新宿二丁目で5月3日、「わたしたちの表現~セックスと恋愛のあとにくるもの」と題して開かれた東京レインボープライド主催のトークイベント。同性愛を描く2人のマンガ家が対談した。一人はレズビアンの中村キヨさん。もう一人はゲイの田亀源五郎さん。2人が語った性的マイノリティの結婚と子育てとは。
「ママが二人いる」生活
中村さんは同性婚をしている。そして、同性婚相手が生んだ3人の子を、女2人で育てている。昨年、その生活を描いたコミックエッセイ『お母さん二人いてもいいかな!?』(KKベストセラーズ)を刊行した。
作中では、中村さんと「妻」が、母2人の関係を周囲のママ友たちにカミングアウトすべきかどうか、激しい議論を交わすシーンが描かれる。
中村さんが解説する。
「私は、こういう商売をしていて、顔も出しています。だから表では、カミングアウトして、矢面に立って理解を求めることを望まれたりする」
「でも、カミングアウトって、人を巻き込むんですよね。一緒に歩いているだけで、ああ、この人もそうなんだってなっちゃったり。それが子どもだとなおさらです」
「そこで私たち2人は、子どもたちが自分で言うと決めるまでは、2人の関係を周囲に隠すことに決めました」
子どもたちは「かわいそう」なのか?
表立って発言をしつつ、家族のプライバシーを守るのは簡単なことではない。その裏側には、人知れない努力があった。
「私がこうやって表に出ているので、妻側は身バレしないようにかなり工夫しています。方法は言えませんが、ものすごくお金も使っています。エッセイ刊行前も、数年間にわたって相当周到な準備をしました」
そうした努力の結果、「妻や子どもたちのことがバレている形跡はない」。それでも、中村さんのもとには「子どもがかわいそう」といった声が届くこともあるそうだ。
司会のブルボンヌさん(女装パフォーマー・ライター)が2人に問いかけた。
「自分と違うスタイルの人たちに対して、想像で『それでは不幸になるだろう』って言うのは、呪いをかけるようなもんじゃないですか。どうして、そういうことをしたがる人が多いのか。不思議でしょうがないです」
「個人単位で、一生懸命、人生を戦うんだったら、いろんな形があっていいと思うんですけどね」
2人が代わる代わる答えた。
中村「確かめてるんですかね? 自分が普通で、不幸ではないって」
田亀「それはありますね」
中村「そう言いながら、かみしめている部分があるのかもしれない」
田亀「でもね、でも小津安二郎の映画のセリフじゃないけど、幸せなんてけっこう退屈、なはずなんですよ。何事もなく日々が過ぎていくわけだから。そういう意味でいうと、実感しにくいんじゃない? きっと」
田亀「規範から外れたものは不幸である、と考えたい人は、自分が規範に沿っていることで、自分が幸福であるって安心感を得たいんだと思うよ」
弟の「夫」と、どう暮らすか。
田亀さんは、ゲイ男性向けの専門誌「さぶ」でデビューし、30年目となるベテラン。
そんな田亀さんが、一般紙に連載しているのが『弟の夫』(双葉社)。単身で娘を育てる男性主人公のもとに、死んだ弟と同性婚していた「夫」がやってくるというストーリー。昨年、文化庁メディア芸術祭・マンガ部門優秀賞を受賞した。
作中では、元妻(娘の母)が一家を訪れ、小学生の娘について「やっぱりあの年だとまだ……母親が必要なのかな」とつぶやくシーンがある。それに主人公は「俺はそんな風には考えたくない」と切り返す。
田亀さんは、何を描こうとしたのか。
「親がいない、もしくは片親だと『かわいそう』っていう前提を、社会全体で刷り込みしてるみたいなのが、すごく私は嫌だった」
「社会全体が、片親とか孤児に対して、お前はかわいそうだね、かわいそうだねっていうことに対して、昔から嫌な気持ちがあった」
「もちろん片親だと貧困につながりやすいとか、社会問題としてはいろいろあると思うんだけど。それをフィクションの中の、お約束的に使うのは、もういい加減やめてほしいなということです」
同性パートナーと20年「幸せ、実感」
