職人が作ったジオラマの世界を冒険。FF生みの親・坂口博信の新作RPG「FANTASIAN」解明インタビュー

開発のきっかけ、ジオラマ、ゲームシステム。そして、植松伸夫さんが手がけた音楽とApple Arcadeとのゲーム作りについて話を聞いた。

    職人が作ったジオラマの世界を冒険。FF生みの親・坂口博信の新作RPG「FANTASIAN」解明インタビュー

    開発のきっかけ、ジオラマ、ゲームシステム。そして、植松伸夫さんが手がけた音楽とApple Arcadeとのゲーム作りについて話を聞いた。

    ゲームクリエイター・坂口博信さんによる新作RPGタイトル「FANTASIAN」(ファンタジアン)に動きがあった。

    ゲームのサブスクリプションサービス「Apple Arcade」の専用タイトルとして発表されてから約2年。ついに近日リリースされることが告知された。

    これまでゲームの詳細は語られてこなかったが、「ファイナルファンタジー」シリーズの生みの親としても知られる坂口さんの新作なだけに大きな期待がかかる。

    一体、どんな作品になるのだろうか。BuzzFeedでは、一足先に聞いた坂口さんによる「FANTASIAN」の解説と合同取材でわかったことをお伝えする。

    ミニ スーパーファミコンでプレイした「FF6」

    「FANTASIAN」は、「Apple Arcade」専用のiOS向けRPGゲーム。前後編に分けられており、それぞれ20時間から30時間ほどのボリューム感だという。

    前半はストーリーがメインで、後半はユーザーがクエストを選んで遊ぶ自由度の高い内容になっている。

    坂口さんによると、「FANTASIAN」制作のきっかけは今からおよそ3年ほど前。かつて坂口さんが手がけた「ファイナルファンタジーVI」をプレイしたことにあるという。

    「3年ほど前に任天堂さんから『(ニンテンドークラシック)ミニ スーパーファミコン』が出たと思うのですが、そちらに『FF6』がインストールされていて、それをとある放送番組で昔の作った仲間と集まってプレイしたことから始まりました。

    だいぶ前の作品ですが、いざやってみるとやっぱり自分の原点ですし、自分自身がまだそのジャンルが好きだなってことを強く感じました。

    『FANTASIAN』も同じようにオーソドックスなRPGで、いわゆる街でNPCに情報を聞き、ダンジョンを探索し、ランダムエンカウントでターン式のバトル、というスタイルなんですが、当時『FF』でもやっていたように、その中にも新しい要素を入れていこうってことも大事にしました。

    新しい要素は2つあるんですが、その1つが手作りによるジオラマを使った映像。

    もう1つが戦闘シーンの新しいシステムです」

    エンディングを迎えた時に心が温まるような

    「FANTASIAN」の大きな特徴は、すべて手作りで制作されたジオラマの世界を冒険することだ。

    坂口さんは、映像表現にジオラマを採用した理由を「新しい映像表現への挑戦」にこだわってきたからだと話す。

    「昔からこだわってきたのは、新しい良い映像表現。その意味では今回のジオラマは、自然でもなければCGでもない、見るからに『あ、これ人が作ったよね』という独特の触感があります。

    もう1つは、今回の対象ターゲットはiPadやiPhoneなのでタッチパネルになります。それに対してガラス越しではありますが、手作りの(ジオラマ)を手で触れることに意外と親和性があるんじゃないかとも考えました」

    坂口さんはジオラマを採用した理由として、ジオラマが持つ「温かみ」への期待もあると続ける。

    「やっぱりストーリーが自分にとっては重要ですので、今回は初心に帰って、実は昔『FF』でやったようなストーリーなんですが、エンディングを迎えた時にどこか心が温まるというか、ちょっとほわっとした強い気持ちになれることを大事にしていきたかったんです。

