「現場はもうギリギリ…」新型コロナ患者増で1億8000万円の赤字→病院がクラウドファンディング開始

    守谷慶友病院は職員への看護師らへの危険手当の拡充と職員への臨時手当を支給するため、1000万円をクラウドファンディングで集める事を目指すと発表した。

    茨城県守谷市の守谷慶友病院は11月26日、記者会見を開き、新型コロナウイルス感染症に対応する看護師らへの危険手当を拡充し、職員への臨時手当を支給するため支援金を募ることを発表した。

    1000万円をクラウドファンディングサービス「READYFOR」で集めることを目指す。

    背景には、新型コロナ患者の受け入れ増加による収益の悪化、そして職員や家族に対する差別や偏見があるという。

    ここで尻込みすれば…患者受け入れの背景にあった思い

    守谷慶友病院は4月2日に茨城県からの要請で新型コロナ患者を受け入れ、4月18日にはプレハブの発熱外来を設置した。

    今村明院長によると、感染症指定医療機関でないのに新型コロナ患者を受け入れられるのか、院内でも議論があったという。

    今村院長は職員全員の話を聞き、不安を解消するように努めた。新型コロナ患者を積極的に受け入れてきたのは、地域を支える医療機関としての自負ゆえだ。

    「ここは地域の中核病院です。地域に根差した病院として存在する以上、地域の方へ健康被害をもたらすことが明白な新型コロナに尻込みしてもいいのか。ここで新型コロナに対して後ずさりした時に、胸を張って地域の医療を担っていると声を大にして言えるのか。そうした精神が原点にあった気がします」

    守谷慶友病院には感染症を専門とする看護師がいる。そのため、患者受け入れに向けた準備もスムーズに進んだという。

    増した現場の負担、院内感染で収益減に追い討ち

    ところが、病院を待ち受けていたのは厳しい現実だった。

    「病院はこれまでも常にギリギリの人数で稼働していました。新しく発熱外来を立ち上げるからといってスタッフが増えるわけでも、通常の外来を閉めるわけでもありません。それまでと同じ人数の現場に、もう1つ事業が増えた。今では看護師だけでなく、様々な部署のスタッフが体制を維持するために協力してくれています」

    受け入れを始めて以降、現場の負担は増している。同院の新型コロナ専用病床は12床。病棟1棟を新型コロナ患者のために確保している。

    これ以上の増床は困難な状態だ。現場では1割程度のスタッフがこの新型コロナ病床専属となり、治療にあたっている。

    こうした中で入院患者、収益共には減少を続けている。状況に追い討ちをかけたのが4月28日に判明した院内感染だ。

    看護師1名の感染がわかり、通常の外来や新規の入院受付、手術は一時停止に。

    感染経路も判明していたほか、日頃からの感染対策が徹底されていたため、院内での感染拡大にはつながらずに済んだが、このニュースは大きく報じられ、地域住民の足は病院から遠のいていった。

    採用見合わせ、身内の退職も

    同院の総務課長を務める岡野幸太さんは、新型コロナ患者受け入れ、院内感染の判明を経て様々な風評被害が発生したことを明かした。

    【確認されている風評被害の例】

    ・病院がコロナ受け入れ機関であることから、身内が職場で4月から休んでほしいと言われた。5月も同様に休むよう言われ、結局自主的に辞めた。

    ・院内感染の報道後、いつも利用しているガソリンスタンドで顔見知りから利用しないでくれと言われた。

    ・兼業を考えて応募したところ、院内感染の報道を理由に採用を見合わせると連絡があった。

    ・デイサービスを利用している家族が4月中は自主的に利用を控えていた。院内感染の報道後、5月からの利用再開を2週間控えるよう言われた。

    ほかにも、病院で使う物品の修理を業者へ依頼した際に2万円の「危険手当」を割増で請求された事例や、委託業者から契約解除を言い渡されたケースもあったという。

    「誰かがやらなければならない。その使命感で奮い立たせてきました。ただ、一部の心ない言動のために、いつ心の糸が切れてしまってもおかしくありません」

    風評被害に関して、同院は相談窓口を設けて職員の悩みに応えてきた。

    問題は、そうやって差別的な態度をとった人たちと病院との関係性が、新型コロナ収束後も続くことだ。「関係性を崩さないため、事を荒立てないように苦慮しながら対処してきた」と今村院長は明かす。

    赤字は1億8000万円超

    今村院長は「これらは当院だけの問題ではない」「一般的な病院含め、入院患者さんは減っている」と語る。

    会見では診療報酬の下げ幅も公表された。

    同院では前年に比べ、4月に4100万円、5月に6500万円、6月に3700万円、7月に3600万円、8月に4500万円の減収を記録している。4〜8月で1億8000万円以上の赤字だ。

    補助金などで約1億5000万円分の補填の見通しは立っているものの、「キャッシューフローを考えれば厳しい状況が続いている」。

    政府からの補助金がなければ「病院維持は難しかった」と今村院長は話した。

    「最終的に毎年の定期昇給は見送らざるを得ない状況です。また、12月のボーナスも例年通り支給することは困難な状況になっています」

    今回のクラウドファンディングで集めたお金は、医師以外の看護師や職員ら500人の賞与にあてられる。

    医師の給与体系は賞与のない年俸制のため、今回の緊急手当の対象とはならない。賞与カットによるダメージが大きい看護師や職員への支援を、まずは優先したという。

    「新型コロナの患者さんの受け入れはこれからも続けていきます。ここで止めれば、楽にはなる。でも、その代わり、うちが担っていた役割をどこかの病院にになっていただかなければならなくなります。そうした事情を無視してしまえば、医療崩壊にもつながるでしょう」

    11月に入り、守谷慶友病院のコロナ専用病床も急速に埋まり始めた。患者は軽症および中等症だが、地域の特性上、高齢者も多く介護が必要となる場面も少なくない。

    現場の負荷は増し続けている。

    「かなり深刻な状況だと言わざるを得ません。マンパワーなど含めて、もうギリギリ。そろそろ危ないぞ、というレベルです」

    こうした苦しい現状を踏まえ、以下のように訴えた。

    「最前線で治療に当たるスタッフたちの中には家族の反対を受けながら働く人もいます。入院患者さんの看護にあたる間は自宅に帰れないこともあります。そのよう中で、一人ひとりが色々な問題を抱えながら、新型コロナの治療 ・診療 ・看護に当たってくれている。僕個人は尊敬に値すると思っています」

    「これ以上、彼らの義務感・使命感に頼って今の現場を守ることは困難です。とにかく頑張っている職員に対して何かしらの応援をしたいし、何かしらの手助けをしたい。まだまだ続く第3波を乗り越えるためのモチベーションになればと思います」