NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)が9月5日に発表した、日本の「児童ポルノ」についての報告書が話題を呼んでいる。
調査では「児童ポルノと疑われる」DVDやビデオが都内の店舗やネットで販売されているのを発見。児童の年齢確認ができないため、児童ポルノだとは断定できなかったが、そのうち入手した5点のビデオを医師に見せたところ、うち4点のモデルが18歳未満だと推定されたという。
報告書はこうした結果を受け、児童ポルノのチェック体制が不十分だと指摘。取り締まり強化などの対策を提言した。
しかし、児童ポルノに詳しい奥村徹弁護士は、そのコンテンツが児童ポルノかどうか、画像だけから判別するのは難しいという。なぜだろうか。その理由を詳しく聞いた。
奥村弁護士が解説する。
着エロなどを、法律上の「児童ポルノ」(3号ポルノ)と認定するには、次の要件を満たす必要があります。
1. 実在する18歳未満の者であること(児童ポルノ禁止法2条1項)
2. 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」(児童ポルノ禁止法2条3項3号)
このうち2つ目の要件については、撮影された画像を見ただけで、認定できる可能性があります。
しかし、児童の年齢については、画像から認定することは困難です。
年齢確認の方法は?
モデルが児童だと立証するために、警察・検察は、下記の2つの方法を使っています。
- 児童を個人特定して、戸籍で生年月日を特定する。
- 「タナー法」による推定。
タナー法とは、乳房・陰部の成長を基準にして、医師が年齢を判定する手法です。
ただ、最近の判決では次のような理由で、裁判証拠としての価値に疑問があると判断されています。
「タナー法による分類に基づく年齢の判定は、あくまで統計的数字による判定であって、全くの例外を許さないものとは解されない。その統計的数字も、例えば、現在のDNA型鑑定に比すればその正確さは及ばない。身長や肌の艶、顔つき、あるいは手の平のレントゲン写真などといった判断資料は切捨象して、胸部及び陰毛のみに限定して判断するタナー法の分類に基づく年齢の判定は、あくまで、18歳未満の児童であるか否かを判断する際の間接事実ないし判断資料のーつとみるべきである」(「CG児童ポルノ事件判決」東京地裁H28.3.15)
着エロとタナー法
しかも着エロの場合は、乳房・陰部が隠されているので、タナー法は使えません。これまでの着エロの刑事事件は全部、個人特定によって児童であることが立証されています。
先のCG児童ポルノ事件では、明らかに18歳以上のAV女優の写真について、医師がタナー法によれば8〜10歳程度と判断しました。判決では「18歳以上と考えられるにもかかわらず、タナー2度と判定される程度にしか乳房が発達していない女性が実社会に存在することは否定できない」と判示されています。
DVDの見た目やタイトルから「児童ポルノ」と断定することには慎重であるべきです。
販売業者の年齢確認は現実的か?
そうなると、児童ポルノの流通を防ぐには、ますます個人特定と年齢確認が重要になる。
HRNの報告書は、コンテンツの製造時だけでなく、流通・販売の段階でも、出演者の氏名・年齢などのID確認を義務付けるよう提言している。
この点について、奥村弁護士の見方はどうか。
コンテンツの製造段階については、すでに児童ポルノ法9条で、年齢確認義務が課されていると言えます。
しかし、仕入れて販売する業者の場合、法律上、年齢確認義務はありません。
流通段階での内容確認を求めることは、書店に販売している書籍の全部について内容確認を義務づけるのと同じことです。
実際上、末端の販売者は多くの作品をまとめて仕入れていて、どんな作品かも知らないまま販売していることが多いと思います。
これまで児童ポルノとして立件された着エロの多くは、「広く流通しているシリーズものの、初期の1タイトル」というパターンでした。
こうしたコンテンツの内容を、店がいちいち確認するのは困難です。法律で年齢確認を義務づけるのも難しいでしょう。
HRNが報告書を発表した会見でも、記者から「流通段階でのID確認は、出演者の個人情報の拡散につながるのでは」といった質問が出ていた。
ただ、DVDの販売業者が、児童ポルノ法違反で立件される事例はたびたび報道されており、対策が必要なことは間違いない。
今後、児童ポルノの流通を防ぐためには、より現実的な「年齢確認の手段」 を突き詰めて考えていく必要がありそうだ。