愛知県で開催中の、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」でテロ予告などを理由に中止になった「表現の不自由展・その後」。その展示の再開を求めるアーティストたちによるプロジェクト、「ReFreedom_Aichi」が始まった。
クラウドファンディングを実施しながら、オーディエンスを巻き込んだ取り組みをトリエンナーレ内外で展開していくという。8月3日に同展の展示が中止されてから、こうした動きが起きるのは初めてのことだ。
9月10日にはアーティスト8名による会見が開かれ、展示の再開には「アーティストの力だけでは足りません。関係者の皆様との協力、観客の皆様との連帯によって初めて可能となります」と呼びかけた。
「ReFreedom_Aichi」プロジェクトに現在、賛同しているアーティストは35組。
閉鎖されている全ての展示の再開を目指しているが、目的はそれだけではない。会見と同時に発表されたステートメントでは、観客と協働することで「知る権利と見る権利を取り戻す」と宣言した。
活動の柱は3つある。一つ目は、展示の再開のための現実的なロードマップを策定し、県やトリエンナーレ、不自由展実行委員会と交渉を行うこと。
さらに、SNSで不自由を強いられた体験を集めたり、不自由を強いられた体験を書き記したポストイットを閉鎖された展示の壁に掲示するなど日本に限らず世界中の観客を巻き込むこと
そして、大村秀章愛知県知事が提案する日本国内外へ表現の自由の重要性を訴える「プロトコル」(「あいち宣言」)の草案作成だ。
トークイベントの開催やアーティストによるコールセンターの設置など、活動のために必要な資金を集めるためのクラウドファンディングもスタートした。目標金額は1000万円に設定されている。
表現の自由の根源が崩壊するのか。
会見の冒頭、プロジェクトに参加し、「不自由展」にも出展する映像作家・小泉明郎さんは「この5年間で美術館という空間で表現できることの幅がどんどん狭くなっていくことを体験している」と明かした。
「日本で起きているのは自主規制だ」。小泉さんは、目に見える検閲とは異なる、「検閲の主体が見えない検閲」が進んでいると問題を提起する。
そうした状況を、キュレーターとのやり取りの中で感じることが少なくないという。
「今の日本の現状において、政治性を持っている作品の展示は、面と向かって言われるわけではありませんが、美術館では出来なくなっているという状況は明らかです」
そのうえで、表現の自由は「歴史上、何百万、何千万という人の死によって」成り立っていると指摘。言論の自由、知る権利、さらには「私たち一人ひとりが自分自身の考えを自分で決める自由」につながっているとして、今回のプロジェクトの重要性をこう強調した。
「表現の自由の根源が崩壊するのか、それとも食い止めるのか、その分岐点に我々はあると思っています」
まずは自分の目で見る。そこからしか自由は生まれない
トリエンナーレに出展しているアーティスト・藤井光さんはこう一連の出来事を振り返った。
「数ある政治家たちが自分が同意しない世界観や歴史観を沈黙させるために、あいちトリエンナーレに出品された論争的な作品たちの展示中止を求め、自らの存在を大衆にアピールした」
そのうえで、現状では「憎悪や排斥の感情を政治的資源とする民族的ポピュリズム政治が芸術を制御している」と指摘。大村知事が提案する表現の自由に関する「あいち宣言」を「政治的イベントにしてはならない」と指摘した。
一方、会見では展示再開へ向けて、「トリエンナーレ芸術監督の津田大介さんとどのようにすり合わせを行なっていくのか?」という質問も投げかけられた。
「不自由展」に参加するアートユニット「Chim↑Pom」の卯城竜太さんは、「表現の不自由展は交渉のコアになる。ボイコットしているアーティストたちは不自由展の再開を絶対条件にしている」と回答。
津田さんと「表現の不自由展・その後」実行委員会、さらに大村愛知県知事の三者によるスムーズな話し合いを求めるという。仮に進展がない場合には展示のボイコット含め強硬手段をとることも辞さない構えだ。
そのうえで、卯城さんは展示の再開に向けた思いを、こう語った。
「まず自分で見て、自分で考えて、自分で知って、その中で自分で表現をして表明をする。そこからしか自由というものは生まれません」
クラウドファウンディングは 「GoodMorning」でスタートしている。また、美術館やSNS上での「Y/Our Freedom」プロジェクトも順次開始される予定だ。詳細は「ReFreedom_Aichi」のサイトで。