写真に写る一人の少女。
「泣き虫愛ちゃん」と呼ばれた彼女は、卓球大会の会場で泣きそうな表情を浮かべながら、母・千代さんからアドバイスを受けている。
福原愛、27歳。3歳で競技を始め、母の厳しい指導のもと頭角を表し、全日本選手権大会で7連覇を果たすなど輝かしい成績を残す。
名前通りの愛くるしい笑顔、負けて大泣きする姿。一躍、テレビの寵児になった福原は、成長を重ね、今では日本代表の最年長選手だ。2015年9月のアジア選手権でキャプテンに指名されてから、自らのプレーとメンバーへの思いやりで、チームを引っ張っている。
リオ五輪でともに戦った後輩・伊藤美誠は、いま15歳。福原が初めてオリンピックに出場したのも、同じ15歳の時だった。
銅メダルがかかる、シンガポール戦。ダブルスで共に伊藤と戦った福原は、プレーが途切れるたびに、伊藤に声をかける。ミスをすれば、「大丈夫、大丈夫」と励まし、良いプレーをすれば、伊藤の目を見て、何度も頷く。
勝利まであと1勝に迫った、伊藤のシングルス。伊藤に声をかけていたのは、監督ではなく、福原、その人だった。
銅メダルをつかんだ後、福原はこう言った。
「(伊藤の第4ゲームは)日本のみなさんと同じで祈るしかできなかったので、全神経を美誠に注いでいました」
やはり、この日も福原は泣いていた。頼れるキャプテンとしてチームを背負い、重圧に耐えた。
「苦しいオリンピックでした」
その涙は、“泣き虫愛ちゃん”と呼ばれていた頃とは、少し違って見えた。