えたい

母の日が始まって101年目だった2008年。「本当の由来」を同じ境遇の人たちに知ってもらいたいと始めたのが「母の日プロジェクト」だった。

母親を亡くした経験を持つ人たちから、メッセージを募るというもの。病気や自死、事故、災害など、死別の理由は問わない。

保護者を亡くした子らを支援する「あしなが育英会」で知り合った仲間たちとプロジェクトを始めると、予想以上の反響があった。

「母の日は辛かった、泣いていた、花屋の前でゾッとしていたーー。そんなたくさんの声が集まってきたんです。そういう人たちを救うためにも、本当の母の日の意味を伝えることが大切なのだと、気がつくことができました」

「メッセージは、小学生から90代のおじいちゃん、おばあちゃんまで幅広く集まりました。内容も母親に感謝をする人、恨んでいる人、悲しみ続けている人と様々です」

感謝だけじゃなくたって良い

たとえば、ここ数年で集まったメッセージにはこんな内容がある。母親(41)を自死で亡くした男子高校生(16)の場合はこうだ。

母さんは母の日に自分で自分の命を絶ったけど、その前の年みたいにカーネーションを渡していれば、今も母さんがそばにいたのかもって後悔するときもある。

でもまぁ、うつで苦しんでいた母さん自身は楽になれたのかなぁとも思うよ。天国では寝てばっかりいないで好きなことして楽しんでね。

母さん、大好きだよ!いつもの場所で見守っててね。家族仲良く過ごしていきます!ではでは、また話そうね。

37歳の母親を病気で失った女子高生(18)は、母の日にこう言及する。

誰かに同情されるなんて大キライだけど、今年の母の日は、白いカーネーションを買おうかなと思います。そしてまた、星空を見上げることにします。

私の夢は、大好きな彼と結ばれて、自分達の子どもと満点の星空を観ること。そして、あなたのことを話すよ。「ままのままはね」って。

それまで、笑って泣いて、生きていく。

尾角さんは言う。

「母の日も父の日も、みんながみんな、感謝をすれば良いという日ではないんです。憎んだり、恨んだりしている人だっているから。自分と親の関係を見直す場であっても良い」

「できて当たり前のように言われることが多いけれど、死をのりこえ、立ち直る必要もなくたって良い。亡くなった人とともに生きていく、それが大切なことだと思います」

生き続ける「母と子」の関係

毎年のようにプロジェクトにメッセージを送る人には、そうやって母親との関係を見つめ直そうとしている人もいる。虐待経験がある、この女性(27)もそのひとりだ。

叩いてばかりのお母さん、どんなにがんばってもけなしてばかりのお母さんなんか、大嫌いだった。今でも嫌いだよ。許せないよ。

だけど、もしもう一度会えることが叶うなら、その時は言っておきたい言葉がある。

とてもシンプルだけど、とても大切な言葉。それなのに、言い損なってしまった言葉。

お母さん。大嫌いだけど・・・大好きなお母さん。

「ありがとう」。

メッセージは毎年、ひとつの冊子にまとめている。尾角さんはこうも語った。

「このプロジェクトを通じて教えてもらったんです。どんな亡くし方をしていても、どんな歳であっても、親と子という関係は生き続けるんだって」

今年の母の日プロジェクトは5月末まで、メールまたは郵送で受け付けている(詳細はこちら)。いつか「父の日プロジェクト」も始めたいと考えているという。