• worklifejp badge

電通で残業「過少申告が常態化」か、厚労省が書類送検へ 社長は「新しい電通を」

「長時間労働の実態を明らかにしていきたい」

国内最大の広告代理店・電通の新入社員だった女性が、過労で自殺した問題。厚生労働省は労働基準法違反の疑いで電通の捜索に入り、強制捜査に乗り出した。

複数の社員がBuzzFeed Newsの取材に「残業時間を少なく調整していた」と証言している。過少申告が常態化していたと見られる。

厚労省によると、今回の捜索対象は東京本社や大阪、名古屋、京都の支社。総勢88人体制、「異例」とも言える大規模な捜査だという。

書類送検へ

捜査を指導調整する厚労省労働基準局監督課の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に対し、強制捜査の目的をこう語る。

「先月実施した『臨検監督』の結果、労働時間に関して労働基準法に違反しているのではないかという疑いが強まったため、強制捜査に切り替えました」

「労使交渉で決められた労働時間を超えた実態があったのかを含め、強制捜査でしっかりと入手した資料から分析していきたい」

同省はこれまで任意で捜査を続け、10月14日には「臨検」と呼ばれる立ち入り調査を実施していた。日経新聞などによると、押収した資料を分析し、書類送検する方針だ。

実態とかけ離れた労働時間

一連の捜査の発端は、昨年12月に自殺した、新入社員の高橋まつりさん(当時24)が、労災認定を受けたことだった。高橋さんは長時間労働やパワハラなどに苦しんでいたとされている。

高橋さんの残業時間は、昨年10月に「69.9時間」、11月に「69.5時間」と、上限だった70時間ギリギリに申請されていた。しかし、労災認定された昨年10月9日~11月7日の労働時間は約105時間だった。遺族側は「会社が過少申告をさせていた」と主張している。

そもそも電通では、社員がゲートを出入りする時間を管理している。1991年、入社2年目の男性社員が過労自殺した「電通事件」を受け、再発防止策として導入された仕組みだ。

同社によると、管理されている退館時刻と、申請された終業時刻との間に1時間以上(現在は30分以上)の差があると、社員それぞれが理由を「私事在館」として申請するシステムになっているという。

常態化していた過少申告

この制度を使った残業時間の過少申告が、同社では常態化していたとみられる。

BuzzFeed Newsの取材に応じた複数の社員は「決められた残業時間以上がつけられなくなったときのために利用している」と証言する。

食事していた、本を読んでいた、勉強をしていた、私用で電話やインターネットを利用していた……。「自己研鑽」「自己啓発」などのための時間という名目だったが、実態は残業時間を基準内に調整するためだったという。

同社は先月末から、長時間労働対策として、残業時間の上限を削減したり、22時に全館を消灯したりするなどのルールを策定。これに際し、私事在館も禁止された。

BuzzFeed Newsが入手した社内メールでは、人事局からこんな呼びかけがされている。

「『自己啓発』『私的情報収集』『私的電話・私的メールのやりとり・SNS』による私事在館を禁止とします」

厚労省も問題視

ブラック企業被害対策弁護団代表の佐々木亮弁護士は、BuzzFeed Newsのメール取材に対し、「私事在館」の制度をこう批判する。

「この制度は最悪の制度だと思います。実態をみないで、一律にこのようなやり方をすること自体に企業としての甘さ、狡猾さが見えます。禁止されることは、当然といえるでしょう」

厚労省もこの制度の存在をこれまでの調査や報道により把握しており、問題視しているようだ。先出の担当者は言う。

「私事在館が実際どう運用されていたのかを含め、捜査をしています。長時間労働の実態を明らかにしていきたい」

BuzzFeed Newsは同社に対し、「残業時間の調整に使われていた、などの問題点はなかったのでしょうか」という質問をしたが、明確な回答はなかった。

社長は何を語ったのか

強制捜査のあった11月7日、再び同社に今後の対応を問うと、FAXでこう回答があった。

「捜索が入ったことは事実です。調査には全面的に協力してまいります」

奇しくもこの日の午後1時からは、石井直社長が全社員に向けて、「我々の働き方の進化に向けて」と、1時間にわたって自らの考えを示している。

会合自体は「社内向けのため」として公開されなかったが、報道向けに「要旨」を発表した。

それによると、石井社長は先月末から実施している長時間労働対策を改めて説明。「労働時間が長くなってきた背景」として、以下の理由をあげた。

  • 仕事量の増大(環境の変化、課題の変化、難易度の高まり)
  • いかなる仕事も引き受ける気質(期待に極力応えたいという姿勢)
  • 現場主義の尊重(真摯な使命感)

また、「仕事量に関する見直しの3つの視点」として、こんなことも提示した。

  1. 業務量自体の削減と業務の分散化
  2. 業務プロセスの見直し
  3. 時間の使い方自体の改善

その上で石井社長は「電通においては人が唯一にして最大の財産、経営資源」とも語り、最後にこう呼びかけたという。

「世の中に活気やよろこびをもたらす仕事に関わりたい」「時代を動かす仕事に挑戦したい」「自らが時代の変化を創り上げたい」といった想い、志に立ち返り、それを大切にしてほしい。

チーム力を結集し、社が直面する課題を共に克服し、新しい電通を作り上げていこう。