受託収賄罪などの罪に問われ、1審無罪、2審で逆転有罪とされた藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長が2月7日、最高裁での裁判を前に、東京・霞が関の司法クラブで記者会見し、あらためて無実を訴えた。最高裁では、どんな論戦が待っているのか。
まずは、これまでの経緯を時系列で振り返る。
- 2010年10月:美濃加茂市議に初当選。
- 2013年4月:2回の現金授受があったとされているタイミング。
- 2013年6月:美濃加茂市長に初当選。
- 2014年6月:受託収賄容疑で逮捕。
- 2015年3月:1審・名古屋地裁で無罪。
- 2016年11月28日:2審・名古屋高裁で逆転有罪。
- 2016年12月19日:美濃加茂市長を辞職。
- 2016年1月29日:出直し選で再選。
1審の判断 なぜ無罪になったのか?
この裁判の最大の争点は、藤井市長への贈賄罪や、金融機関に対する詐欺罪などで有罪判決が確定し、服役中の元設備会社社長・中林正善受刑者の証言が、信用できるかどうかだった。
1審は、中林受刑者の裁判での証言について、具体的で詳細、不合理な点はないとしながらも、次の4点に着目。中林受刑者の証言は信用できないと結論付け、無罪判決を出した。
- 供述内容が、途中で変わった。
- 金融機関相手に数億円の融資詐欺をし、裁判を受けていた。
- 裁判での証言にあたり、検察側と入念な打ち合わせをしていた。
- 融資詐欺での処分を軽くするため、検察側の都合の良い供述をすることもあり得た。
2審の判断 なぜ逆転有罪となったのか?
一方、2審は「関係証拠と符合し、供述内容が具体的で自然であり、信用できる」と認定し、有罪判決を出した(懲役1年6月・執行猶予3年、追徴金30万円)。
上告理由
弁護団は2審判決について、裁判官が新たな証拠もなしに、心証(裁判官が受けた印象)だけで事実認定を覆したと批判。
このことが、2審が1審の事実認定を覆すためには、論理則・経験則などに照らして不合理だと具体的に示す必要がある、とした最高裁の判例(2012年2月13日)に違反するという認識を示した。
最高裁に上告するには、憲法違反・判例違反などが必要だが、今回の裁判では、この判例違反が上告理由となるもようだ。
郷原信郎弁護士「最強の弁護団になった」
藤井市長の弁護団には、最高裁での裁判に備えて、原田國男弁護士、喜田村洋一弁護士と吉峯耕平弁護士の3人が加わり、総勢9人になった。
原田弁護士は元東京高裁総括判事。喜田村弁護士はロス疑惑やAIDS事件で無罪判決を得たベテラン刑事弁護人だ。主任の郷原信郎弁護士は「最強の弁護団の体制にすることができた」という。
記者会見で原田弁護士は、「贈収賄は、渡す場面が一番重要なんです。渡す場面が崩れたら無罪になる」と指摘。ところが、現金受渡の場面についての中林受刑者の証言は、「そこだけ、ふっと現実感がなくなる」「迫真性がないというか、あまりにもそこだけしらけている」として、信用性に疑問を投げかけた。
喜田村弁護士も「2審判決には重大な事実誤認がある」と述べ、最高裁は2審判決を破棄するべきだと話していた。
藤井市長「再選で雰囲気が戻った」
記者会見に臨んだ藤井市長は、「逮捕・起訴の時点から、一切事実にない」と、あらためて無実を強調。「最高裁では正しい判断をいただけると信じています」と期待を込めた。
記者会見後、BuzzFeedの取材に対して藤井市長は次のように話していた。
「有罪判決が出た後、市の雰囲気は非常に悪くなりました。しかし再選後には、市民のみなさんがもう一度わたしを受け入れてくれやすくなり、有罪判決前の雰囲気に戻りました」
藤井市長は「裁判を戦いながら、市長職を続けることの信任を問う」として、出直し選をした結果、1万9088票を獲得し、4105票の次点候補に大差で勝利した。
ただ、出直し選で辞職した候補が勝った場合、任期は出直し選がなかった場合と同じになる。そのため、今年5月にはまた美濃加茂市長選が予定されている。
弁護団によると、最高裁は「上告趣意書」の提出期限を3月16日に設定したが、これは交渉の余地があるものだという。
仮に有罪が確定すれば、藤井市長はその時点で失職することになるが、最高裁が結論を出すのは次の市長選後になる可能性もある。