財務省の福田淳一事務次官からセクハラを受けたと、テレビ朝日の女性社員が告発したことを受け、メディア内からは自らのハラスメント経験を訴える声が続々と上がっている。
匿名、実名問わずして、「私も」といううねりは収まる気配がない。記者たちの「#metoo」だ。
マスコミの新入社員は、記者を夢見る大学生たちは、一連の動きをどう捉えたのだろうか。
仕方ない、というあきらめ
「自らも同じ目に遭った時に、声をあげる勇気をもらったのは確かです」
そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、この4月から全国紙の記者になった20代のAさんだ。
かねてからマスコミを目指してきたAさん。先輩たちの話を聞いていくなかで、記者の仕事をする上では、会社内外からのハラスメントや長時間労働がつきものだということは、ある程度イメージできていた。
「こうしたことが起きてしまうのは、仕方ないかなとも思っていました。そもそも日本は、まだ男性社会で、世代間のギャップも大きい。警察や行政だって、記者自身だってそうですよね。その人数比はすぐには変わらないですから」
ただ、もし何かがあった時に、その時に会社が助けてくれるのか、という不安もある。テレビ朝日のケースでは、女性記者の訴えが社内で退けられていたことがわかったからだ。
「この女性は一度自分の会社に相談したのに守ってもらえなかったのかと、驚きました。私も同じ目にあったとしたら、まず自分の会社に相談すると思うので……」
このことはちょうど研修中だったため、新入社員の間でも大きな話題になった。
会社側もすぐにハラスメント対策に触れ、ホットラインが機能していることなどを伝えられた。自社のサポートの厚さを知り、ひとまずは、安心することができたという。
「バッシング」への違和感
ただ、それ以上に勇気をもらったのは、今回の問題が公になってからの社会の動きだ、という。
「もしセクハラを受けても、黙っていなくていいし、我慢しなくていいんだというのは、今回のことでより、はっきりしました。自社が守ってくれなくても、支持してくれる先輩たちは必ずいるんだということがわかったからです」
一方で、告発した女性記者への「バッシング」が生まれることには違和感を覚えているという。
「一部の人たちが、動きをうっとおしく思っているような空気も感じるんです。またセクハラはいけない系の話か、というような」
実際、告発をしたテレビ朝日の女性社員に対するバッシングは過熱している。
被害を告発する過程で録音データを提供した行為に批判が集まるなど、マスコミへの不信感がこれを機に噴出している面もある。Aさんはいう。
「無断録音に関する批判的な声があがったことも、衝撃でした。ハラスメントに遭っていて、その証拠をなんとかおさえようとした手段なのに、なぜそれを卑怯だなどと言って批判するのか、ショックでした」
「セクハラする人たちはもちろんですが、この層の意識が変わらないと、結局勇気を出して告発した被害者がバッシングされてしまう構造は変わらないと思いました。この溝をどうしたら埋めていけるのか、わかりません」
いつかは、いま声をあげる多くの「先輩たち」のように。こうした社会の構造を少しでもよく変えていける記者になりたいと、強く思っている。
もしかしたら…という願い
将来は記者になりたいと思っている女性たちはどうか。都内の私立大学に通う3年生のBさんは、こう言葉に力を込める。
「逆に、やっていきたいという気持ちが強まりました」
来年の就職活動に向けて、準備を進めている。記者の仕事のイメージはつかめていないことも多かった。そうした中で今回のような実態を知り、「ハラスメントが身近にあること」に驚いたという。
「今回の問題が発覚した後、多くの記者やジャーナリストなどの人たちが、声をあげたことに驚いたんです。社会にはまだこんな状況があるんだ、という悲しみもあった」
記者になったら、自分がそうした目にあうかもしれないという不安も大きくなった。ただ、Bさんの場合はそれ以上に「使命感」が強くなった、とも語る。
「日本では『#metoo』の動きが海外ほど進んでいなかった。それでも、今回の問題を受けて、多くの人たちが声をあげている」
「もしかしたら、変化が生まれるきっかけになるんじゃないかなと、思えたんです。自分の中で『伝えなくちゃ』という使命感みたいなものが、より強まったように感じています」
今回の問題を受けて「私もバイト先の店長に同じようなことがある」「インターン先でセクハラをされたけれど、我慢した」と、堰を切ったように話をする友人たちがいた。そうした声も、Bさんの背中を後押しした。
「女性だけではなく、男性がかかえるハラスメントの問題だってあるはず。社会として考えるときなんだと思います。少しでも、この現状を変えていきたい」
記者への希望を捨てないで
一方でこうした女性たちを受け入れる人事側は、何を思っているのだろうか。
テレビ局で人事を担当している元記者の30代女性は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。
「今回の問題に関する報道によって、記者の仕事を目指す若い人たちがまた減ってしまうのではないか、と心配しています」
ちょうど新人研修をしているといい、これから記者を目指す人、記者への一歩を踏み出した人たちには、こう言葉を投げかける。
「事件の深層や社会的に意義のあるテーマに迫るために、熱意をもってぶつかっていくと、呼応してくれる取材相手は絶対にいます。ハラスメントをする人だけじゃないよ、と伝えたい」
「誠実に仕事をしていたら、自分の得意なやり方でネタをとれる日が、いつか来るはずです。だから、記者の仕事への希望を捨てないでほしいのです」