警察の性犯罪対策パンフへの苦言 NPO団体の要望書を青森県警が受け取り拒否

    性暴力は被害者が防ぐべきもの?

    「自分の身は自分で守る?」

    性暴力被害者を支援するNPO団体レイプクライシス・ネットワーク(青森市)の代表を務める岡田実穂さんは12月、青森県警のつくった性暴力被害防止のパンフレットを見て驚いた。「この内容では、被害防止どころか、被害者を傷つけてしまうことになりかねない」と感じたからだ。

    性犯罪から身を守る五の掟

    岡田さんはこのパンフレットの問題点を、こう解説する。

    「警察のパンフレットが『自分の身は自分で守る』というのはどういうことでしょうか。これでは誰も守ってくれないというメッセージとして、伝わりかねません」

    「しかも、身を守るための具体例として書いてあるのが、窓を開けっ放しにするな、暗い夜道を一人で歩くな、スマホを使いながら歩くな……。常に実践するのは不可能です」

    「これでは、アドバイスとして役に立たない。それどころか、あなたはxxをしていなかったからダメなのだと、被害者を責めることになりかねません」

    「このパンフレットは、見知らぬ人から被害を受けることを想定して、書かれています。しかし、実際には知人からの被害も多い。『性犯罪を防ぐ』と言う以上、性犯罪の全体像を伝えたうえで、より具体的で実現できる防犯行動に繋げていく必要があると思います」

    2014年の内閣府のアンケート調査によると、「異性から無理やりに性交された経験」がある女性のうち、加害者が「まったく知らない人」というケースは11%しかなかった。

    加害者の多くは配偶者・元配偶者や、交際相手・元交際相手など、親戚、職場の人など、知っている人だった。そして、レイプ被害女性の7割近くが、誰にも被害を相談していない。

    パンフレットには、次のような文章もある。

    性犯罪は、「心の殺人」とも言われています。

    一度受けた心の傷は、決して消えることはありません。

    あなたも性犯罪を防ぐ正しい知識を身につけて、性犯罪防止の有段者を目指しましょう。

    岡田さんは話す。

    「被害者の努力では、被害を防ぎきることはできません。これは被害者に責任を押し付けて、性犯罪被害者の傷をえぐるような表現です。被害者の回復や、被害者が、そうして生き抜いていることは、全否定したいのでしょうか?」

    「『悪いのは加害者だ。警察は加害者をきちんと取り締まる。被害者は悪くない』といったメッセージを、同時に伝えられないのは、なぜなのでしょうか」

    「商品選びにも集中したらだめなの?」

    青森県警の別の啓発パンフレット、「性犯罪被害に遭わないために」では、盗撮対策として、こんな風に書いてある。

    「スカートを履いている時は、背後に注意!」

    「お店の中でも要注意! 商品選びに集中してしまうと、後ろや横にいる不審者に気付かず」「盗撮される」

    岡田さんは苦笑する。

    「『スカートを履いている時には背後に注意』も、現実的ではありません。これではスカートを履けなくなります。それに、店の中ではみんな商品選びに集中しますよね」

    「性犯罪への正しい認識が、もっと社会全体に広まっていれば、周囲にいる人が気づいて対応できるかもしれません。顧客への安全管理という点では、店舗側が対処できることもあるでしょう」

    パンフレットに登場するイラストが、すべて『被害者=女性、加害者=男性』なのも気になったという。

    「実際の被害者は女性だけに限定されるわけではありません」

    要望書のポイント

    そこで、岡田さんは青森県警本部長にあてて、要望書を書いた。

    要望書のポイントは、次のようなものだった。

    1、被害があるのは「加害者が加害をしたから」。被害者は悪く無いとまず常に伝えて下さい。

    「被害者に『自分が悪い』と思わせることは、性被害の可視化を阻害し、予防どころか加害者の行動を後押ししてしまいます」

    2、性暴力に関する社会の意識改革を推進して下さい。

    「性暴力被害にあった多くの人が、被害時に傍観者がいたと、報告しています」

    「傍観者だった人々が、緊急時の積極的な介入方法を身につけること、それぞれのコミュニティ(国、自治体、町内、学校、職場等)で具体的な予防指針を立てることは、性暴力被害未然防止に繋がります」

    3、性暴力に対し警察が厳しく取り締まるという姿勢を示して下さい。

    「性犯罪がいかに悪質であるか、また警察がそれに厳正に対処するという姿勢を示すことは、加害のハードルを上げるだけではなく、被害者へのエンパワーにも繋がります」

    4、予防啓発の際は、必ず被害者支援情報を伝えて下さい。

    「被害者はどこにでもいます。性被害についての語りには必ず支援情報を入れてください。被害は単発のものとは限りません。被害相談は、継続した被害の予防に繋がります」

    県警は要望書を受け取り拒否

    岡田さんは12月26日、アポを取ったうえで、レイプクライシス・ネットワーク理事の宇佐美翔子さんと2人で県警本部を訪れた。青森県警本部・人身安全対策室長の栗生俊樹さんが、40分ほど対応した。しかし、要望書の受け取りは拒否された。

    岡田さんはこう話す。

    「要望書とアンケートを渡そうとしましたが、投げやりな『流し目で見る』といった感じでした。要望書を受け取っていただけないので、口頭で説明しましたが、先方からは質問もありませんでした。ちゃんと話を聞いてもらえたのか、ちゃんと伝えてもらえるのか、不安に思っています」

    このアンケートは、性暴力被害の予防啓発について、県警がどんな意識で、どんな取り組みをしているのかを聞く内容だったという。

    「電話では回答できない」

    BuzzFeed Newsは、青森県警に電話で話を聞いた。取材に対応した栗生さんは「要望書は受け取らなかった」と認めた。

    その理由を聞くと「一般的に、誰かの要望・相談は、『警察安全相談』という形で受けている」「今回は、直接、話をうかがって用が足りたと判断した」と答えた。

    ただ、それでは、A4用紙1枚の要望書を受け取らない理由にはなっていないのでは? こう質問すると、栗生さんは「電話では回答できない」と繰り返した。

    警察の啓発活動の多くにはまだ問題がある

    岡田さんは話す。

    「事前に担当者と話をして、日程調整までしていったので、要望書を受け取ってもらえなかったのは驚きでした。受け取ったという記録を残したくないのかもしれませんが……」

    「私たちは、なにも青森県警を責めたいのではありません。地元で活動するNPO団体として、より有益な情報提供、啓発活動の形を一緒に考えていきたいのです」

    「性暴力被害者の支援という観点をふまえると、警察の啓発活動の多くにはまだ問題があります。ただ、全国を見ていくと、警察の中にもよりよい啓発活動をしているケースもあります。これからも、根気よくメッセージを発し続けていこうと思います」