「いじめ」をなくすために、大人が今すぐにできることがある

    福島第一原発事故で横浜市に自主避難をした子供へのいじめが報じられ、改めて社会の注目を集める「いじめ」。登校拒否や自殺にまで至るケースも後を絶たない。学校だけでなく、社会として、大人としてどう取り組むべきなのか。

    また、「いじめ」で命が失われた。防ぐことはできないのか。様々な研究がなされている。日本では暴力が伴ういじめよりも、「仲間外れ」や「陰口」などのいじめが多い特徴があるという。

    日本のいじめの特徴を示す、興味深い調査結果がある。

    国立教育政策研究所は、スウェーデンの大学と共同で2013年から2015年に3回、小学校6年生と中学校2年生を対象にいじめ被害の経験を聞いた。

    日本のいじめに関しては、国立教育政策研究所の過去の調査で、韓国、オーストラリア、カナダなどと比較して、陰口や無視、仲間外れなど「暴力を伴わないいじめ」が多いと明らかになっている。

    最新の調査では、日本と同様に、暴力犯罪の発生率が低く治安が良いとされるスウェーデンと比較した。

    その結果、暴力を伴ういじめはスウェーデンの方が日本より多かった。だが、「仲間外れ・無視・陰口」の被害経験率は日本がスウェーデンよりも高かった。

    朝日新聞がこの研究について報じている。それによると、

    • 「軽くぶつかる・たたく・蹴る」の暴力を伴ういじめの被害について、「今の学期で1、2回」から「週に数回」までの4段階を合わせた経験率は、小6、中2の男女いずれもスウェーデンが日本を上回った。特に小6男子ではスウェーデン65・6%に対し、日本は32・8%だった。
    • ところが、暴力を伴わない「仲間外れ・無視・陰口」の被害経験率は小6、中2の男女いずれも日本がスウェーデンより高かった。特に小6女子では4段階を合わせた割合が、スウェーデンで21・4%だったのに対し、日本では倍以上の43・4%だった。

    大人の言動が子供に影響

    なぜ、日本では「暴力を伴わないいじめ」が多いのか。スウェーデンと比べて大きな違いがあるのだろうか。

    BuzzFeed Newsは、調査に関わった、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターの滝充・総括研究官に電話取材した。

    滝総括研究官は「日本では1970年代に校内暴力が社会問題化して、暴力に対して厳しい意識が作られた」と指摘する。

    校内暴力が注目されたことで、「暴力はダメだ」という意識は浸透した。だが暴力を伴ういじめに比べ、目に見えにくい形で被害者を追い詰めるいじめは、対策が遅れてきた。

    日本では2013年、いじめ対策に関して学校や行政などの責務を規定した「いじめ防止対策推進法」が施行された。しかし、スウェーデンで、同様の法律ができたのは1980年。「いじめ防止対策推進法」ができた33年前だ。

    滝総括研究官は「(日本の)子供たちは『仲間はずれ』を「冗談」程度の軽い気持ちで行っている。日本の大人たちの言動が、子供の思考に影響している可能性がある」と分析する。

    直接的な因果関係は特定できないと前置きした上で、滝総括研究官は福島第一原発事故で横浜市に自主避難をした子供に対するいじめも、大人の何気ない会話が「子供のいじめにつながっていた可能性がある」と指摘した。

    いじめを防ぐには

    では、子供社会のいじめをなくすには、どのような対策が必要なのか?

    滝総括研究官はBuzzFeed Newsに、こう答えた。

    「(子供のいじめをなくすには)大人の世界そのものが人権に敏感になる必要があります。他者を排斥するのではなく、まずは大人が人権を大切にしなければなりません」

    国立教育政策研究所はこれまで、いじめの実態調査を継続的に実施し、その結果を発表してきた。

    HPに公表された報告書によると、日本では「いじめ防止対策推進法」に至った時期やその後も、いじめの件数は特に急変していない。

    認知されたいじめの数は、報道が過熱すると若干増加するなど、社会的要因で左右される。しかし、実際に起きる児童生徒間のトラブルは「常に起きている」ということだ。

    暴力を伴わないいじめも、被害者に大きな苦痛を与える。他人を蔑視する言動を容認する大人の世界は、子供のいじめにつながる危険性がある。

    子供のいじめを未然に防止するには、「暴力もダメ。言葉の暴力もダメ」が当たり前の社会を実現する必要がある。