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タクシー運転手の「残業割増」はどう支払われるべきか? 今後を占う注目の裁判 最高裁で弁論

一審・二審は乗務員側が勝訴。しかし最高裁で弁論が開かれ……。

タクシー乗務員の「時間外の割増賃金」はどう支払われるべきかをめぐる裁判で、最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長)が1月31日、弁論を開いた。この裁判ではタクシー乗務員14人が、kmブランドで知られる国際自動車(東京)を相手どって、残業代、深夜手当、休日手当、通勤手当など1900万円の支払いを求めている。一審東京地裁・二審東京高裁はともに、1人あたり100万円程度の支払いを会社側に命じ、会社側が最高裁に上告している。

労働時間は原則1日8時間、週40時間。それを超えた時間外労働については、割増賃金を払わなければいけないというルールが、労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)で決まっている。タクシー事業者のように歩合給の労働契約の場合でも、割増賃金のルールが適用されるべきかという点が、この裁判の最大の争点となっている。

乗務員側の言い分は、次のような内容だ。

国際自動車の賃金規則は、時間外手当等を形式上支給している。しかし、歩合給の計算をするときに、時間外手当等と同額だけ歩合給を減額している。そのため、乗務員がいくら時間外労働をしても、賃金総額が変わらない。これでは、時間外手当が支払われないのと同じだ。こうした契約は公序良俗違反(民法90条)で無効だ。

一方、会社側の言い分は次のようになっている。

タクシー乗務員は給料が歩合制で、乗務員の裁量が大きく、残業するかどうかも乗務員に委ねられている。時間外労働の割増賃金を控除するのは、効率的な営業のため、乗務員の長時間労働を抑制するために必要で、乗務員にとって公平・有利なものだ。残業代は払っているので、労基法37条には違反しない。歩合給の計算方法をどうするかは会社と労働者の契約の自由だ。

二審判決(東京高裁)の判断は、まとめると次のようになる。

割増賃金の支払いを強制することで、時間外労働を抑制するという37条の趣旨は、タクシー乗務員との労働契約でも妥当。歩合給・出来高払いの場合でも、割増賃金を払うべきだ。

会社側は、時間外に車を停めて寝ている乗務員の賃金が増える事態を避けるために必要だと主張する。しかし、そのような事態がどの程度あり得るのか明らかでなく、この賃金規定がないと乗務員の勤務状況の管理ができないとまではいえない。

最高裁での論点は?

弁論の最大の争点は、歩合給から割増賃金を控除するタクシー会社の取り決めが、許されるのかどうかだ。

最高裁で弁論が開かれたということは、一審二審の判断のどこかが変更される可能性が高い。一審・二審判決を根本的にひっくり返す、逆転判決が出る可能性もある。ただ、最高裁では割増賃金の計算方法も論点となっており、その部分だけが変更される可能性もある。

乗務員たちが起こした別の裁判では、残業代の支払いを認めない一審判決が出ているケースもある(東京高裁に係属中)。

乗務員側の代理人を務める指宿昭一弁護士は弁論のあと、参議院議員会館で開かれた関係者向けの報告集会で、次のように訴えていた。

「原則は1日8時間労働、週40時間労働。それを超えて仕事をさせたら、使用者に対する罰則的な意味でも、割増しを払わないといけない。これを認めない判決は間違っている。こんなことがまかり通ったら、電通事件のようなことが起こる」

「タクシーやトラック業界では、残業をしても歩合分しか払われない、こうした賃金規定が一般化している。これに対して最高裁がノーというのか、イエスというのかが問われている。電通のような事件を起こさないためには、こうした規定を認める判決を出してはならない」

最高裁判決は2月28日に予定されている。