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「泣きそうになる毎日だけど…今日も行ってきます」自殺した女性教諭の公務災害、2審も認める

黄色い携帯電話には、母とのやり取りが残っていた。

東京都西東京市の市立小学校の新任女性教員(当時25歳)がうつ病になり、2006年12月16日に自殺した。これが公務災害にあたるかどうかが争われている裁判で、東京高裁(後藤博裁判長)は2月23日、1審に続き、自殺は公務災害だとする判決を出した。

遺族と弁護団が判決後、霞が関の司法クラブで記者会見した。父親(68歳)は「(1審判決後に被告の)地方公務員災害補償基金(地公災)が控訴したと知ったとき、私たちの落胆と失望は筆舌に尽くしがたかった。これ以上遺族を苦しめないでほしい」と、最高裁への上告を思いとどまるよう訴えた。

「学校に行きたくない」「身体がつらい」

判決によると、女性は2006年4月から西東京市立の小学校で新任教諭として働き始めた。

4月7日、母に送ったメールでは「仕事場がとてもみんな優しくて楽しくて雰囲気もいいから本当にいい学校にきたなあって思ってる毎日です」と綴っていた。

しかし、女性は2年生のクラス担任として、直後からいくつもの難しい対処を余儀なくされた。

担任だったクラスの児童が、校外で梅の実を食べて問題になり、管理職に怒られた。クラス児童の万引き疑惑。抗議する保護者への対応。教材費の滞納問題。上履きや体操着が次々と隠された。

女性は6月ごろ、同僚に次のように話していたという。

「学校内のトラブルを校長に相談すると、まず『あなたが悪い』と怒られるし、言えずにいると後になって『何で言わなかったのよ』と怒られるし、どちらにしても怒られる」

相次ぐ難しいトラブル。管理職からの厳しい言葉……。女性はこんな風に訴えるようになった。

「学校に行きたくない」「身体がつらい」

長時間労働もあった。6月21日の親へのメールには「仕事、毎日睡眠削っても全然おいつかんぐらいで…」と書かれている。判決では4〜6月に43時間〜74時間程度の時間外労働が認定されている。

女性は6月末〜7月はじめにうつ病を発症した。1カ月ほど休職したが、このままでは教師を続けられなくなるかもしれないという不安が大きかった。

復職希望が強かったこともあり、医師は「理不尽なストレスがなければ就労可能」と診断。女性は薬を飲みながら仕事を続けた。

だが、女性は10月には母親にこんなメールを送っていた。携帯電話に残された文面。

「いつも電話ありがとう。元気が出る。  毎日夜まで保護者から電話とか入ってきたり連絡帳でほんの些細なことで苦情を受けたり…つらいことだらけだけど…薬飲みながらでも体が動くうちはなんとか行き続けることにした。 病院の先生にもそう告げて、そのための薬に変えてもらうことにした。 泣きそうになる毎日だけど。。。。 でも私こんな気分になるために一生懸命教師を目指したんやないんに…おかしいね。 今日も行ってきます」

女性は10月26日から病気休暇をとった。しかし、10月30日に自殺を図り、意識が戻らないまま、12月16日に亡くなった。

裁判所は「公務災害と認める」

地公災は「女性の自殺は公務と関係ないものだ」と主張した。

だが、東京高裁はこうした業務上のできごとが、教師になったばかりの人にとって「相当の精神的負荷を与える事象」だったと認定した。さらに、校外の初任者研修で「病休・欠勤は給与泥棒」「いつでもクビにできる」などといった発言があったこともふまえ、学校の支援が不十分だったと判断した。

そして、1審と同様、自殺を公務災害として認めた。

「教訓を生かして」

判決後の記者会見。ほっとした表情で父親は「娘には再びの勝利を報告したいと思います」と話した。

だが、地公災が最高裁に上告する可能性があるため、まだ決着がついたわけではない。さらに、もし仮に公務上の災害だと認められたとしても、娘が戻ってくるわけではない。両親は、同じような悲しい事態を繰り返さないため、教員の労働環境改善も実現したいと考えている。

遺族側代理人の山下敏雅弁護士は、「これ以上、長い時間をかけてご遺族を苦しめることがないように」と、上告に釘を刺した。そして、「いまも苦しんでいる現場の先生がいる」「過労死が起きたとき、学校や教育委員会にフィードバックを伝える仕組みを作ってほしい」と、事件の教訓を伝える努力をするよう、呼びかけた。

うつ病などで休職する全国の公立学校の教員は2007年度以降、5000人前後で高止まりしている。さまざまなストレスが、教員たちに重くのしかかっている。

今回の事件は、新任教員へのサポート不足が論点の一つだった。だが、遺族側代理人の平本紋子弁護士は「実際の学校現場では上の先生も多忙で、新人の声を十分に聞く時間がとれる状況にはなかなかない。忙しい姿を見ているので、新任の先生も頼りにくい。そういったことがなんとかなれば、今回のような事態は防げたかもしれない。もう少し現場の声を汲み取るような機会を設けてもらいたい」と話した。

一方、地公災はBuzzFeedの取材に対し、「今後については、まだ方針が決まっていない。判決内容を検討して、結論を出したい」とコメントした。

【追記】

その後、地公災は上告せず、判決は確定した。