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一歩間違えると仮設住宅に入居できない。水害後、弁護士が伝えたい10のこと

制度を知らないことで悔し涙を流さないために、いますべきこととは。2014年の広島市豪雨災害、2018年の西日本豪雨災害の被災者を支援した専門家に話を聞いた。

10月12日に本州を直撃した台風19号は、長野県や福島県、宮城県など東日本の各地で大きな被害をもたらした。

そんな中、被災から2日が経った10月14日に「水害直後 弁護士からの10か条」というアドバイスを発信した弁護士がいる。広島弁護士会災害対策委員長も務める今田健太郎さんだ。

2014年8月に発生した広島市豪雨災害、2018年7月に発生した西日本豪雨災害、2つの豪雨災害の被災者を支援してきた経験をもとに発信。「『制度を知らないことで悔し涙を流すこととなった』多くの被災者の方々を代弁する、切なる願いです」と今田さんは語る。

台風で被災したとき、どのような支援を受けることが可能なのか。またそうした支援を受けるために、いますべきこととは何か。今田さんに話を聞いた。

「水害後 弁護士からの10か条」、その内容とは。

1 土砂撤去で無理をしないで。

自宅も気になりますが、土砂は細菌も含んでおり、想像以上に健康状態を悪化させ、災害関連死のリスクを高めます。

自力では限界があるので、まずは体力の回復に努めてください。行政やボランティアからの案内を待ちましょう。

2 通帳や権利証を紛失しても大丈夫。

銀行の預金通帳や、定期預金証書、不動産の権利証などを紛失しても、財産はなくなりませんので、安心して下さい。

3 落ち着いたら、自宅の写真撮影を。

自宅の写真を、複数の角度から撮影し、被害に見合った罹災証明書の発行を受けられるようにしましょう。

判定の結果は、公的支援の内容に影響します。不服があれば再調査の申入れが可能です。

4 修理は決して急がず。

自宅の修理は、乾燥してから行う必要があります。また、災害救助法の応急修理の制度(例 /半壊以上で59万5000円までの費用補助)を使うと、原則、仮設住宅へ入居できません。慌てないで、全体の修理内容や費用面をしっかり検討してからにしましょう。一部だけの修理で、壊れたままの家に住むことを余儀なくされる可能性があります。

5 お金を払う前に、行政の窓口で相談を。

土砂の撤去や、自宅の修理につき、公的支援の制度があります。事前に役所へ相談しないで業者などに支払った場合、後から請求できないことがあるので、要注意です。必ず行政窓口で相談してください。

6 保険の内容を確認しよう。

近時の住宅保険には、火災保険に水災の補償が付いているものが多いです。また、家財保険による補填も考えられます。自分名義でなく、親族が契約している場合もあるので、よく確認してみましょう。

証券を紛失しても請求できます。自動車保険も同様です。

7 敷地内の物の処分や撤去について。

自宅に流れ着いた第三者の物や、廃棄物の処分について悩んだ場合、まずは、行政窓口や、各地の弁護士会が近々開設する被災者電話相談などを利用して、処分してよいかどうか、費用はどうするか等、相談してみてください。

また、隣家の家財やブロックなど、所有者が分かっていて撤去を求めたい場合も、すぐには解決できないこともありますので、ケンカせず、弁護士会などを頼ってください。

8 収入の目処が立たない方々へ。

水害で職場が水没した。道路が寸断されて、勤務先へ行けない。明日からの収入の目処が立たない方々に対しては、雇用保険の失業給付等、色々な制度があります。

また、雇い主側を補助する制度もありますので、少し落ち着いたら、各自治体や弁護士会の電話相談などにお問い合わせ下さい。

9 税金の減免や、教育の補助など。

大規模災害時には、各種税金等の減免や、水道光熱費の特例、教育費用の補助など、実に様々な支援が用意されています。

行政も、まだ機能していない地域もあるかもしれませんが、慌てることなく、相談体制が整うのを待ちましょう。

10 必ずや生活再建は出来ます!

今後、公的制度による給付金(生活再建支援金等)や、義援金、保険金、各種の融資制度、二重ローン減免制度など、色々な仕組みを活用することで、生活再建を図ることは可能です!高齢者の方々に向けての、修理や再築のための特例融資制度もあります。

『難しいことはよく分からない』分からなくて当然です。ぜひ、弁護士などの専門家を頼ってください。

一歩間違えると仮設住宅への入居ができなくなることも…

今田さんはBuzzFeed Newsの取材に「行政から被災者の方達のもとにたくさんの書類が届く前に、最低限の情報を届けることが必要だと考えた」と明かす。

時間が経過するほど、被災者の方のもとに届く情報量は増えていく。そうした中、避難所などで「この制度はいま使っておかなければ使えなくなる」といった噂が一人歩きしてしまい、冷静な判断ができなくなってしまうこともあるという。

例えば、災害救助法の応急修理の制度を使うと最大で59万5千円まで家屋の修繕のための補助金が支給される。家屋の修繕が必要な場合、一見この制度を使うことは合理的なように思われるが、この制度を使うと仮設住宅への入居ができなくなってしまうため注意が必要だ。

また補助を受けるためには自治体が指定する業者へ修繕を依頼する必要があり、工事できる箇所も指定されている。

こうしたことを知らずに、家屋の修繕を急ぎ補助が受けられないケースや補助を受けた後で仮設住宅へ入居できないことを知り、半壊した自宅で過ごさざるを得ないケースがこれまで実際に発生している。

「一旦、仮設住宅に入って落ち着いてから、建て替えや修繕にはどれくらい費用がかかり、指定の業者に頼むとどれほどの時間がかかるのかなどを確認する。そうやって生活再建に向けて動き始めても、全然遅くないんですよ」

「周りが〇〇しているから」で、使う制度を選ぶと危険。

「周りと比べて焦る必要は全くありません」。そんな一文を10か条の末尾に書き加えた。

「周りが公費解体をしていると解体しなきゃいけないのかなとか、周りが修理をしているからしなきゃいけないのかなとか、みんな使っている制度を使わずもったいないとか。本来、それぞれの被災状況は全く異なるはずですが、ついつい周りと比較して、情報をうまく使えている人ほど前に進んでいるように見えてしまうといったことが被災地では起こります」

ある仮設住宅を回った際には、焦りを感じるあまり体調を崩してしまった人とも出会ったと今田さんは振り返る。

「個別の事情は家庭ごとに異なるので、無料相談が各都道府県で開設されるのを待っていただいて、弁護士に頼ることをおすすめします。世帯の構成や年収、り災証明などを考慮して自分にあった制度や支援内容を提案してもらうのを待ってから、生活再建に向けて動き出しても問題ありません」

今後、弁護士の無料相談会にはどのような相談が持ち込まれることが予想されるのだろうか。

今田さんは「隣家のブロックが崩れたが、撤去してくれない」「壊れた車が放置されたままだ」「隣家の土砂がうちの田んぼに流れ込んだ」といった近隣の住人とのトラブルに関する相談が統計上は最も多いと説明する。

次いで多いのは「傷んでそのままでは住めないが、賃料は払い続ける必要があるのか」「大家が修繕すると契約上は明記されているが、災害時の修繕も大家が負担しなくてはいけないのか」といった物件の賃貸借に関する相談だ。

今回の台風19号の被災についても、同様の相談が多く寄せられることが予想されている。

わからないことがあれば、無料相談会など弁護士に相談を。相談費用は無料となっている。