日本経済新聞が記事中で「東日本大震災で、妊産婦がたらい回しになった」と報じたことに対し、当事者から異議が上がっている。
問題になっているのは、「災害時、妊産婦の命守れ 連絡調整役養成へ」という記事だ。
10月3日に配信されたこの記事。大きな災害が発生した際に、妊産婦らを医療機関につなげる「調整役」の養成を厚生労働省が始める、と伝えている。
記事の内容は、こうだ。
厚生労働省は大規模な災害が起きた際、治療や搬送が必要な妊産婦や乳幼児の情報を集め、適切な医療機関につなぐ調整役「小児周産期災害リエゾン」の養成を始める。都道府県ごとに少なくとも2人、計100人を配置する方針。東日本大震災で妊産婦らが病院をたらい回しにされる事態が問題化したことを教訓に、災害時に母子の命を守る仕組みを整える
東日本大震災では、地震や津波被害で多くの医療機関が機能不全に陥り、他の病院に搬送された妊婦がたらい回しになったり、ミルクやおむつなど赤ちゃんに必要な物資が届かないといった事態が発生した
そもそも妊産婦の「たらい回し」は2006年、分娩中に意識不明になった奈良県の女性が、19カ所の病院に受け入れを断られた末、約60キロ離れた搬送先の病院で死亡した事件以降、メディアで使われるようになった言葉だ。
今回、災害時に向けた新たな取り組みのきっかけになったという「東日本大震災時の妊婦たらい回し」をめぐって、ツイッターなどでは当事者である東北の住民や産婦人科医らから、抗議の声があがった。
そんな事実はない、という声だ。
宮城県立こども病院産科部長で、東北大大学院の室月淳教授は、ツイートで「事実は存在しない」「どの病院でも必死に受け入れていた」と抗議した。
室月教授は震災直後、仙台市内外の妊産婦が3つの施設に集中したことを明かし、「われわれは否も応もなくすべての妊産婦を受け入れざるを得ませんでした」「自力で病院までたどりついた妊産婦を門前払いすることなどできないでしょう」と指摘。こうもつぶやいている。
日経新聞にはぜひとも「たらい回し」の事実をお示しいただければと思います.もし事実があったとすれば,われわれは医療者として猛省しなければなりません.しかしもしそれがなかったとすれば,紙面上にそれをあきらかにし,記事を訂正していただくことだけを望みます
BuzzFeed Newsは厚労省に取材をした。地域医療計画課の小児・周産期医療専門官は同じように「たらい回し」を否定し、こう話した。
室月教授によると、10月4日夜になって、日経新聞から謝罪があったという。
社会部デスクからの電話で「表現は配慮が足りず、不快な思いをさせてしまったことは申し訳ない」という謝罪があった一方、混乱の中で当事者の妊産婦が「たらい回し」と感じられる状況はあっただろうとして、訂正はしない方針を示したという。
室月教授はBuzzFeed Newsの取材に、こう話す。
「私たちは、医療に重大なる矜持を持って働いています。震災時は、院内外の人たちがみんな一丸となっていました。そういうことへの想像力が足りないのは、残念に感じています。”たらい回し”という言葉はメディアとして心して使ってください、と伝えました」
「言葉尻をとらえて難癖つけるのも本意ではありません。ただ、その当時の状況を知っていただきたかった」