「教育を汚すな」「ふざけるな」教育界の異端児は、それでも“YouTubeの授業”にこだわった

    「とある男が授業をしてみた」の葉一さんにインタビューした。

    教室ではなく、YouTube上で授業をするーー教育の新たな可能性を切り開くYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」が注目を集めている。教えているのは、元塾講師の葉一(はいち)さんだ。

    小学3年生から高校生に向けた授業動画が支持を集め、今年7月にはチャンネル登録者数100万人を突破。テレビ番組「情熱大陸」の出演も果たした。

    さらには、経済産業省が葉一さんの動画を活用した家庭学習を推奨するなど、教育関係者からの信頼も厚い。

    そんな葉一さんだが、YouTubeをスタートした直後は厳しい声が相次いだという。それでもYouTubeの授業にこだわった理由とは。

    子どもたちに評価してもらうまで諦めない

    ーーまだYouTubeがあまり認知されていなかった2012年から、授業動画を投稿されていました。当時はどんな反応でしたか。

    想像以上に誰も見てくれないし、アンチがすげぇ湧いて大変でした(笑)。

    ーーアンチ……。

    「教育に携わる者」という方たちから、「ふざけるな」「YouTubeで教育をやる意味が分からない」というお叱りメールがたくさん届きました。

    「教育を汚すな」が一番言われましたね……。

    ーー傷つきましたか。

    めちゃめちゃ気にしてましたよ(笑)。でも、一番怒られた最初の2012年って、チャンネル登録者が145人しか増えてないんですよ。

    本当に見てほしい子どもたちに届いてなかったんですよね。子どもたちから「自分の動画は使えない」って言われたらまだ諦められるんですが。

    ーー当の子どもたちに動画を見てもらえてなかった。

    そうなんです。子どもたちに見てもらえてないのに、他の人に茶々入れられて諦めるのは絶対におかしいと思って。

    だから、ある程度子どもたちに届いて、その子どもたちに動画を評価してもらうまでは絶対にやめない気持ちで続けていました。

    きっかけはHIKAKINさんの動画

    ーーそもそも、どうしてYouTubeで授業をやろうと思ったんですか。

    もともと個別指導塾で塾講師として働いていたんですけど、月謝の関係で塾に通えない子どもたちを目の当たりにしてきました。

    たとえばA君は複数の塾から好きな塾を選べる、B君は集団塾には通えるけど個別塾は通えない。C君はどこの塾にも通えないと。

    自分は塾に通ったことがなかったので、社会人として塾に勤めてから初めてそういった事情を知りました。

    ーー家庭の経済事情から教育格差が生じるとも言われています。実際に感じられましたか。

    一例で言うと、塾に行かなくてもトップの成績を取る子はもちろんいるんですよ。だから塾が必須というわけではない。

    ただ、子どもたちの選択肢に差があるのが嫌だったんです。教育は誰でも平等に選べる場であってほしい。子供たちの新しい選択肢として、他に何か良質なコンテンツを提供できないかと考えるようになりました。

    それで多分、当時HIKAKINさんの動画を見ていて思ったんですけど、ここ(YouTube)に授業動画を投稿したら、子どもたちも自由に勉強できるんじゃないかと。

    すぐに塾講師をやめて、翌日には投稿を始めました。

    ーー子どもたちの反応はどうでしたか。

    一番多いのは「わかりやすかったです」っていう授業の感想。あとは「成績が上がりました」とか、「志望校に受かりました」って報告ですね。

    どんどん自信につながりましたし、子どもたちに「自分がやっていることは間違えてなかった」と教えてもらいました。

    うれしかったですね。

    絶対に成績を上げる自信がある

    ーー 一方でYouTubeの授業や教育に後ろ向きな方からすると、「YouTubeなんかで学べるのか、成績は上がるのか」という声があると思います。その問いにはどう答えられますか。

    自分は、自分の授業動画を見てもらえたら絶対に成績を上げる自信があるんですよ。だから、そこに関してはなんとも思わないんですよね。

    もちろん、(動画の)使い方のレクチャーはしなきゃいけない。なので、「あ、ちゃんと理解してないんですね。説明書を読んでください」ぐらいの気持ちです。

    ーーその自信はどこから。

    一応、塾講師としてプロの現場で3年間やってきたので授業力に関してはある程度の自信があります。

    あとは、YouTubeの授業動画は感覚で80点を超えない場合は必ず撮り直すと決めているんです。

    子どもたちに見せても恥ずかしくない動画だけを投稿している。だからこそ、そこには絶対的な自信がある、という感じですね。

    ーーまさに「動画の使い方」が重要になってくると感じました。どのように活用するのがいいですか。

    自分から(子どもたちに)伝えているのは、例えば動画の問題が10問あったら全部見るんじゃなくて、自分に必要な問題だけをピックアップして解いてごらん、ということですね。

    学校のイメージで、「授業は全部聞くもの」だと思っている子がすごく多いんですけど、そうじゃないと。自分に必要な問題だけでいい。

    子どもたち自身で、自分が分からない、自分が得意じゃないことが何かを理解して、ピックアップできるようになると、すごく主体的に学んでくれるようになるんですよ。

    ーー早送りができるYouTubeならではの使い方ですね。

    自分の動画は問題から始まるようになってるんです。

    だからまずはその問題を解いてみて、解答まで早送りする。間違えていたら、授業部分も聞いてくれたらいい。ミスった問題だけをやっていこうって。

    これは口うるさく伝えていることですね。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com / Via youtube.com

    葉一(はいち)〉1985年3月11日、福岡県生まれ。高校生の時に出会った恩師をきっかけに教員を目指す。東京学芸大学で小中高の教員免許を取得後、一般企業に就職。営業を経験した後、個別指導塾で塾講師として働く。

    2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学3年生から高校生を対象とした授業動画を投稿し、チャンネル登録者数は121万人を超える。教科は算数、数学、国語、英語、理科、社会(学年により対象教科は異なる)。

    公式Webサイト「19ch」では授業動画をはじめ、テキストの問題集などをPDFで無料配布している。