    その時に映像がジオラマだったら、なにかしら相乗効果があるんじゃないかということもあって、ジオラマを使いたいと思いました」

    ジオラマへの細かいこだわり

    ジオラマの制作にも細部までこだわった。プレイヤーが何かがありそうだと感じたところには本当に宝箱があるなど、きめ細かく、丁寧な設計を心がけたという。

    「ゲーム中のすべての背景をジオラマで作るということで、150近くのジオラマを作りました。携わった職人さんも150人近くとなっています。

    外観をジオラマで作るのはもちろんなんですが、たとえば街の中の一部屋一部屋もすべてジオラマで作りました。

    作っていただいた方の意気込みを感じるような、頼んだ以上のディテールまでこだわっていただいたと思います」


    新たなゲームシステム

    ジオラマによる映像表現に加え、もう1つ新しい要素としてあげられたのが戦闘システムだ。

    「FANTASIAN」の戦闘はランダムエンカウントで発生し、ターン式で進行する。

    「戦闘システムは2つの特徴を持っています。1つが『エーミング』で、自分で弓を引くようにドラッグしてカーブの線を描いて複数の敵を狙う。スキルによって直線のものだったり攻撃範囲を指定したりするものもあるんですが、うまく使うとたとえば前の方にいる敵を狙わずに回り込んで後ろにいる敵を一掃するようないろんな使い方ができます」

    「もう1つが『ディメンジョン』というシステムです。『FANTASIAN』は基本的にランダムエンカウントで、エンカウントしたら戦闘シーンに飛ぶスタイルなんですが、ディメンジョンをオンにするこで別の異次元に吹き飛ばすことができます。

    その場で敵と戦わずに溜めていって、ユーザーが好きな時にまとめてバトルする形です。ディメンジョンバトルにはこちらに有利なギミック、攻撃力アップやその場で再行動とかそういったものが登場するので、うまく使うこととで程よい爽快感があるような方向でまとめました」

    「エーミング」と「ディメンジョン」という新たな戦闘体験を届ける一方で、ボスとの戦いでは戦略性の高い体験が味わえるという。

    「レベルが低くても、スキルとアイテムを活用すればうまく倒せるし、より『考える』ようなバトルに仕上げました。

    通常、企画と呼ばれるゲームデザインをするような人間がスクリプトでボスの行動を記述したりするんですが、今回はプログラマーがダイレクトに作っているのでかなりきめ細かくボスの行動がいろいろと変化していきます。

    そういう意味で、より戦略性が増した手応えのあるボス戦を体験してもらえると思います」

    植松さんが作品のすべての音楽を手がけるのは最後になるかもしれない

    音楽を手がけたのは、「ファイナルファンタジー」シリーズをはじめ、ゲーム音楽界の礎を築いた植松伸夫さんだ。

    今作に登場する全60曲の作曲を担当しているが、1つの作品の楽曲をすべて手がけるのは、今作が最後になるかもしれない。

    「音楽はやっぱりすごく重要で、今回も植松さんがやってくれて。植松さんとはもう35年ほどの付き合いになりますが、体力的な問題もあって丸々一つのゲームの音楽を一人でやるのは『今回が最後だよ』ってことを言っていて。

    もちろん作曲活動は続けていくんですが、本当にいい意味で『魂込めて作るよ』と言ってくれて。楽曲が上がってきた時は涙がでちゃうくらい素晴らしい曲を作ってくれました。

    変な話ですが、ゲームの中に組み込んだ時に、このゲーム(FANTASIAN)の格が上がったような手応えもありました。ぜひ曲の方も聞いてくれたらいいなと思います」

    以上、ここまでが「FANTASIAN」に関する情報だ。詳細なリリース日はまだわからないが、「coming soon」ということでもう間もなくであることが予想される。ゲームのサブスクリプションサービス「Apple Arcade」でプレイすることができる

    最後に、「Apple Arcade」とのゲーム作りについてはこう話した。

    「Appleとやれたことは実は非常にうれしいです。僕が学生の頃に『Apple II』に出会って、そこでゲームだけじゃなくてビジカルクとかExelの前身になるようなソフトにも出会って、ものすごいカルチャーショックを受けたんです。それから、これからはパソコンないしはゲームの時代だろうってことでゲームを作り出したという経緯があるんです。

    そういう意味で改めて自分のスタートだったAppleとこうやって組んでゲームが作れるのはグルっと回って、『あの頃……』というような気持ちもあって大変うれしいです。そんな中で『Apple Arcade』と一緒にやったという形で、今は音楽と映像がサブスクリプションの時代という風潮だと思うのですが、ゲームというのはまだどういう方向でいくのか分からない。

    Appleという巨人がサブスクリプションという形でゲーム業界に入ってくることは大きなことだと思います。次の時代に向かう風のような中に、もう一度身を置けるというのはすごく面白いですし、醍醐味を感じるような気持ちがありますね」

    「FANTASIAN(ファンタジアン)」ストーリートレーラー

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