夏の甲子園初日の8月7日。第2試合。春の優勝校・智弁学園(奈良)に、初出場の出雲(島根)が挑んだ。
出雲は、島根大会の決勝で話題を呼んだチームだ。優勝が決まった瞬間のこと。林将広捕手(3年)が、マウンド上の歓喜の輪に入らず、淡々と相手チームのバッドを片付けた姿は、多くの人の胸を打った。
そんな「フェアプレー精神」に溢れた出雲がのぞむのは、出場18回目の強豪校。吾郷寛太主将は抽選会後、「対戦が決まったときはうれしかった。僕らが失うものは何もない」と語っていた。
そして迎えたこの日。序盤に3点のリードを許すものの、3回裏に、出雲に好機が。
ヒットで原暁投手(3年)が出塁。犠打でランナー2塁のチャンスをつくる。
2アウトで打席に立ったのは、2年生の橋本典之選手だった。島根大会では、チーム最多11安打を放った1番バッター。ベンチとアルプススタンドからの声援が、ひときわ大きくなる。
カツンと、軽やかな金属音が響く。風に乗った白球は左翼手の頭を超えた。
スタンドが沸きかえる。初出場の出雲が、選抜優勝校から1点をもぎ取った瞬間だった。
しかし、得点はこの1点のみ。6-1で、出雲の夏は終わった。試合後、整列した出雲ナイン。力を尽くし、笑顔を見せる選手もいるなか、智弁学園の勝利を、拍手で称えた。
島根大会中から「本気で遊んでこい」と指導し続けてきたという植田悟監督。選手たちをこうねぎらった。
「最高の舞台で、最高の相手と勝負することができた。選手たちは最後まで生き生きとした目で、プレーしてくれた」
出雲市の広報課も、その善戦の感想をFacebookに書き留めた。
「全国屈指の強豪校を相手に、爽やかな笑顔とはつらつとしたプレーで、最後まであきらめずに頑張り抜いたその姿は、私たちに興奮と感動を与えてくれました」