2人のトークは「結婚」と「同性婚」にも及んだ。
同性パートナーと、20年以上同居している田亀さんは、こう話す。
「パートナーと付き合い始めた時、一緒に住んでいるとはいったって、いつ別れても不思議はない。結婚のように寄りかかれるものが何もない状況で、関係を持続させたいなら、より相手のことを気遣う必要があるな、と思ったんです」
「だから、相手の嫌がることと自分のやりたいことが重なった場合、それを天秤にかけてどっちをとるかは、すごく慎重に考えるようになりました」
田亀さんは「一緒にいて、幸せは、確かに実感できるものだった」と振り返る。
「そういう意味では、カップル、つがいみたいな関係、人と人との関係に、婚姻みたいな絆がないことが、逆にちゃんとした幸せを見つけるカギになる可能性はあるな、なんてことも思ったりはするんですね」
「婚姻制度に対して、もやもやしたものがある」
一方、中村さんは「結婚」について感じていることを、次のような言葉で表現した。
「現行の婚姻制度に対しては、どちらかというとノーというか。むしろ、一人で生きていける社会保障が必要だと思っています」「みんないつかは結婚相手と死に別れる。そのことを考えると、一人でも生きていける社会のほうが安心です」
かつて同性婚をしていたパートナー女性を病気で亡くした経験が、中村さんにはある。
「いま、結婚が一つのゴールじゃないですけど、それが一番上の階級みたいになっちゃってる部分もあるので」「そもそも結婚せずに一人で生きていきたいっていう人たちが、ないがしろにされているのもあるし。いろんな角度からもやもやしたものがあって」
「だから、現行制度の婚姻を同性にシフトしたものを、っていう議論が進んでますけど、私はそれに関しては興味ないです」「したい人はしたい人でいいと思いますけど」
「結婚したい人は素直にすればいい」
田亀さんが「おっしゃることはよくわかるし、その部分に対しては同感」と頷き、議論を引き継いだ。
「でも、異性愛のカップルが結婚する時に、われわれが結婚することで、社会問題の元凶となっている婚姻制度を補強してしまう、と思って結婚する人なんて誰もいない」
「みんな、結婚したいから結婚するんですよ」
「その問題を同性カップルだけに押し付けて、おまえたちが考えろよって強要するのは、明らかに間違いだと思ってます。これはもっと素直に、(結婚)したい人はすればいい」
「現行の婚姻制度を批判するなら、同性婚という枠組みではなくて、『婚姻と非婚姻』という枠組みで、分けて考えないといけない」
司会のブルボンヌさんは、次のようにトークを締めくくった。
「セクシュアル・マイノリティの結婚にしても、子育てにしても、当事者の中でも意見は分かれるし、一言では語れない問題。2人はそういう伝えづらいことを、マンガ表現で世間に訴えてくださっている」
なぜそこまで?
そんな「伝えづらいこと」を、人知れず苦労をしてまで、なぜ表現しているのか。イベント後、BuzzFeed Newsは楽屋で中村さんに尋ねた。
「私の場合、何かのために主張しているというよりは、私にはこんなに好きな人がいて、可愛くてたまらなくて。だから、いろいろ言わないでとにかく見てよ。みたいな感じです」
「同じ属性の読者のために描いているのではない」と中村さんはいう。レズビアン代表ではないし、異性愛者にも色々いるように、レズビアンもいろんな考えの人がいる。
「異性愛者だって、同性愛者だって、気が狂うような、身を焦がすような恋をして、振られて泣いたりしています」
「この人が大好きっていう気持ちのぶつけ方とか、愛おしく思う気持ち、片思いのもやもやした悩みだったり、恋愛に絡み取られちゃう自分のバカバカしさだったり。それは、恋愛をする人だったら誰にでもあることです」
「私が恋愛をしていて、いてもたってもいられないからぶちまけているものを、読者は受け止めてくれている。その副産物として私のことを理解してくれる人がいて、同性愛者ってこんな人もいるんだって思ってもらえれば、もうけものっていう感覚ですね」